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チームメンバーを動機づける力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 先日PMAJ(特定非営利活動法人日本プロジェクトマネジメント協会)のオフィスでP2Mの中の「組織マネジメントと人財能力基盤」のパートを指導する機会に恵まれた。これら2つのパートに共通する要素として、プロジェクトを成功させるために、「プロジェクトに参画するメンバーの意識」をどう高めていくのか、がある。プロジェクトをなぜやるのかという目的を皆が理解し、プロジェクトが目指す目標に向けて、メンバーが一体となって取り組んでいけるよう、また、メンバーがその過程を通じて、達成感や成長を感じることができるようにすることが大事だと記述されている。
 そんな話をした後、休憩時間に、協会の壁に張り出されたポスターを見て、心が大きく動かされた。(ポスターの一部を撮影した写真参照)PMシンポジウム2017の企画・準備・運営に携わったボランティアの方々が、シンポジウム終了後に、各人の想いを書いたものだ。「とても勉強になりました。来年も参加したいです!」「楽しかった!-満足」「達成感100%」「今年も充実した時間をありがとうございました。」「とても刺激的でした」「いろいろな経験ができて楽しかったです」などなど、参画した人々の「充実感・成長・満足度」などが見てとれる。私自身様々なプロジェクトにこれまで参画する中で、プロジェクト終了後の打ち上げ会に参加することはあっても、このような形で「想いを見える化」することはやっていなかった。私が参画したプロジェクトが表彰されて盾をもらったことはあったけれども、それを見ても、このポスター程気持ちは高揚しない。「各人の想いを書いて見える化する」が気持ちに与えるポジティブな側面を知ることができた。
 PMシンポジウム2017の企画・準備・運営は、11月にスタートし、翌年秋まで続く1年弱のプロジェクトだ。協会のウエブサイトに掲載されている募集案内を見ると、「各チーム内及びチーム間の活動は平日19:00~ 2時間程度の会議を月 2 回 (隔週水曜日) 開催し、あとは各チーム毎のメーリングリストを利用してコミュニケーションすることで進めています。」と書かれている。役割責任の大きさによっては、毎週1回のペースで集まるボランティアの方もいるのだという。現役として働いている方々も多く、時間面での大きなコミットメントが求められる。シンポジウム当日も見ていると、運営の方々は、ゆっくり講義を聴く暇はなく、忙しく動き回っている。これだけのコミットメントが求められるのは、「大変だ」と思う人もいるだろう。どのように運営されることによって、メンバー一人ひとりがこのプロジェクトに「参加して良かった!」と思える形にできたのだろう。
 強制ではなく、やる気のある方々が自発的に参加しているプロジェクトであるという点は大きい。それに加えて、考え得る秘訣の一つは、プロジェクトのネーミングだ。PMシンポジウム2017の大会テーマは、「次世代への共創~イノベーションを支えるプロジェクトマネジメント~」だった。ポスターには、「ワクワクシンポ with スマイル」と書かれている。オフィシャルな目的は目的として認識したのだろうが、そこに、自分達自身が元気になれるネーミングをつけた。皆の気持ちがワクワクするシンポ、笑顔になれるシンポを目指したからこそ、メンバーが集まる場では、困難な局面でも笑顔を忘れず、それが「楽しかったです」という言葉を引き出したのだろう。
 秘訣の二つ目は、募集案内に書かれた「参加を検討している方への動機づけ」の表現かもしれない。「ご自身のプロジェクトスキルを実践の場で大いに発揮をするため。将来の目標や日ごろの業務での課題を共有し、課題解決やヒントを見つけ出すために。新しい人々との出会いの中に将来の自分の進む道を垣間見るために。」とある。参加者にとってどういうメリットが得られるのかを明記したことで、同様な目的意識を持った人達が参画したのだろう。
 秘訣の三つ目は、募集案内に書かれたことを実際に体感できたという点なのかもしれない。さらっと書いてあるが、「プロジェクトスキルを実践の場で大いに発揮をする」「新しい人々との出会い」をプラスなものにするためには、プロジェクトリーダーが仕事を各人のスキルや動機に基づいてアサインする、そして多様な人々の意見を受け止める、といったチーム風土も必要となる。加えて、経験を経験で終わらせるのではなく、経験を通じて学ぶというコルブが唱えた経験学習も、きちんと回っていたのだろう。さすがP2Mを勉強した方々がメンバーとなっているプロジェクトだと、プロジェクト実行に大事な要素が共有されているので、効果的だ。
 教科書に書いてあることを実践して成果を出している良い事例として、PMシンポジウムのボランティアの活動に今後も注目し、運営の在り方をもっとよく知って、講義の中でも事例として紹介したい。

PMシンポジウム2017ポスター

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