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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (47)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (23)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 2月号

Z. 先月、Iさんは1月8日の検討会で、Iさんが言うところの「日本的ムラ社会」が次年度予算とそれ以降の予算案を考えると、何時までも“アベノミックス”のふくらんだ予算をあてに、計画を練ることはできない。なにか進展があるのではないかという期待論が出された。その結果はどうだったかな?

また、現在の日本の製造業等が自動車産業を除いて弱体化している話をしてくれた。その原因の多くは、企業の経営手法が「日本的ムラ社会」から脱皮できていないことを指摘した。今月はどのようにすれば「日本的ムラ社会」が改善できるか、Iさんに話を聞いてみたいと考えている。

I. 日本の経営が低落したのは経営のデジタル化という課題に直面し、前進できなかった点が挙げられます。しかし「日本的ムラ社会」にはご存知のように「ホンネとタテマエ」という優れた技があります。この特技が日本企業を弱体化させました。
Z. 「ホンネとタテマエ」とは日本人が使う特技で、なぜ、それが害を及ぼしたのかね。
I. 面白い例を紹介します。米国は訴訟社会だといわれます。子供も自己主張する時裁判をする話を聞きました。それはやりすぎだよと世界中誰でも思います。日本の企業間ではトラブルが発生した時、何をするかというと、ご接待をして、裁判でなく丸く収めることをします。実は米国の裁判も結果的には、示談でカタをつけますが、裁判では示談を有利にするためにいろいろと戦略を練ります。

高度成長期の日本の接待費の総額は米国の民事裁判での費用の半分だったそうです。この話を面白くしますと、日本の人口は当時、米国の1/2でした。この事実を文書化すると「発生した問題解決を米国企業は裁判で処理し、日本企業は相手と飲み食いし、楽しくする費用の中で解決している」とある本に書いてありました。因みに「ホンネとタテマエ」を具体化しますと、タテマエは裁判です。ホンネを彼らはストラテジー(戦略)と言っているそうです。
Z. 問題解決がすべて飲み食いで解決すればノーベル賞モノだな。
そういえば「日本的ムラ社会」が機能していた時の「ホンネとタテマエ」は官(権力)と民(金力)との戦いがあった。日本の官は戦略的に民に不便さを要求した。今も同様で、官は規制をする権限を持っている。厳しい規制は生活を不便にする。民はその不便さを解消するために、何らかの埋め合わせをするモノを提供する。戦後は食料生産に必要な諸材料を提供するために農協をつくり、農民は農協傘下に入ることで肥料、生産的用具などの便宜を得た。その見返りに農民は選挙の票を提供した。この手法で戦後のコメの生産が確保できるようになった。産業界での手法は貿易の規制だ。完全自由だと輸入品の購入者は金のある層に買い占められ、中産階層が生まれなかったことになる。この時点でのホンネは多少憲法違反に属するものがあっても、官と国民がホンネの在り方をよく理解し、成功した事例だな。

I. ところが1990年日本が製造業世界一となった時点で先進国の購買力が限界に近くなりました。そのための産業への投資先が減り、ここで金余りが起こり、日本企業は土地で金儲けを図りました。気がつけばバブルとなって大多数の大企業は倒産の危機に直面しました。この問題解決は国債の発行とその国債の取り扱い責任者をすべて官に任せたため、大企業救済に成功しましたが、ゼネコンは傘下の中小企業にすべての責任を取らせる形で終結しました。ゼネコンは救済できたが、傘下の中堅企業が存在しなくなったために、東日本震災復興基金がありながら復興が停滞しました。

Z. さて、貧困な戦後から製造業を世界一にもたらした「日本的ムラ社会」が何故機能しなくなったかが問題だ。
I. この時代から「タテマエとホンネ」の使い方が悪い方向に転換してしまいました。その最大の要因はインターネットの普及に起因します。第二の要因は「日本的ムラ社会」の権力構造のあり方に問題があります。
Z. 日本と海外の組織体の相違は何かあるのかな。
I. 終身雇用法に起因します。
昨年6月に幸福「資本」論という本(著者橘玲)が出版されました。この本は地方再生にも役に立つ本だと思って読んでいたところ、今のご質問に類似する内容が書かれていましたので紹介します。
『人事部は見ている』の著者楠木新氏はさる大手保険会社で人事、労務、経営企画、支社長を経験した後サラリーマン勤務のかたわら「働く意味」をテーマに取材と執筆をはじめました。その中の「サラリーマンという生き方」という章を紹介します。
サラリーマンは「仕事で自己実現を目指してはいけない」
理由: 会社が求めているのは社員の「能力」ではなく、「組織の中で長く働けるか」です。
大企業の採用責任者が見ているのは、「興味の持てない仕事、裁量権のない仕事、希望していない地域での勤務」を命じられても、組織のなかで、縁の下の力持ちの役割を果せるかどうかを問題視し、有能でも個性的な人材は選考から外しているとのことです。彼に言わせると「日本の会社という摩訶不思議な組織を最底辺から観察すると、世間一般に流布する誤った常識(きれいごと)から自由になり、世界で日本にしか棲息しない、“サラリーマン”という「希少種」が日本の組織の実態だということです。
Z. なるほど、言われてみると現実は綺麗ごとではないから正しい見方かもしれない。
I. 私が常に観測していた「日本的ムラ社会」とは、最盛期の組織ではなく、綺麗ごとを除いた組織で、これが現実なのかもしれません。
Z. ここで欧米との組織の形態の相違を教えてくれないか。
I. 欧米の会社の人事システムは『ジョブ型』で、日本の会社は『メンバーシップ型』だという大きな違いがあります。
『ジョブ型』は「職務(ジョブ)」を基準に仕事が成り立っている組織です。人事部は経営者が決定したビジネス戦略に則り、必要なジョブを補充し、不要なジョブを削減しますが、社員の職務間の移動は原則としてありません。営業が不足すれば市場から適任者を募集します。その一方、間接部門で人材の余剰があるとリストラし、適正な規模に戻します。ジョブ型の特徴は、仕事に必要な能力や資格が厳密に決まっており、その基準にクリアする労働者ならだれでも代替可能なようにマニュアル化されていることです。中国やインドなど新興国に同じ能力・資格の人材が集まっていれば工場ごと移転するのがより合理的となります。

『メンバーシップ型』はメンバーを中心に仕事が成り立っている会員制組織です。そこでは正社員、非会員の身分が厳密に定められ、正社員には組織(イエ)の仲間と和を保ちながら、あらゆる職務(ジョブ)に対応できる能力が求められる。しかしその能力はその会社に特化しているため汎用性がなく、転職できません。そのため自らの能力で社会的評価を得られないため、会社は終身雇用と年功序列という形式でその償いをしています。
Z. 両者を比較すると一長一短があるが、世界的に見ると、同一ジョブで、差別賃金はILOから身分差別の指摘を受けるとう継続できるか疑問視もされているが、もっと重要な問題が残されていそうだな。
I. さすが慧眼の持ち主は違います。その通りです。
日本の大企業が『メンバーシップ型』を維持できたのは、人脈経営だったからです。日本人が東大入学を望むのは「産・学・官」間の東大人脈による関係性が日本政界、学界、財界を支配してきたからです。東大の人脈はビジネス能力によるものではなく、東大という集団の最高知識という看板が政治権力を構成できたからです。日本がグローバル世界に関与しなければ東大閥はこのまま安泰でした。

しかし、人脈を主とした集団がグローバルに勝てる何かを持っているかを調べると、現在は皆無です。現実に東大卒がビジネス社会で優秀でないことが証明されています。偏差値だけが高くて、東大出というプライドが高い。プライドの高さは逆に、人間的な実力を育成しません。そのため現実的に人を動かすことができません。しかし、国家権力を背景にされると反論できません。官からの研究プロジェクトは官の要求事項が無理難題でも実行し報告書を作成します。しかし本当の研究計画、研究成果は別につくります。これでは膨大な予算が死に体で使われています。そのため日本の会計審査は研究の成果を要求しません。お金が不当に使われたかを調べるだけです。その結果官の研究所で上げた成果から国に治めた税金は皆無にちかいという報告を聞きました。一方米国の大学は研究が成功しないとその学科がなくなります。
東大が尊敬されていた時代は知識を持っていることに価値があった時代でした。いまや、グーグルを見れば、東大での知識より多くを習得できます。ビジネスで大切なのは、知識ではなく知恵ですし、状況判断力で、知識とは別の能力です。日本人の戦略家が戦争やビジネスで失敗しているのは、知識としての戦略を実施するからです。成功したビジネスオーナーが持つ、そのビジネスにとって重要不可欠な情報を入手できる能力と実行する時のタイミングという感が成功を促す知恵を生み出します。その意味で「日本的ムラ社会」の経営者は賢く失敗しないことを試み、冒険をしません。

Z. その意味で現在の日本の地方創生では新しい発想が生まれていないことを言いたいのだな。政府が提案した“アベノミックス”で成功したかに見える市町村もあるが、“アベノミックス”の予算がなくなれば再生委員会が解散することになりそうだな。
でも、Iさんがいう「日本的ムラ社会」の現実的内容が理解できてスッキリした。
I. 多くの“アベノミックス”利用のプロジェクトは小さな成功で終わり、維持管理は難しい可能性が高いと思います。
1月8日の検討会で、相変わらず新しい展開がありませんでした。
しかし、まだ、小さい希望を持っています。
次回説明します。

以上

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