理事長コーナー
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「IoT元年」の夜明け

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :1月号

 新年にあたり、皆様のご多幸と繁栄をお祈り申し上げます。

 昨年のPMシンポジウム2017は20回目の記念すべき大会でした。そのテーマは、「次世代への共創~イノベーションを支えるプロジェクトマネジメント~」で、過去最大の参加者数にて無事終了することができました。一重に皆様のご支援の賜物であると感謝いたします。今年も引き続きPMAJの活動に参加され、また、ご支援いただきますようお願い申し上げます。

 この20年をプロジェクトマネジメントとプロジェクト遂行面から振返ってみると、ITとInternetの発展と普及が、情報・コミュニケーションのインフラとして大きな影響を与えた。20年前、建設用設計図でA0サイズ等の大型紙コピーは青焼きがまだ残っており、大量にコピーを依頼するとアンモニアの匂いがかすかにする青焼きの束が届けられたことを思い出す。コンピュータ利用も、大型機利用の順番待ちが、一人一台のPCが実現し変わった。PCのOSは、Windows95/98/NT/2000と次々と移り、便利さを実感した。通信面でも大きく改善した。当時のWEBブラウザーには、“ネットスケープ”や“モザイク”があった。今青焼きやモザイクと云っても知らない人が増えているのではないか。その Internetが、今はあらゆるモノに繋がるIoT(Internet of Things)として、新たな展開が期待されている。今年は、IoTが本格的に展開する「IoT元年」だそうだ。

 IoTと共に注目されているのがAI(Artificial Intelligence)とビッグデータである。新聞、雑誌では、しばしば IoT、AI、ビッグデータが、「3点セット」として併記されている。あえて人間と比較すると、 IoTはセンサーである五感・神経系であり、AIは知能・知性で“頭脳”だろうか。ビッグデータは環境に混在する大量データである。最新の人体の研究では、すべての器官はそのモノ自体としての単独機能のほかに、他のすべての器官と人体ネットワークにより結ばれて、それぞれの器官ごとに何らかの影響を与え合い人間が人間として機能している。そして、どの器官も一つとして不要なモノはないと云われている。人を介さない完全自動の場合では、「3点セット」が一体で発展して、初めて有益だと類推できる。無人の自動運転、自動通訳、自動旅行ガイドなどが近い将来実現するだろう。その際には、頭脳としてのAIがしっかり機能し、神経系や手足であるIoTが研ぎ澄まされ、コンテンツの蓄積と充実化があってこそ、「3点セット」は“無用の長物”や“蛇足”だと云われないであろう。

 PMシンポジウム2017で講演頂いた松原仁教授(はこだて未来大学、兼副理事長)によれば、「AIは、第3回目のブームを迎えている。第1次ブームは、ダートマス会議(1956)でAIと命名されて始まった。機械翻訳が期待されたが、実用化にはほど遠く10年ほどでブームは去った。第2次ブームは、70年代後半にエキスパートシステムの開発の部分的成功により訪れたが、注目されたニューラルネットワークを活かし切れずに、結果としては、同じ10年ほどで期待はずれに終わった。第3次ブームの今回は、このニューラルネットワークの階層を更に深くするディープ・ラーニング技術が進化した。チェスからはじまり将棋、囲碁において、AIが世界一のプロを打ち破る事が相次ぎ、ブームに火が付いた」。

 これら囲碁などのAIの適用は、用途が特定された単機能だ。他用途には適用できない。単機能AIには、かな漢字変換、手書き郵便番号の自動認識、スパムメールの判別、顔画像検出などが既に実用化されている。これらを林晋教授(京都大学文学研究科)は、「ガンダムのようにパワードスーツを着用した人知で、AI“強化された知能Augmented Intelligence”である。(以下、通常のAIと区別して“AI-2”とする)。ある特定の分野にだけを強化する目的で特化した“パワードスーツ着用”知能だ」という。松原教授も、「実は、AIは今でも(人工知能)学会で定義されていない。そもそも、“知性”や“知能”自体も定義されていない」と言われるから意外だ。「第3次ブームはブームで終わるのではないかと危惧している」。また、多分野への拡大適用に関する専門家の意見でも、AI自体の大きな技術的進歩はなく、コンピュータの処理能力が向上し、ビッグデータの活用が違う程度だから、あまり期待できないとされる。

 ブームはある期待の閾値に到達しない期間が続くと話題に上がらなくなり、ブームは去る。定着してあたり前になり、実用化され話題とならないこともある。子供や若い世代が、SNSや検索をどのように駆使しているかは具体的には解らないが、スマホを操る“指付き”は到底まねできない。彼らに限らず、スマホは多くの人にとって手放せない生活必需品になってきた。間違いなく現代社会の一部分を形造くっている、スマホに代表されるITが、彼らの生活を変えてしまった。明らかなイノベーション*)であり、“AI-2”の応用である。

 家電機器にもこの“AI-2”が取り込まれている。最近話題のスマートスピーカ(Google HomeやAmazon Echo等)は、スマート度を試してみるとおもしろい。からかい甲斐がある。照明やテレビのオンオフも実際に使ってみると便利だが、使い慣れないせいか、奇妙な感じがする。これらはすべて、“AI-2”が組み込まれたIoTデバイスである。多くの家電や住宅機器も人が語り掛ける双方向相談型になってゆくであろう。IoT、AI、ビッグデータが家庭をはじめとする社会に定着し始めている証左である。

 このような新たな環境におけるプロジェクトやプロジェクトマネジメントも、遠からずイノベーションが生じ、変化が起きる予感がする。プロジェクトで適用する各種マニュアル、標準・規則が対話型デバイスとPCの組み合わせとなり、承認事項も、“AI-2“が状況を的確に判断して行うかもしれない。PCも、現在AIと云われている機能をOSとして取り込むかもしれない。誠に興味が尽きない。これらすべて社会が変りはじめる兆候であり、いわゆる“デジタルトランスフォーメーション”である。確かに、今年は、「IoT元年」であるかもしれない。

以 上

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