例会部会
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『第226回例会』 報告

須貝 均 : 11月号

【データ】
開催日: 2017年9月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「二度の南極越冬体験者が語る雪と氷の世界」
 ~失敗が許されない極限でのコミュニケーション術~
講師: NECネッツエスアイ株式会社  田村 芳隆氏

~はじめに~
 今回の例会では、南極昭和基地開設60周年を記念し、南極での越冬を2度経験した田村さんを講師としてお迎えし、南極越冬隊の究極のプロジェクトマネジメント、極限でのコミュニケーション術について講演を行って頂きました。

~講演概要~
1. 日本南極地域観測隊の紹介
 日本の南極地域観測は国家プロジェクトして1956年の南極観測船「宗谷」に始まり、その後60年にわたり地球環境の観測等を通じて世界トップクラスの科学的成果を発信し続けてきました。
 現在の南極地域観測隊は大きく分けると越冬隊と夏隊の2種類にわかれ、越冬隊は約30名で構成され昭和基地の滞在期間は1年2ヶ月、事前準備を含めると観測隊としての任期は1年9ヶ月の長期に渡るものです。
 越冬隊員は、それぞれの専門分野のミッションを遂行すると共に基地内の全てのインフラ、観測機器を維持・運用する広範なミッションを過酷な南極の自然の下で共同で遂行します。
 一方、夏隊は本隊約30名+同行者約20名で構成され約60日間の短期滞在ですが、その間に基地の設営・整備を行いながら越冬準備や引き継ぎといった作業を遂行します。南極の夏にしか出来ない観測や設営など複数のミッションを集中的に実施する必要があり、その作業量は延べ6,000人日の大規模な短期プロジェクトとなります。
 今回の講演で紹介頂く第57次越冬隊は、越冬隊長1名、気象や宙空圏・気水圏などの観測を行う観測部門12名、機械や通信・建築、医療・調理の生活インフラを維持する設営部門17名 計30名で構成されました。

2. 越冬隊のリスクマネジメント
 越冬隊は、物資の補充が途中では出来ない究極の制約条件のプロジェクトであり限られた予算内で出発前に予備品、補修品を調達する必要があります。
 また観測機器の定期保守や故障等の緊急事態発生時には、厳しい自然環境であっても屋外作業をせざるを得ないケースもあり一歩間違えると生死に直結するリスクがあります。
 これらのリスクに対して越冬隊は、事前に作業内容の説明を行い危険予知についてリスクアセスメントを徹底し安全講習やレスキュー訓練を出発前はもちろん越冬期間中も定期的に実施しています。もちろん自然が相手であり計画の変更は日常茶飯事ですが、計画変更の影響を最小化すべく隊員全員が意識をあわせて調整することが肝要となります。

3. 究極のコミュニケーション術
 越冬隊30名はそれぞれ専門分野が異なるエキスパート集団であり、各部門のミッションを自らが完遂する事に加えて他分野の支援にも積極的に関与する事がとても重要であることを、田村講師の実体験をもとに説明いただきました。
 言葉のコミュケーションはもちろんですが、お互いのミッションを尊重しながら意見交換・相互体験することにより協働するコミュニケーションを通じて越冬隊としての一体感を醸成する行動が求められます。

~所感~
 今回の講演では、失敗が許されない究極のプロジェクトして南極越冬隊の体験談を中心にリスクマネジメントとコミュニケーションのポイントを語って頂きました。
 南極越冬隊では以下の2点についてプロジェクト管理の原点といえるプロセスを粛々と遂行されている事を再認識しました。
過去60年の南極越冬隊の経験・ノウハウやプロジェクトとしての経験が「着実に引き継ぎ」され生かされていること
事前にレスキュー訓練や安全対策講義を通じて越冬隊員の各役割を全員が理解し、各ミッションを具体化する「準備期間の確保」、危険を予知するため「継続的な訓練」が行われていること

 究極のプロジェクトマネジメントとして、今回の講演で紹介頂いた第一次越冬隊長である西堀栄三郎さんの以下の言葉が非常に印象的であり今後のプロジェクト活動で悩んだ際には、この精神を思い出し活かしたいと感じました。
石橋を叩いて安全を確認してから決心しようと思ったら、おそらく永久に石橋は渡れまい。やると決めて、どうしたら出来るのかを調査せよ
同じ性格の者が団結しても和にすぎない。
それぞれ違う性格の者が団結した場合には積の形で大きな力になる

 今回田村講師には、ドローンによる南極の空撮映像やオーロラ、南極の動物など興味深い画像も紹介頂きました。
 田村様、興味深いご講演をいただき大変ありがとうございました。

以上

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