東京P2M研究部会
先号   次号

多くの人に参加していただくイベントに必要なもの

鎌賀 信吉 : 11月号

 今回はイベント運営において欠かせない存在となったボランティアについてご紹介いたします。その普及についてご理解いただくには、例えば36,000人が参加する東京マラソンにおいて、10,000人を超えるボランティアが参加していることを知っていただくだけで十分だと思います。では、これだけの人々が参加するようになったのは、どんな背景があるのでしょうか。

 以前よりスポーツボランティアは、地域の少年野球やサッカーのボランティア指導員(監督・コーチなど)運営ボランティア(世話役・クラブ役員・幹事など)といった形で行われていました。その代名詞ともいえるスポーツ少年団は、東京オリンピックに先立つ1962年に創設され、半世紀の間に全国各地に広まり、32,000団体・70万人を超える団員を擁する日本最大の青少年スポーツ団体となっています。
 大規模な国際大会だけでなく、地域における市民マラソンや運動会を支えるボランティアはイベントボランティアと呼ばれています。2007年の東京マラソンを契機に広く認知されるようなったと言われています。その範囲は、一般ボランティア(給水・給食、案内・受付、記録・掲示、交通整理、運搬・運転、ホストファミリーなど)だけでなく、専門ボランティア(審判、通訳、医療救護など)まで実に幅広い役割で活躍されています。
 近年では、スポーツボランティア希望者向けの研修プログラムが開催され、多くの人が参加しています。ボランティアの基礎的な心構えを教える入門レベルから、リーダーさらには上級リーダー、コーディネーターへとステップアップする講座をもつ団体もあります。

 ちなみに、トップアスリート(現役または引退したプロスポーツ選手など)によるオフシーズンの福祉施設への訪問、ジュニアのスポーツ指導・地域のイベントに参加する社会貢献活動も非常に一般的になりましたが、これもアスリートボランティアというスポーツボランティアの一形態とされています。

 イベントボランティアに話を戻します。イベントの運営者からみると、ボランティアを希望する人たちは、企画構想・プログラム制作・会場設営を行うスタッフとは異なる視点をもつ存在です。ボランティアを希望する人たちは 「運営をささえる力になりたい」 「参加者をささえたい」 「来場者をおもてなししたい」という自発的な動機で希望してくるのです。金銭で契約をしているアルバイトとも違います。イベント運営者は、そのことを正しく理解・認識して、適切な態度で接することが求められています。
 この取り組みは、ボランティアの活動内容・適正な人数を募集することから始まります。過去実績がある場合、その時の活動内容・人数を評価して、必要な活動内容を洗い出し、適正と思われるボランティア数を算定します。ボランティア希望者は経験値があがるごとに、これまでにやっていない活動を行いたいという意識が芽生えてきます。その希望にそえなくなると満足度を向上させることは望めなくなります。
 次に、希望者が応募する際にも、希望者がどの程度の経験をもっているのか、また今回はどのような活動内容を希望しているかをアンケート項目として記入してもらうよう配慮します。その後の事前説明会においても希望をヒアリングする機会をもうけて、できるだけ細かに把握するように努めます。このようにして把握した結果は、各人への活動内容の割り振りにおいて考慮に含めるようにします。

 事前説明会においては、イベント運営者はボランティア・マニュアルやイベント・タイムテーブルを提示し、依頼する活動を説明するだけでなく、イベントの意義やそれに対するスタッフとしての想いを直接語りかける場面を設定します。ロンドンオリンピックにおいて、ボランティアのことを“ゲームメーカーズ”とよび、組織委員会長が「ボランティアこそ五輪の主役」「ボランティアは五輪にとって血であるという。そしてボランティアはそのユニフォームをプライドとともに着てほしい」と語りかけたと言われています。その場に居合わせたボランティアは、より深くイベントにコミットし、運営の一員として高い意識と行動規範を生み出したであろうことは容易に想像できます。

 イベント運営者のこの姿勢は、開催当日にも引き継がれます。現場で活動するボランティアに声がけし、その場で感想を聞いたり、改善点の提案をうけたりします。このような提案がボランティアのグループにおいて認知され、運営者に受け入れられるようになれば、さらにモティベーションは高まることは間違いありません。

 イベントにおいては、よい来場者が多く集まることが成功につながると言われますが、イベントの趣旨を理解しているボランティアが多く集まることもまた、大きな1つの成功要因だといわれています。ボランティアに参加した人が大きな満足を得ると、次の機会にも応募してくれるリピーターとなるだけでなく、イベントの良さを伝えるメディアとなり、新たな応募者へとつながっていきます。また、応募に至らなくても、来場してみようという意向につながる可能性があります。

 イベントSIGにおいてイベントを研究する中で、スタッフでも来場者でも出演者でもない、ボランティアという独特な存在は、非常に魅力的な研究テーマになりました。ここでもご紹介させていただきましたが、ボランティアとは何かということを知る勉強会や、スポーツイベントだけでなく地域のコミュニティ・イベントまで、実際にボランティアを体験できる機会に私自身参加してみました。ボランティアという価値観について多くのことを学ぶことができましたし、是非参加してみることをお薦めいたします。

以上

【出典】
日本スポーツボランティアネットワーク ホームページ
ガイドブック スポーツ少年団とは スポーツ少年団組織と活動のあり方の解説書
  (公益財団法人 日本体育協会 日本スポーツ少年団)
スポーツ白書2014 (笹川スポーツ財団)
「基礎から学ぶ、基礎からわかるイベント」  日本イベント振興協会

ページトップに戻る