PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (86) (実践編 - 43)

向後 忠明 [プロフィール] :12月号

 先月号では某老舗の菓子製造販売業者から「当社の設備が古くなり、最新の機械に入れ替えたい」との話が来ました。
 早速、協力してくれる企業再生会社と相談し、このような場合「どのように話を進めていけばよいのか」を聞きました。
 その某企業再生会社は以下のように話をしてくれました。
 「我々は企業再生コンサルタントであり、顧客の企業をいかに再生するかといったことを主業としています。そのため、話が始まった時が契約の始まりであり、顧客から相談料を取ります」。
 それに比べ貴社の場合は「我々とは異なりビジネスの基本は金貸し業であり、仕事のやり方は我々と異なります、そのため、我々のような仕事の手順ではいかないはずです」とのことでした。
 そのため、顧客が機材を購入するに際してその資金を貸すにしてもリースにするにしても対象企業の信用度を調査して、どうするかを判断することが必要です。
 企業の信用調査というと帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)などがあります。そこで関係部署に行き、信用調査に関するデータの有無を尋ねたところ、NF社は複数の信用調査会社と取引していることがわかりました。そして、会社の信用調査に関するデータベースから対象企業の信用データを入手できることができました。
 早速、顧客の信用状況を見ました。それによるとこの対象となる菓子製造会社の企業成績はかなり芳しくない状況でした。
 一般的にどこの金融機関も信用状況が不適格とされた場合は資金供与の対象とはならないのが普通です。このことはNF社も同様です。当然、このまま話をNF社の関係先に話を持ち掛けても許可されません。
 しかし、折角の企業再生会社からの紹介もあったので、その会社に出かけ社長の話を聞きに行くことくらいはかまわないと思い、筆者の独断でその会社に出かけていくことにしました。

 まずは某企業再生会社に相談に行き、この種の仕事のやり方の手解きをしてもらいました。それによると「我々は企業を再生をする会社であり信用調査の結果、問題がある会社であっても何とかして通常の経営状態に持っていくための努力をするのが仕事です」とのことでした。
 しかし、「貴社の場合はコンサルタントではないのでどこまでこの顧客に付き合うかは私には何とも言えません」と言われてしまいました。
 いずれにしても、NF社も新たな領域への挑戦も必要と思い、独断ではあったが、対象企業の社長や役員から「何をどのようにしたいのか?」等のヒアリングをし現場での設備の状況や社員の意見なども聞いて回ることにしました。
 この時、この会社の社員も自分たちの会社の現状を思っての意見をいろいろと話してくれました。そして、社長の熱意も相当なものと感じ、その結果をまとめて、「この仕事を進めたい」と筆者なりの理由を社長に説明しました。社長も今後の新しいリースのアプローチと考えたようで、あまり深入りしない前提でゴーサインをもらいました。

 そこで考えたのが、実際のリース事業にこの物件をつなげるための営業行為ということで営業を巻き込んでこの仕事を進めていくことを考えました。そして懇意にしている営業部長に話をして、若手を一人回してくれるようにお願いしました。
 一応、営業部長の了解も取れ、第一段階としての営業活動を正式に行えるようになったので、この営業社員と顧客である会社(C社)に出かけていきました。そして、C社のトップに仕事の進め方についての説明を行い、その後秘密保持契約を結び正式な作業に入ることにしました。
 すでに、前回C社のTOPに簡易なヒアリングを行っていましたが、何が問題で設備の更新をするのかまだ詳しく聞いていませんでした。もう少し詳細な状況調査をしない限り機材のリースをすることはできません。
 そこで筆者はこれまでのあいまいな顧客要求に対してこれを明らかにするため、C社の問題を探るための現状調査をすることにしました。そこで、顧客の社長に「貴社の製造、販売、営業そして関係各部門から社員を集めてください」とお願いをしました。そして、この人達から実際の現場の問題を挙げてもらうことにしました。そうすることによって一般社員の意見とC社のトップとの認識に「何か違いが発見されるのではないか」と考えました。
 前回のC社トップからの事前ヒアリングでは以下のようなことを筆者に説明していました。
設備が古くなっていて生産効率を上げたい。そして売り上げの向上を図りたい。
現在稼働している設備は古く故障も多い。また、機械は数社のリース会社からリース方式で導入している。そのリース期限も終了の時期に来ている。更新の良いタイミングでもある。
 しかし、集められた社員の人たちからのヒアリングでは必ずしも上記のようなことだけではありませんでした。
例えば:
各店舗での売り上げが減少している。もう少し効果的販売促進を考えたらよい。
製造工程でロスが多く出ている、製品品質の問題も出てきて、顧客からのクレームがたびたび発生している。
販売営業店が10店舗程度あるが、売り上げ減少のため上司から「もっと売れ!」とハッパをかけられている。しかし、うまくいっていない。
販売するお菓子の種類は多いが、主力となるものがない。
地方の菓子屋であることで、あまり有名でないため、販売エリアが限定的である。
もっと直販やインターネットを使った販売も考えたらどうか?また駐車場も狭く、これも販売エリアを狭くしている。
機械の補修や整備に金がかかっているし、また多くの機械が止まっていて使用できない。
営業の人員が少なく拡販力がないし、マーケッティング力に欠ける。
商品を自社の販売店だけではなくデパートや大型店で扱ってもらうことも考える。
 等々であり、菓子の機械設備の性能のことだけではなく、これに起因する製品の品質、製品のラインアップ、売り上げの減少、会社トップの販売店舗での問題、製品の種類やその見直しそして外観の問題、マーケッティングの問題、販売促進に関する問題そして生産効率や品質管理といった会社ぐるみで解決しなければならない多くの問題が出されてきました。
 ヒアリングの結果、上記にも示すように、この会社には多くの解決するべき問題があることがわかってきました。さらに実際の姿や話を見聞きするため、関係する現場を見て回り、現場の人達の意見も聞きました。
 その結果、問題は機械の更新といったことだけではなく製造、販売、営業等々会社全体にかかわることが明らかになり、トップの話とはかなり異なった調査結果となりました。
 このように広範囲な問題点が調査の結果わかってきましたが、これを一挙に解決することは簡単でないと感じました。

 ここで思い出したのが以前勉強した論理的手法の一環であるある問題解決法でした。これは目的がわかっていてもそれに到達する手段がわからない場合、そこに含まれているいろいろが状況や条件を考え、その条件の間の関係を見つけ、解決策を見出す方法です。
 この方法は以前NI社にいたときの金融プロジェクト、PFI事業での企画戦略そしてスリランカ民営化事業での労働問題の解決などに役立ってきました。

 この問題解決法をここで一度勉強し直し、今度は筆者一人ではなく、PMOの社員と営業の社員を集めた5人程度の体制で調査した結果の状況分析をすることにしました。
 この状況分析はいわゆるブレーンストーミングという手法であり、論理的手法での観察、調査で知り得た情報を分析し、共通となる問題をリスト化し、それらを重要度や優先度を見ながら整理していく方法です。
 そこで現場から採集した状況調査をもとにまずは共通となる問題のリスト化を行いました。
 その結果、
販売に関しては、商品配列や包装そして店構えに問題がありかつ遠くからの買い物客のための駐車設備が小さくそして少ない。また製品種類が多く主力製品がわからない。
営業に関しては、この会社のお菓子は地域では有名であるが全国版ではない。もう少し通信販売や都会への進出も考える。また、主力商品のブランド化を図り観光客にも販売する。
製造関係の話で製造設備は古く故障も多い、そして止まっているものもある。今度新しい装置を入れるとするなら、機械装置のアレンジをもっと効率的にし、そして柔軟に対応出来るような製品ラインを考える。
 さらに、調査では見えてこなかった下記のような意見も出てきました。
止まっている機械の処置
各販売店の売り上げと収支
販売している菓子そのものの消費者の意見

 以上のようなことが、NF社内のブレーンストーミングで問題として挙げられました。
 これらからさらにどれをC社の問題解決のための優先事項または重要事項とするかを皆で議論して決めていくことにしました。

今月はここまで、続きは来月号

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