PM Networking
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PMI®世界大会2017にみる最新動向と、
リスク基準プロジェクト価値(RPV)理論の提案

日揮(株) 佐藤 知一 [プロフィール] :1月号

 去る2017年10月末、米国シカゴで開催されたPMI® Global Conferenceに参加し、講演発表を行った。60カ国、約3千人の参加する大イベントである。米国PM界の最新の動向はどうなのか、この目で見る良い機会であった。
 大会の教育セッションは、大きく(1)プロセスの改善、(2)コミュニケーションと組織、(3)意思決定と問題解決、(4)PMスキル向上、(5)ビジネス戦略と働きかけ、の5分野である。このように米国PM界の関心の中心はPMのソフト・スキルらしい。ハード・スキル系の講演は少なかった。(ちなみに「ハード・スキル」とは、PERT/CPMやEVMSなどのような計量的技術で、座学研修で取得可能なスキルである。「ソフト・スキル」とは交渉力や問題解決力など、座学のみでは得にくい属人的な能力を指す)
 今回はAgile関連の話題もわりと多かった。9月に発表されたPMBOK® Guide 第6版も、Agile Practice Guideがセットになっている。現在のPMI®の関心が、IT業界中心になってきているためだろう。また、デザイン思考に関するセッションも何件かあった。PMの問題意識が、”How”(do things right)から、”What”(do right things)へシフトしている現れのようだ。米国では、ハード・スキルを中心としたPM実務手法の普及は一巡して、よりソフト志向が強まっているらしい。
 しかし本当に、ハードなPM手法論の開発は、完成しているのだろうか?わたしにはまだ未開発に思える分野がある。それは「プロジェクトの価値論」である。プロジェクトの意思決定とは、複数の選択肢の中から、最も価値の高いと思われるものを選ぶ行為だ。だが、NPVやROI、Real Optionなどの経済評価手法は、プロマネの実務段階の悩みを、あまり救ってくれない。
 わたしがPMI®世界大会で発表した、"Decision making with Risk-based Project Value (RPV) analysis and activities’ value contributions"(「リスク基準プロジェクト価値とアクティビティ貢献価値に基づく意思決定」)とは、その問題に答えの一端を与えるものだった。
 紙数に限りがあるので、ごく簡単なケーススタディで説明しよう。いま、あるところに技術者とセールスマンがいて、ガレージカンパニーを設立した。技術者は新発明のアイデアを持っており、わずか20万円相当の部品材料から「画期的な新製品」を作れる、という。ただ、実際にうまく作れるかは五分五分だと思っている。セールスマンは新製品を100万円で売れると、9割方自信を持っている。販売経費は足代や電話代だから、ゼロとみなそう。

ある新製品開発プロジェクト

 新製品製作と販売の2アクティビティからなる本プロジェクトに、下記の疑問が浮かぶ:
( 1 ) このプロジェクトの価値は現在、いくらか?
( 2 ) 無事に新製品を作り、顧客に売れた場合、技術者とセールスマンの貢献は、どちらがどれだけ大きいか(=つまり、収益をいくらずつ配分すべきか)?
( 3 ) 新製品を作り終えた段階で、プロジェクトの進捗率は何%だと言うことができるか?
( 4 ) このプロジェクトの価値をさらに上げる方策はあるか?
 わたしの提案するRPV理論を用いると、上記4つの問いにすべて数字で答えることができる。答えだけ書くと、(1)プロジェクトの現在価値=25万円、(2)技術者:セールスマンの貢献=45:10、(3)進捗率=81.8%、そして(4)40万円の部品材料代を用意し、技術者に2度試行を許せば、プロジェクト価値は2.5万円増大する、である。計算のプロセスにご興味がある方は、拙著「リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントの研究」(静岡学術出版)を参照されたい。
 モダンPM論は、半世紀前に米国で、PERT/CPMの考案からはじまった。それはプロジェクトを複数のアクティビティからなるネットワークととらえる、システムズ・アプローチの産物であった。これが後に、WBS、EVMSと発展して現在の手法を形成したのである。上記のRPV理論もまた、その延長線で発想したものだ。
 人間力に近いソフト・スキルも大切だろう。だが、まだプロジェクト価値論という、未開の沃野が残っている。こうした分野に興味を持ち、世界に問う仕事をする有志を求める次第である。

(参考サイト)
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