グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第121回)
石川県白山山麓大雪授業

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :3月号

 平昌オリンピックの閉会式を明日に控えた土曜日にこの原稿を書いている。3月1日からの海外経営者向け2週間研修を控えているので、体調管理を行いつつ研修の準備をしているが、オリンピックをテレビ観戦しながら過ごすのはストレスマネジメントに役立った。
 日本選手の大活躍の他に、ロシアの十代選手2名の女子フィギュア金・銀メダルフィニッシュに息を飲み、女子カーリングの韓国チームのブレない強さに感動した。才能は抜群であるがあまり練習をしないと言われていたロシアの女子フィギュアスケート選手が完璧な仕上がりで他を圧倒し、また、韓国チームが、弱いとされていたチームプレイでも本領を発揮し、知的な戦略で最高勝率を収めたことが、新鮮であった。一方、日本のアイススケート・チームは、選手とコーチが徹底的にスポーツ科学の実践研究成果に基づいてトレーニングと試合運びを行い、大きな成果を挙げた。選手は勿論であるが、コーチ諸氏にとっても強い達成感がもたらされたオリンピックになったことを喜びたい。オリンピックも“ニューノーマル”の時代となった感がある。

 2月の前半は、石川県能美市にある北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)に冬季集中講義に出向いた。同時期に講義を行う日本プロジェクトマネジメント協会の三浦進理事と、2月5日に、小松行フライトで大学に行く予定であったが、北陸地方大雪で全フライトがキャンセルとなり、急遽北陸新幹線利用に切り替えた。北陸妙高駅を過ぎたあたりから強い雪となったが、灰色のなかを日本一雪に強い北陸新幹線は疾走し、金沢駅着は定時であった。途中、北陸を走る在来線の運休情報が続々と出て来て、金沢から先の行程が危ぶまれたが、運休直前となった北陸線特急サンダーバード号に飛び乗り、無事JAISTへの入り口である小松駅に着け、三浦氏共々夕方JAISTシャトルバスで大学前の宿舎石川ハイテク交流センターにたどり着いた。JAISTは白山の裾野にあるため、積雪は加賀地方の平野部の倍近くあり、それから8日間深い雪との闘いが待っていた。
 集中講義は6日から9日までが予定であったが、到着すると直ぐに大学教務係から連絡があり、豪雪により、6日の全校休校が決まった。そしてそれが3日間繰り返された。国立大学では休日は講義を行わないことになっているが、筆者も三浦氏も2月15日以降には繰り延べができない事情があり、一方学生の側にも単位取得上どうしても15日までに本科目を履修する必要がある者もおり、特例で、9日(金)開講、3連休を使い12日(祝日)に修了という授業設定ができた。

宿舎前の雪に埋まったバス停 豪雪の北陸先端科学技術大学院大学
宿舎前の雪に埋まったバス停 豪雪の北陸先端科学技術大学院大学

 JAISTの冬季集中授業は、筆者が教えているなかで、唯一、英語・日本語バイリンガルで教える科目で、講師にとって負担が大きい。同校での他の2つの授業と同じ100分x14コマで、教材スライドは英語・日本語を交互に使用、教える方も全く同じことを英語、日本語の順で繰り返す必要がある。JAISTの石川本校キャンパスは日本人と外国人学生の比率はほぼ半々であり、元々夏季は英語、冬季は日本語の科目であったが、日本語の授業でも日本人学生の履修がほとんどなくなり、一方、講義レベルの日本語は殆ど分からない南アジアの学生が単位取得の都合上冬季日本語授業を履修するようになったために、学生へのサービス精神が旺盛な筆者が事実上バイリンガル授業運営を行うと、口伝でこれがデファクトとなり、正式にバイリンガル科目となった。今回は日本語選択が日本及びベトナムの学生、英語選択がモンゴル、ベトナム、カンボジア、タイ、バングラデシュの学生であった。
 興味深いのは、単一言語で教えるのとほぼ同じ分量の教材を使うので、バイリンガル授業では、あるテーマについて情報がインプットされる時間は半分になるのであるが、結果的に学生の理解度はほぼ同じとなっている。学生に聞いてみると、全く英語、あるいは日本語が分からないとういことはないので、少し角度を変えて同じことを繰り返して説明を受けると理解が捗る、とういうことらしい。3年ほど前は、これはなかなか面白い講義方法であると悦に入っていたが、歳と共に認知力が衰えると、英語→日本語→英語とシフトする間に少しずつ記憶の断続が生じて以前のように効果的な講義が出来なくなったこと、また、なにより、同じことを何故2回繰り返さないといけないのかという自問が強くなり、バイリンガル授業は今回で最後にしていただいた。

2018年度冬季「プロジェクトマネジメント実践論・応用」履修学生と
2018年度冬季「プロジェクトマネジメント実践論・応用」履修学生と

 講師も学生もかなりの緊張感をもっての授業であったが、大学の支援も厚く12日正午に無事修了した。
 12日もフライトは欠航、関西方面に行く北陸線の特急は運休であったので、昼過ぎの金沢駅は、新幹線で関東へ、関東経由で中部や関西に脱出を試みる乗客で溢れていて指定席は到底入手できなかったが、同行の三浦氏の読みが見事に当たり、先頭車両を狙い無事自由座席席を確保できた。自由席車両は通路、デッキ共に乗客で一杯という現象を久ぶりに目の当たりにした。筆者は新幹線アレルギーがあるので90分以上は新幹線に乗らないことにしているが、今回は覚悟したせいか片道3時間でもなんともなかった。
 例年は新潟と比べて比較的積雪が浅い北陸地方であるが、今回は居座った記録的な寒波で豪雪が続き、短期の滞在いとはいえ、雪に閉じ込められる不便さを十分に体験した。数日間公共交通機関がほぼ遮断される非常事態(幸いJAISTのシャトルバスはしっかりと運行されていた)、数時間の降雪で宿舎前の歩道の轍が消えてしまう中を歩く、あるいは歩道が完全に雪で埋まり車道の端を歩行する危険、補給線が絶たれた町や大学内のコンビニからカップラーメン以外の食材が消えてしまった緊急事態、等々。
 4日間毎日朝から夕方まで授業を行うためには、照準を初日に合わせ体調と集中力を高めることが必要であるが、一日ずつ延期が決まりいつ開始できるか分からないと集中力を維持するのが困難になる。学生も同じで、卒業や進級のために単位を取る必要性、また、南アジアの文科省国費留学生は、次年度の奨学金を確保するために何がなんでもAを取る必要性があり、不安で開講を待っていたと思う。3日遅れで開講に漕ぎつけたら、全員真剣に取り組み、そのままペースを落とさずに良い成績で修了できた。
 2009年度から2年間一日講師として、2012年からは客員教授として、毎年2月に2単位科目をJAIST石川本校で教えてきたが、この講義を以てPM実践論の第2期が終わり、来年度からは、4科目から1科目に大幅縮減し英語のみの講義に変わる。三浦氏には基礎2科目を5年間担当いただいたが、これにて無事終了となった。来年は、学内教員担当の科目に移行する前に暫定策として筆者が引き続き担当することになった。
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