君たちはどう生きるか
(吉野源三郎著、(株)マガジンハウス、2017年11月1日発行、第5刷、318ページ、1,300円+税)
デニマルさん : 3月号
今回紹介する本は、色々な意味で現在最も話題性に富んでいる。先ず、この原作は1937年に新潮社から出版された古い本である。その30年後に児童文学全集として講談社が、更に1982年に岩波書店が文庫版を出版している。そして今回、マガジンハウス社がマンガ版も含めて同時出版した。それが昨年末から爆発的な人気を呼んで、マンガ版で170万部、小説版で40万部も売上げている(2018年2月現在)。何故、80年前の作品が現在脚光を浴びているのだろうか。出版元では「題名に代表されるシンプルで普遍的なメッセージが幅広く受け入れられた」という。ある社会学者は「人生100年時代で、どう生きるかは重要な問題である。定年後の不安な将来に対して、中高年の気持ちを捉えたのではないか」、更に、「1930年代後半と現代の時代感覚から情勢判断の難しさに共通の不安があるのかも知れない」と書いている。一方マンガ版は、難しい内容を和らげるストーリィ設定を工夫している。漫画家の羽賀翔一氏は、小説の情況背景が似通った東京の下町に移り住み、2年掛けて構想を纏めて完成させた作品だという。興味のある方は、圧倒的に売れているマンガ版も併せて読まれることをお勧めしたい。「君たちはどう生きるか」という設問は、年齢に関係なく老いも若きも生きている限り、その解答を模索しつつ生きていかねばならない問題である。この機会に古典を改めて読み直して、年齢に応じた読み方を楽しめるかも知れない。
主人公・コペル君 ――コペルニクス(天文学者)――
この本の主人公は旧制中学2年(15歳)の少年で、あだ名がコペル君という。この本の書かれた1930年代は、軍国主義下の閉塞感が漂う社会であった。その中で15歳の少年が学校生活から友達関係等の様々な出来事から経験を重ねていく。名前のコペル君は、天文学者のコペルニクスから来ているが、友達はその理由を知らない。コペルの命名者は叔父さんで、地動説を唱えた天文学者とは異なり普通の学生である。成長していく主人公が、物の見方や本質を見極める過程での悩みや葛藤を分かり易く身近な問題として書いてある。
コペル君のメンター ――おじさんのノートとの対話――
この本には、もう一人コペル君の叔父さんが登場する。この人は主人公のメンター(指導者というか助言者)で、色々な出来事や悩みに「おじさんのノート」に記述して答えている。物の見方について、「地球が宇宙の中心という天動説から、地球が太陽を回っているという地動説を唱えたコペルニクスの様に、自分の都合だけで捉える狭い世界から、「広いこの世の中にいる自分を見つめ直すこと」とノートに書き、メンターの心を伝えている。
著者が意図するもの ――私たちはどう生きるか――
著者は1899年(明治32年)生れ82歳没。雑誌『世界』初代編集長としても知られているが、岩波新書を創刊した編集者である。今回の本は「日本少国民文庫」に編纂されているが、当初山本有三氏(作家)が執筆予定だったが、病気で著者が代わって書かれた。この文庫は軍国主義下にあっても、少年少女に自由で進歩的な文化を伝えるために出版されたという。80年経った現在でも、文章や本質的問題も新鮮さを失っていない。だから「君たちはどう生きるか」は、現在の「私たちはどう生きるか」に置き換えて読むことも出来る。
|