理事長コーナー
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思いこみを修正すること

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :12月号

 体育の授業でサッカーを取上げる中高校は多いが、ラグビーは少ない。政府統計の「総合窓口(e-Stat@2017.11)」によれば、現在の日本のサッカーの競技人口は約640万人で、各種スポーツ競技の中で第11位だ。簡易表には第20位剣道の約77万人、第21位柔道の約60万人までの記載があり、ラグビーの競技人口はそこにはない。この競技者人口からも、その人気のなさや中高の授業での採用高の少なさが推測できる。しかし、前日本ラクビー代表ヘッドコーチ(現在、イングランド代表監督)エディ・ジョーンズ氏に率いられた日本チームが強豪の南アフリカを破った快挙で(2015年9月19日)、その人気があがったことは間違いないであろう。

 その彼が、2019年秋に日本で開催予定のラグビーワールドカップにイングランド代表チームを引き連れてやってくる。日本代表ラグビーチームの現課題について、朝日新聞に彼のインタビュー記事がある。(2017年11月9日東京版朝刊21面)その中で印象に残った言葉がある。一つは選手の指導法、もう一つが日本としてやるべき事である。

 前者の選手に対する指導は、「型にこだわらないアンストラクチャーからの攻め」とある。‘アンストラクチャー’はなじみのない言葉なので解説がある。‘型のない状態’だという。柔道でも茶道でも、初心者が覚えさせられるのは‘型’である。幾度も、幾度も、繰返えし、身体で覚える。その型の習得の先に、自ら生み出す創造的な強さ、美しさがあるという。この基本的な初期トレーニングに耐えた先に自分を磨くという段階が来るという考え方だ。エディ・ジョーンズは、その型を意識的に超越して、‘型のない状態’に達することで、創造的な攻撃ができると云っている。

  彼の言葉をまとめているサイトから以下にポイントを6つまとめてみた。
1 ) マインドセットを変える
2 ) 長所を知らしめ、長所を伸ばす
3 ) 自分の能力を客観的に把握する
4 ) 科学的なトレーニングを繰り返す
5 ) 常に知的好奇心を怠らず自ら考える
6 ) 目標設定は明確にする
(参照:ハーバー・ビジネス・オンライン@2015年09月21日)

 最大の難題は、1 )の思い込みを変えることであったと推測できる。いわく、「(日本人は)小さい、体力も腕力もない、自分の実力を低く見積る、結果、戦う前から負けを認めてしまう」ことを変えるとある。(同、前参照)そのために基礎体力をつけ、基礎練習の繰返しに注力した。限られた試合時間内では、技量と体力を気力がカバーすると解釈できる。前述の6項目を含めて、これだけでは良くある教養本の見出しと変わらない。しかし、彼はこれを繰返し、繰返し話し、説得し、課題を設定してトレーニングを行わせ、そして、結果を出して、自論を証明した。

 問題は、この‘アンストラクチャー’状態からの攻めは、日本選手が苦手とすることだ。彼は、その第一歩として‘選手の身体能力を計り知れないほど向上させる’必要性を説き、選手は従った。これは通常難しい事だ。これを克服した要素の中に、エディ・ジョーンズの容姿があると思う。一言で印象を述べるとすると、‘愛嬌のあるお坊さん’のようだ。笑顔を絶やさない容貌に、かわいさを感じる。本質を付くと思われる鋭い指示や叱咤も、この笑顔に言われるとやらなくてはしゃあないな!となったのではないだろうか。

 最後に、彼は来年のサッカーワールドカップに、人口わずか30万人のアイスランドが初出場を決めたことに触れている。30万人といえば、日本の人口を少な目の1億2千万人としても、400分の一の人口比の国である。「国内で育成システムを(計画的に)整備し、幼いときからサッカーに親しみ、プレーすることへの渇望、向上心を植え付けた」とある。‘渇望’も‘向上心’がキーワードだが、いずれも気持ち、やる気、こころの問題だ。上記の6項目と関連する。一方、日本の格闘技では、昔から「心・技・体」のバランスの良い獲得が重要だとされている。このことや、アイスランドが行ったことは、すべて同じ事である。選手を動かすこととは、プロジェクトマネジメントに通じる。興味深い話題である。

以 上

注 1 : 「自律性はPMにとって必須要素だ@2017年4月号」でも、エディ・ジョーンズに触れている。
注 2 : 競技人口 出典 : 政府統計の総合窓口(e-Stat)

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