PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (85) (実践編 - 42)

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 先月はシルクド・ソレイユの話を問題解決思考の一例としてしました。
 シルクド・ソレイユの例に示すように多くの問題を含み、何をどのようにして良いかわからない場合は、まず自分に何ができるかではなく、やるにあたって、そこに含まれるいろいろが条件や状況を考え、何が問題かそしてどうしたらできるか」を考えるといった思考法が必要と考えました。
 このように目的も目標も明確でないプロジェクトを進めるための思考法はこれまでの仕事やプロジェクトで何となく利用したことがあります。しかし、自己流のものがほとんどでした。
 NI社に移籍してからの仕事は筆者にとって全く新たな分野の仕事ばかりであり、その上NI社といったN社の海外事業戦略子会社では、初めのころは会社の方針が明確でなく、「何でもあり」の案件探しがあり、筆者にとっては技術も含め経験したことのないプロジェクトばかりでした。一般的にもビジネスの現場でも、環境が大きく変化し続けている状況では、いったん定めた目標さえも見直しが求められることがあります。
 つまり、社会そして組織を取り巻く環境変化、そして急速な技術の変化によって組織に求められる要求等が当初とは異なったものになることがあります。このような場合、プロジェクトマネジメントの分野においても変化に対応するためには上記に述べた思考法が求められます。
 このことを考え、新規事業開発室を設立し、NF社の主な業態であるリース事業に「何か新しい変化を起こす」といった目的で新たな事業の発掘を行い挑戦をしてみようとしました。
 そこでソレイユというサーカスの誘致といったプロジェクトの推進の過程での反省を踏まえて、この小さな新事業開発室だけでの活動ではなく、NF社の他の部門との連携を進めることを考えました。
 プロジェクトマネジメントはそれぞれの専門部門との共同作業となるのが当たり前だということをソレイユのケースでは忘れていました。
 そこで開発営業部や各営業事業部と彼らが現状考えているリース業務に関係する新たな新規業務について話し合いをしました。
 その結果、開発営業部はストラクチャードファイナンスといったスキームで新しい金融ツールの提供や複数の金融ツールを組み合わせることでユーザニーズの高度化や複合化に対応する新しい仕組みを考えていることもわかりました。
 一方、ある営業事業部はプロジェクトリースといった発想で設備一式をまとめて顧客から請負い、その顧客の事業状況の検証を行い、顧客の立場に立ってリースの提案をしていくといったコンサル業務を含んだプロジェクト提案をすることを考えていました。
 しかし、各部の考えや目的はよくわかりますが、いざ実際に彼らの「思い」を具体的にプロジェクト化するということになると全くのノーアイデアであり、このままではすべてがアイデア倒れで終わるような気がしました。
 このような事象はどの会社にもみられる傾向であり、例えば「このような企画を持っている、そしてこのような施策でやりたい」とアイデアは出てくるが、実際それを実行に移す段になると「困った」の話になります。
 これまでも筆者は何度もこのような事象を見ました。このアイデアを受けて実行してくれる人がほかに誰もいないため、そのアイデアが消えていきました。
 それでもNI社がやらなければならない、また途中でどうしようもなくなったプロジェクトを筆者はプロジェクトマネジャやリーダとして仕事をしてきました。
 シルクド・ソレイユの案件もそのようなことから筆者に舞い込んできた話ですが、さすがにこれは失敗に終わりました。
 NF社はN社のリース関係子会社という性格上、プロジェクト実行に必要な技術者やプロジェクトを経験した人材はいません。それが原因でもあり、主に手掛けている仕事はN社の機材のリース、そして入札によるリース案件の受注活動とその単体機材のリース等々といった一般のリース業と同じような業態であり、あまり特徴がありませんでした。
 このような状況を考え、NF社トップも新たな事業として先にも述べたようなストラクチャードファイナンスやプロジェクトリースというスキームを考えたと思います。
 しかし、NF社の組織や人材構成そして蛸壺的な業務遂行ではいくら頑張っても無理だと筆者は思っていました。すなわち、トップの思いとNF社の現状とのギャップがあまりにも大きいと感じました。

 このようなことはいろいろなケースで他の会社にも多いにある現象でもあります。
 例えば、下からの企画を理解できないトップまたは自社の事業を取り巻く環境変化に敏感でなく何のアイデアも出せないトップ、良いアイデアが出てもリスクを恐れるあまり前に進まない企業体質や決裁者の無作為による組織の沈滞などがあります。
 筆者はこれまで与えられた職務の仕事を何とか処理し、目的達成を第一の仕事と思いその仕事を成功裏に収めることに集中してきました。
 しかし、このNF社に来て、新たな業務であるリース業やファイナンス業に関係して初めて、新しい事業の遂行には高い種々の壁があることを知りました。

 プロジェクトは個別性、有期性そして不確実性のある業務と定義されています。
 一方、ルーチン的な業務も大事であるが、企業は常にビジネス環境の変化に対応していく必要があります。そのためには、トップをはじめ組織の上に立つものは常に不確実で個別的な業務に取り込む必要があるし、そうせざる得ない立場にあります。
 このことは、ビジネス環境は常に変化していて組織もそれに対応する体制を常に取っておく必要があるということになります。
 このように、NF社に配属されてから、新規事業の創生(プロジェクトの生成)や創発(生成されたプロジェクトの問題解決とその目標設定)をどのようにしたらよいかをいろいろ考えるようになり、ここで筆者は出来ると思ったことに挑戦してみようと考えました。
 そこで、新規事業開発室の2人でいろいろと今後の仕事のあり方について話をしました。
 この新規事業開発室は筆者と外から新たに入ってきた2人だけであり、NF社の詳しい社内事情もよくわかっていません。このような状態で新たなことに挑戦するには無理があるとも考えました。そこで、NF社内のほかの部門の協力や会社以外の知恵の利用などもできる態勢にすることを考えました。
 いろいろと考えた結果、この新規事業開発室はプロジェクト創発の役割を主とし、実際仕事がプロジェクト化した場合にはプロジェクトマネジメントアドバイザーとして活動するPMO(Project Management Office)とし、外部リソースを自由に利用することのできるように新規事業開発室をPMOとして位置づけました。
 もちろん、このような活動のできる組織にはそれなりの権威付けが必要となります。このようなことはもちろん筆者の一存では不可能なので、このPMOを社長直轄の組織とすることで社長の了解を取りました。
 その理由はすでに述べた理由と各事業部の積極的な協力や決定も迅速にできるようにするためです。
 仕事の範囲としては、プロジェクトの発掘は各事業部に任せ、そこからまだ情報として不確実な案件でも、そのプロジェクトを実際に動けるように営業そして関連する外部組織の利用により具体化するところまでの活動を行うことにしました。

 例えば、リース対象となる設備を持つ企業に関する財務状況や販売戦略等の調査や既存設備の状況そしてこの企業の評判などの情報収集分析を行い基本的なプロジェクトの要件を定義し、計画を立て、投資対効果の分析も行い、そして必要資金のアレンジをするといったことまでやることにしました。すなわち、プロジェクトリースといった案件の形成を目的とすることにしました。

 しかし、初めからハイレベルなプロジェクトを進めるには現状の体制では無理と感じていたので外部の知識を借りることを考えました。プロジェクトリースといった形で相手企業の要請が事業の改善を目的とした要件ということも考えられので、PMOの当面の業務を企業再生ビジネスにかかわるような事業と位置づけました。
 その目的のためには、NF社の能力だけでは物足りないので、企業再生を主業とする某企業の協力を得ることを考え、知人を介して接触し、その結果、快く協力を快諾してくれました。
 しかし、この種の仕事は初めての試みであり、PMOを立ち上げたが、当初はなかなか思ったような案件がないまま数か月が過ぎました。
 それでもその間、N社のファイナンス子会社ということでどこから情報を得たかわからないがブローカーのような胡散臭い人たちがPMO にいろいろな話を持ってきました。

 そのような時、協力を依頼していた某企業再生事業者から、某老舗の菓子製造販売業者が「当社に設備が古くなり、最新の機械に入れ替えたい」との話が来ました。
 早速、この仕事がPMOの本格的な事業ということで、紹介してくれた某企業再生会社と営業も含め一緒に動くことにしました。
続きは来月号

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