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「グローバルPMの潮流=80年代の日本+α」

小原 由紀夫、PMP® [プロフィール] :11月号

(はじめに)
 私は、米国PMI®(Project Management Institute)グローバル会議北米大会に2012年から5年連続参加しています。最初の頃、北米のPMは契約に基づいて指示することを前提に聞いてしまったため、内容を理解できませんでした。1980年代の日本をベースとして聞くと、全て理解できました。グローバルPMは、1980年代の日本を見える化して進化させていると考えてよいと確信しました。グローバル会議について1980年代の日本と比較して考察していきます。

1.グローバルPMの潮流の分析
1) 共通課題
 グローバルPMは3つの共通課題を持っています。
a ) 不確実性の高まり:誰も完璧な答を知らないことが増えています。不確実性を受け止め、対応する必要があります。
b ) スピードへの対応:より早い決断が求められています。網羅性を高めるだけでなく、優先順位の高い点だけを早く提示することを優先することに対応する必要があります。
c ) 多様化の必要性:不確実性が高まることを優先順位の高い点だけで決断するため、様々な専門的視点が必要になります。

2) セッション分析
 2015年大会には、60分から90分のセッションが116あり、タイトルのキーワードで以下の表のように分析しました。1項から5項までのセッションが3分の2を占めますが、日本のPM大会ではあまり取り上げられないキーワードです。

セッション分析

3) グローバルPMの注目するテーマ
 上記表の1項、2項から4項、5項のキーワードについて、グローバルPMが注目する3つのテーマに集約した分析を以下に示します。

a ) アジャイル(1項)
 アジャイルは、優先順位の高いモノを利用者と開発者が融合して必要な時に提供することにより、3つの共通課題に対応します。PMI®は、アジャイルに力を注いでいます。その一つとして、PMP®と同様にPMI®認定アジャイル実践者(PMI-ACP)として1万人以上を認定しています。しかし、日本人は20名程度であり、日本では認知が低いです。
b ) 戦略-変革-組織(2項から4項)
 戦略を実現するために組織の縦の連携に、ポートフォリオ、プログラムマネジメント(PPM)を活用しています。また、1点目のアジャイルと統合したSAFe(Scaled Agile Framework)を経営ツールとして、戦略的投資、複数チームでのリリースとアジャイルチームを連動させて実践しています。参照  リンクはこちら
c ) チーム(5項)
 PMが契約に基づき、指示するだけでは、3つの共通課題(不確実性、スピード、多様性)に対応できません。多様な専門家であるメンバーに内的動機付けを喚起することが必要となります。そのため、サーバントリーダーシップや感情に注目しています。

2.グローバルPMの背景
 グローバル会議で議論する基盤はPMBOK®ですが、リスクと組織の認識に特徴があります。
a ) プラスのリスク(PMBOK®第11章)
PMBOK®には2000年版以降、リスクにはプラスとマイナスがあると明示しています。グローバル大会では、不採算に繋がるマイナスのリスクについて議論されますが、成長に繋がるプラスのリスクをより議論します。プロジェクトの持つ独自性の中のプラスのリスクを最大化することがPMの価値をより高めると考えています。

b ) マトリクス組織(PMBOK®第2章)
組織の横の関係として部門を横断するためのマトリクス構造と、その中でスポンサー、兼任するメンバーとその上司のプロジェクトへの影響を明示しています。ステークホルダーが多様化していくため、プロジェクトはマトリクス組織の影響をより受ける環境になっています。

3.1980年代日本との対比
1) アジャイル~日本生まれ、アメリカ育ち~
 アジャイルは、日本の1980年代の考え方とチームをベースとしてXPなどの最新IT技術と融合してアメリカで育ちました。

1980年代日本との対比

2) グローバルの進化に関する考察
 アメリカを中心としたグローバルは、1980年代は、自分の担当のみに注目するサイロから、1990年代はマトリクス組織、2000年代はPPMを採用し、2010年代は日本で生まれたTPSとSCRUMに進化してきています。

3) グローバルPMと1980年代の日本の考察
 1項で示したグローバルPMの潮流は、1980年代の日本とそれに付け加えるプラスアラファにより構成されることを以下に示します。

a ) アジャイル(1項)
 3-1)項に示すとおり、アジャイルは、1980年代の日本で実践していたTPS/SCRUMをベースとしています。プラスアルファは、ICT技術のXPです。

b ) 戦略-変革-組織(2項から4項)
 1980年代の日本は、長く同じ企業文化で活動することにより経営層から現場までハイコンテキストでコミュニケーションできる、あうんが醸成されていました。プラスアルファは、複雑性と変化が増加した組織と戦略に対応するためのポートフォリオ、プログラムマネジメントです。

c ) チーム(5項)
 日本の文化に基づく、あうんでコミュニケーションしていました。プラスアルファは、多様性が増加したマトリクス組織に対応するためのクロスファンクショナルチームです。

d ) プロジェクトのリスク
 1980年代の日本は、成功しなければならない環境のため、成長に繋がる成功、プラスのリスクを焦点としていました。プラスアルファは、マイナスのリスクのマネジメントです。しかし、近年は、失敗しないためのマイナスのリスクマネジメントが進化したので、プラスのリスクマネジメントが必要かもしれません。

グローバルPMと1980年代の日本の考察

(おわりに)
 1980年代の日本は、グローバルPMが注目するテーマについて自らメソドロジーを生み出して実践していました。私はここでPMとして育成されました。
 私は、米国ケイデンスマネジメント社認定講師であり、同社はチャーター・グローバルレベルのPMI®登録教育プロバイダー(R.E.P)です。同社のPMメソドロジーは人を焦点としており、1980年代の日本と似ていて、体系化されています。
 現在の日本は、グローバルPMと少し離れているように見える点があります。しかし、不確実性、スピード、多様化はやがて共通する課題となっていきます。したがって、体系化されたグローバルPMのノウハウと日本発のP2Mを日本で十分に活用できると考えます。1980年代の日本での実践経験とグローバルPMのノウハウを生かしてこの活用に貢献していきます。

以  上

参考文献 「アジャイル開発とスクラム」 平鍋健児、野中郁次郎共著 2013年 翔泳社

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