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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (46)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (22)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 1月号

Z. 読者の皆さん。新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
 この欄:「日本再生“アベノミックス”を成功させるために何が必要か」は46回となり4年近くになる。長くなって話の筋が見えなくなっているので、ここでおさらいすることにした。
 まず、このコーナーは長年戦略問題を取り上げ、現実に実施されているテーマを解析し、客観的に問題点を指摘し、効果的な使い方への提案を主におこなってきた。

 ところが今回は、客観的ではなく、戦略の専門家が、地域行政が企画した地域再生協議会の人員募集で採用され、内部から見た戦略実施の体験談を書いていることだ。しかし問題は簡単でない。地方行政の進め方とIさんが学び実施してきた戦略的手法に大きな相違がある。Iさんは意気揚々と効果的と思われる戦略を提案したが、即座に没となってしまった。理由は簡単である、この協議会はすでに5つのテーマが終了に近く、変更ができないこと、残りのテーマも大げさなものを避けたいとの意向が幹部にあった。協議会幹部とすると初めての経験でありとりあえず、花の咲くプロジェクトをまとめることに専念する方針を固めていた。

 Iさんの発想は町が提出した総合戦略案を学び、その趣旨に沿って、幾多の課題を発見し、課題解決への提案を考えた。それはこれまで行政では手を付けたことのないテーマであった。“アベノミックス”は端的に言えば金を稼げるプロジェクトの提案を求めている。それに反し、行政は金を稼いだことがない。稼いだことがないから民間人を集め協議会をつくった。しかし協議会は行政の意向をもとにテーマを選び組織したから、すべての案件は行政の縦割り組織に組み込まれてしまった。結果的に収益をあげるテーマをつくることができなかった。しかしありがたいことに日本人はモノづくりが好きである。協議会はモノづくりのテーマをこなしていった。
  
 話は変わるがP2M研究会の戦略テーマは経営のデジタル化であった。2000年以降インターネットの普及によって経営の在り方が米国で大きく変わった。いわゆる経営のデジタル化である。デジタル化経営で米国の企業のサービスに対する生産性の向上が見られた。また意思決定が限りなく早まった。これを経営のデジタル革命と呼んだ。
 Iさんは経営のデジタル化の研究を行い、すでにオンラインジャーナルで発表している、日本も遅ればせながら経営のデジタル化を試み、米国企業が採用しているデジタル経営のソフトを導入し、大いに気勢を上げたが、社内の評判がわるかった。日本の稟議制度とデジタル経営が調和しないのである。仕方なく米国のIT経営ソフトを改善して、日本式アナログ経営に戻されたが、表向きはデジタル経営を装っていた。
 Iさんはこの問題点を追及し、問題の本質をつかみ、これを報告してきた。問題点はIT部門にではなく、経営者にあった。経営者は新しい経営の在り方をITソフトに委ねた。そしてその責任者としてCIOを決めた。経営者はCIOに経営を委ね安心していたが、CIOはITの知識はあるが経営の在り方をよく知らない。経営を知っているCIOはITを全く知らないということで、IT経営は混乱を極めた。そこで経産省は経営のデジタル化として経営者が経営のビジョンをCIOに伝え、IT化を進めることを義務付けた。残念ながら経営者はビジョンすら提供できなかった。しかしこの日本的経営組織は、米国の優れたITソフトを取りやめ、ITソフトをアナログに変革し、アナログ経営に戻したが、建前上IT経営を標榜しているに過ぎない。日本企業はこの時から世界の変化に対応できなくなった。結果として製造業が自動車を除いて破たんを見せ始めた。

 Iさんはその理由を研究した。製造業世界一となった日本企業の組織は基本が階層組織の経験豊富な長が責任をもって決めてきた。そして未経験の問題は全員参加で承認するという稟議方法を採用してきた。世界がデジタル経営にかわって、変化のスピードが速くなり、稟議方式は世界の変化に追従できなくなったが、日本の組織は旧態依然であった。Iさんはこの現象を捉えて、日本的ムラ社会現象と名付けた。

 そしてこの日本的ムラ社会は、変化の激しい昨今のテーマを採用する際、経営責任を守るために全員参加で調査に応じ、「当該最新案件をリスクマネジメント的に検討し、その結果を採択する」ことを決めた。結果として新規アイテムの採用が見送られるようになった。P2Mによるリスクマネジメントは有望案件を採用するに際し、プロジェクトの進行の中で、リスクを縮小化しながら進める手法を採用するが、ここではリスクマネジメントを過大化して、不確実性案件を没にしてきた。(報告済みである)。また、IT経営の米国的なプロジェクトの発足にあたり、経営者が明確なビジョンを与えてきた。そのためプロジェクト進行中の変更が少ないことが分かった。そこで経産省関連の独立行政法人IPAはITプロジェクトの立ち上げに際し、経営者のビジョンの提供を義務付けているが、現実は実施されていない。

 Iさんはこれらの研究の成果として、従来からの組織運営の在り方を「日本的ムラ社会」手法と称して問題点を指摘している。これは、IT企業だけでなく、すべての日本的組織はIさんが言う「日本的ムラ社会」の法則に従って動かされている。戦後の日本企業の成長はこの「企業にとって都合のよい日本的家族主義的組織が世界一への道のりに貢献してきた。労働組合も敵対関係でなく、家族的関係の中のコップ内の嵐に過ぎなかった。この時代はグローバル社会の劇的な発展がなかった。今はこの劇的な発展に追従できなければ、シャープ的な敗北を喫することが見えている。そして今の日本的ムラ社会は機能しなくなっているが、組織内の人間にとってこの組織に逆らえないことに問題がある。

 Iさんがこだわっているのは、再生協議会に本来のビジョンがないことであるが、この問題をIさんから聞いてみたい。

I. 読者の皆さん、おめでとうございます。私のエッセイをお読みいただきありがとうございます。
 私のエッセイの中で“日本的ムラ社会”の行動原理につき云々言っていることに腹を立てている方も多いと思います。それは私たち自身が日常行っていることだからです。近々の事例をみると、日本的ムラ社会の人々の意見がテレビでうごめいています。大相撲の暴力事件です。日本人全員が評論家になって意見を言っています。多くの見識者と称される人の標準的な発想は、①暴力沙汰は悪い。これは明確です。次の問題は見識者も、お笑いタレントも言っていることで「なぜ貴乃花は協会の規則に従わないのかという」ことです。ことの是非と関係なく規則破りを重要視し、そのことへの批判が大きいことです。

 私が感じている日本的ムラ社会の習慣がここに現れています。そして処分されても仕方がないと思い込んでいることです。
 貴乃花の代弁をしますと、大相撲にとって一番困難な問題があります。それは星のやり取りの問題です。何の証拠もありません。この問題を真摯に受け止めているのがまじめな貴乃花親方です。親方は気軽に他の部屋の人間と付き合うことを禁じています。“李下に冠を正さず”という格言を実行しています。基本的に物申すならば、白鳳は他の部屋の力士を呼びつけて、お説教する権限はないはずです。そのことが第一です。第二番目は貴乃花がとった対応ですが、警察に届けを出し、中立な立場で報告書を提出するということは正しい見上げたやり方です。親方は弟子の味方になって状況判断を誤るのが普通です。ある場合は示談で高い損害賠償を要求することもできます。それを現場にいなかった貴乃花が身びいきな意見をいわなかったことは正しいと思います。
 相撲協会はことの決着を急いでいたようですが、思い付きや、悪意をもった意見を採用するより、急がず正確な判断待ちが求められてしかるべきと思います。

 では私が“日本的ムラ社会”に注意を払っていることを申し上げます。私たちが働いている業界はプロジェクトマネジメントが最大の武器の一つだからです。そしてこだわっているのはマネジメントという業務の内容です。私たちが官の仕事をするとき感じるマネジメントは仕事の中身ややり方をマネジメントするのではなく、人の管理が目的になっています。

 欧米の企業と仕事をするとき、話し合うのは、ビジョンや戦略、業務の内容で、白黒をつけています。日本の組織だけが人を管理するというご都合主義がまかり通っています。ボスの都合に合わせた仕事のやり方で、グローバル競争力が増すとは思いません。

 私は貴乃花とは違いまして、今回不徳にも日本的ムラ社会的やり方に迎合しました。この判断で6つある部会の1部会の責任者に選ばれたからです。理由はビジネスの世界でない中で、ビジネスの論理を持ち出すと話が壊れるからです。しかし、成功から遠ざかる場合が多くなります。

 私はこの仕事の先輩格である、幹部諸氏のご意見を入れ、プロジェクトを進めました。その結果住民に喜ばれたことは事実で、この対応が必要だったのかもしれません。最近はこだわりを捨てることにしています。私はここで幹部諸氏に来年度以降の現状プロジェクトの維持管理の可能性について質問し、その対策を練ってもらいました。答えは“アベノミックス”でついた予算を有効に使うというものでした。

 私は幹部諸氏の意見に従いながら、この町の住民、行政の実力を確認して歩きました。この再生協議会のメンバーの能力は高く、また老人会のメンバーの実行計画を見ていますと、町内運動会、芸能大会、旅行会の運営等に関し、動きが機敏なことを見て取りました。

 そこで、1月8日に年度末までのしごとのやり方を決めること、来年度予算確立と維持管理の継続性への有効な挑戦案の検討をします。
 もし、メンバーが新しいプロジェクトの創出を考えたいと思えば、価値創出の種々の手法を提案し、彼らに考える幅を広げてもらうことも考えています。
 この検討で何か成果を出せるなら、日本的ムラ社会という緩い動きの中から何か新しいものが生まれるかもしれません。私たちはあらゆる可能性に挑戦することを恐れないで進めてみたいと思っています。これからもご協力よろしくお願いします。

以上

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