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イベントを成功させる力

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 国内外から選抜されたリーダー人材を集めた4日間に及ぶ研修を、10月末東京で実施した。今回は、その中で、イベントを成功させる力について得た学びを3点共有したい。イベント成功に求められる要素として大事だと今回痛感したのが、聴き手の立場に立って考えること、シミュレーションをしてみること、その場に”集中している“ことの3点だった。PMのシンポジウムを開催していらっしゃる方々にとっては当たり前のことかもしれないが、私自身にとっては、数々の小さなつまずきを経験して、今回ずっしりと腹落ちした3点だ。
 「聴き手の立場に立って考えること」は、全てにとっての基本だ。メールを書く際もプレゼンテーション資料を作成する際も、一回つくりあげたものを相手目線から考えて修正する。それでも、相手から質問を受けることがある。その時に、伝えた内容が不十分だったことを理解する。研修の講師をしている時にも、自分が思うように受講生が動いてくれなかった時や、「どう動けばいいんですか?」と聞かれた時に、自分の伝え方が不十分だったことを知ることがある。そういう経験を何度も積んできているにも関わらず、今回のイベントでも、また、「聴き手の立場に立って考えない」伝え方を何回もしてしまった。例えば、こんなことがあった。5グループの内、1,2,3GPの人達を連れて別の会場に移動した際のこと。「1,2,3GPの人達、移動します。ついてきてください。」とアナウンスをしてしばらく待った後、ぞろぞろついてきた人達を連れて移動したところ、何人かの取りこぼしがあった。私には、「皆がいる場でアナウンスをした」から、「全員ついてきているはず」という思い込みがあった。移動中の私は、「訪問先がいかに面白い場所か」ということを皆に伝え皆のワクワク感を高めつつ、行先を間違えずに皆をリードする役割で、頭の中は一杯になっていた。一連の行動の中で、「人数をカウントする」という基本的なことをしなかったのだ。別のスタッフが、取りこぼされた人を連れてきてくれたので大事には至らなかったのだが。
 次回同様なことがあった際にどうすればいいのか?焦らない、達成しないといけない目的を確認する、行動を要素分解する、相手の理解度を確認する とういうことだと思う。ちょうどその時は時間がおしていたので、早く用件を伝えて移動しないと、と考えてしまった。しかし、それは、大人数がいる際には、上手く機能しない。ましてや今回は、多様な国々から集まってきている人達だ。相手目線に立つと、わさわさしている場所でアナウンスをちゃんと聞いている人だけではない。研修でペアワークをさせる際に、まずペアをつくってもらう、ワークしやすい場所に散らばらせる、先に話す人を決める、先に話す人に手をあげてもらう…とゆっくり分解して伝えているのと同様、今回のケースでも、行動を要素分解して、まず、移動することを伝える。どのGpが移動するかを伝える、各Gpで人数をカウントするリーダーを決める、そのリーダーに手をあげてもらう、リーダーにGpの人数が揃っているかどうかを確認してもらう…というプロセスにすれば、上手くいったはずだ。
 更に、より多くの行動をしてもらう必要がある際には、一連の流れを事前に細部までシミュレーションしてみて機能するかどうかを検証することも大事だ。おおざっぱに考えると「いいアイデア!」と思えることでも、細かく考えていくと、対応しないといけない点がでてくる。例えば今回は、終了証書を各自に渡す際に、靴を脱いでステージに上がってもらう必要があった。それを一連のプロセスの中に上手く入れ込む必要があった。
 そして、3点目のその場に”集中している“こと、英語で言えばbe present in the moment(その瞬間そこにいる)ことは最低限の条件として不可欠だ。今回は他の業務が多忙な中で対応していたので、直前までメールを見ていてその件を考えながら対応していたりしたこともあった。更には上手く行かなかった行動を引きずっていることもあり、「今すべきこと」に十分集中できていなかった。この3点目は上の2点と比べると、容易にはできない。意識しても私の頭はすぐ他のことを考えたりする。そんな私でも上手く集中できる時がある。それは頭で考えているだけでなく、今回のように書いている時だ。紙に書くと、更に効果的だ。脳の複数の部位を使わないといけないからだろう。以前紹介した方眼ノートを今回は使わなかったのだが、一つ一つ書く時間がかかっても、それをやったほうが実際の効果は高まったような気がする。何かの行動をする前に方眼ノートで書いて行動を決めておけば、実際の行動をする際に頭が他のことを考え始めても、決めた行動の通りに動くことでダメージは少なくなる。もちろん状況が変わり臨機応変に動かないといけない時はあるが、まずは「こうすれば上手くいく」という地図をつくってみようと思う。

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