東京P2M研究部会
先号   次号

多くの人に参加していただくイベントに必要なもの

鎌賀 信吉 : 10月号

 前回はイベントの企画立案プロセスについて触れましたが、実現したいイベントのコンセプトやテーマをもち、他にはない新しいコンテンツ・画期的なテクノロジー・前例のない場所での開催等を、支援してくれそうな人々に語りかけ、制作の専門家に共感をもってもらうことがイベントの初期段階に求められることであるとしました。

 このイベント企画の創造性や新奇性は、一方で例外事項になってしまう可能性があります。道路交通法、消防法、食品衛生法といった身近な法律だけでなく、著作権・肖像権・文化財保護法といったものまで、イベントには関連する法令が数多くあります。実現したいイベントを開催にまでこぎつけるには、これらのルールを守っていくという姿勢(コンプライアンス)にも配慮することがイベント主催者には求められています。昨今、何かしらの事故・事件が発生したイベントやその後の対応に問題が発覚してしまったイベントには、参加者や協力者・来場者は厳しい目を向けられることがあります。企画立案段階から関連法令に配慮し、適正な告知・制作・運営を進めていくことで、広く参加していただくことができます。

 また、参加者・協力者・来場者の物理的な壁、心理的な壁を感じないような取り組みも行われてきています。各地で頻繁に行われているコミュニティイベントでは地域・コミュニティから広く参加者を募るため、イベント主催者は企画段階から、「ユニバーサルイベント」への取り組みを視野に入れて推進しているのです。

 「ユニバーサルイベント」はデンマークの知的障害者の親の会による運動から生まれたノーマライゼーションという考え方に基づいています。1959年にデンマークで、障がいのある人もない人も“誰もが一緒に”という考え方が法制化され、福祉の考え方に大きな影響を与えたことに始まるこの流れは、次にスウェーデンで「すべての知的発達障がい者の日常生活を、普通に生活している一般市民の生活や条件・環境に近づけること」として発達し、イギリスではコミュニティーケアの流れにつながり「精神障がい者を施設へ隔離してしまうことはその人たちの基本的人権を奪うことになる」という視点に立って、施設への隔離からの解放運動が起こりました。アメリカでは1990年のADA(障がいのあるアメリカ人法)の成立へとつながり、世界的に人権のグローバルスタンダードとしてノーマライゼーションの考え方が根づきました。「誰でも人は等しく基本的人権がある」という1948年の世界人権宣言以来、国連は一貫して、ノーマライゼーション理念の推進を図っています。そして、そうした国連の様々な宣言や条約採択を受けて、日本でも女性や子ども、障がい者や高齢者への基本的人権を推進する法律を施行しています(1993年障がい者基本法改正、1994年ハートビル法、2000年交通バリアフリー法 等)。

 日本はいま、世界でまれにみる勢いで少子高齢社会に向かっており、すでに日本は若い人たちよりも高齢者のほうが多い時代になろうとしています。今後は、社会のマジョリティーとなった高齢者を無視したイベントづくりは考えられなくなります。つまり、「ユニバーサルイベント」は当たり前のイベントへの取り組みであって、福祉イベントといった特殊な取り組みではなくなっているのです。 具体的に、ユニバーサルイベントとして対応する要件は、基本的に以下の4つになります。

1. 告知・広報と会場施設構造のユニバーサル・アクセシビリティ
 誰もが楽に来場・移動できる案内・設備・仕組みのことをさします。具体的には、告知・広報に関する要件と、会場施設構造に関する要件が含まれます。
2. イベントプログラム表現のユニバーサル・コミュニケーション
すべての来場者が快適にイベント体験できるようにプログラム表現を工夫することをさします。
3. 会場運営におけるユニバーサル・オペレーション
すべての来場者のための快適で安全な運営体制のことをさします。
4. 新たな文化の普及・促進というユニバーサル・サステナビリティ
ゴミ・廃棄物を発生させない、徹底した分別回収、エコロジー意識の啓発・PRを行う。

 今回は、現代イベントでも考慮すべき新しい流れとして、コンプライアンス そして ユニバーサルイベントをご紹介いたしました。これ以外にも最近のイベントでは協力者(ボランティア)に関する取り組みが盛んに行われています。次回は、この取り組みについてご紹介したいと思います。

以上

【出典】
特定非営利活動法人 ユニバーサルイベント協会 ホームページ
「基礎から学ぶ、基礎からわかるイベント」  日本イベント振興協会

ページトップに戻る