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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (44)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (20)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 11月号

I. 先月号の最後にZさんから私の努力を説明してくれました。
このまとめが分かりやすく素晴らしいので、このコメントを引用して事態の変化を説明します。

Ⅰ. 町の募集に応じた時点で考えた私の提案
私は“アベノミクス”に深く興味を持ち文献、テレビ等で紹介された種々の案件を収集していましたので、この町の総合戦略を読み、ローカルのこの町としては素晴らしい意図をもって活動していると思いました。そこで、この町が実施している5つのテーマを調べたところ、5つのテーマは町が再生協議会に委託しており、その5つのプロジェクトは行政が実施している縦型方式をそのまま採用していることを突き止めました。現代の常識で言えば、通常これら多種案件を処理するプログラムでは各テーマの持つ課題を縦・横マトリックス方式で検討しますと、縦横案件は容易に解決案に結びついていることが分かりました。そこで今回はまず不足するテーマとして公園の活性化を増やして、プログラムは6つのプロジェクトで成り立たせました。結果として各種の課題は横串で眺めると、縦方式で解決できないものが、横方式ではすでに解決していたことを理解しました。そこで各課題を捉え、検討をしました。

町の課題:人口を増やす
町は若い人々の、転出に悩んでいます。その悩みを解消することを考えました。
「子持ちの共稼ぎ夫婦」がリホームアパート群を受け入れる方式を考えればいいわけです。彼らが困っている一つは保育園問題です。
町には子育てが済んだ有能な経験のあるご婦人連中が存在します。彼女たちが暇な時間を利用して、子供の送り迎えを適宜行える組織(コミュニティ)をつくると事態は好転します。彼女たちの持つ経験を活かすと、幼児の教育にも貢献できそうです。また保育士の資格を取ってくれる人が出ると、社会の課題が一つ解決します。

住宅供給公社の空き部屋解消企画
町に存在する住宅公社のアパート群は50%以上が空き家です。このアパートが完成した時代は個人のプライバシーを保証する時代でした。しかし今は住民の交流で生活を豊かにする時代になってきました。アパートの群れの中に、住民が自由に行動できるテラスを建設することで、このテラス広場が住居者各位の生活を楽しくする広場となります。現実にこのようなリフォームをしたアパートに多くの人々が移転している実績が、多く出ています。町から出ていく若い共働き者は今の環境が、子育てに適していないので転居しています。そこで、このリフォームしたアパート群に保育園への送り迎え、時に夜間の面倒見をしてくれる老婦人コミュニティが派遣され、貢献できれば、共稼ぎ若夫婦の入居者がふえ、人口増加に貢献できます。

共稼ぎ若手子育て夫婦の団地への転入と教育環境の整備
今再生協議会地区の小学校で本年度の入学1年生は30名です。これがますます減る運命になります。そこで町では本年度からコミュニティスクール方式を採用することになっています。コミュニティスクールになるということは教育の在り方に住民の声を存分に入れてよいという、文科省の新しい方針があります。従来の長年続いた教育方針の変更が許される時代となりました。従来の教育の基本は知識吸収方式です。この方式は大学入学試験の基本になっており、高偏差値方式が合格の採用基準になっています。しかし、現代はグーグルがあり、必要な時にグーグルに頼るとすべての知識を簡単に入手できます。では欧米流の教育を見ますとPISA方式といい知識を理解し、必要に応じて他の人々と討論し、知識の持つ価値を更に高めることができる教育を採用しています。日本の教育は東大合格を成功と考える教育方式で、真の社会教育の手法としては世界的に大きく遅れています。昨年文科省はこれまでのかたくなな態度から急変し、PISA方式の採用ができることを認めてきました。
個々ではPISA方式の採用のほかに脳科学を利用した教育方式が、いずれは採用されます。他方東大の世界的評価は年々低下しています。東大出身者が活躍できる場は官僚です。彼らは新しいことを作り出すより、古いシステムを残し、各種の規制で、官僚の地位を維持しています。規制を利用して官僚の地位を保証しているため、彼らに大きな危機感がありません。そして遅れていることに危機感を持っていません。世界的な大企業の地盤沈下が今の教育制度の上に発生しています。この教育方式からはスティーブ・ジョブスは生まれてきません。
変化の速い世界で活躍できる教育を実施することが求められています。
ここで3つの提案があります。
一つは進化した教育システムを採用することです。PISA方式の採用、2番目が脳科学を利用した年齢に適した早期教育の研究です。3番目が新しい幼稚園教育です。

新しい幼稚園教育
今の町で危機感の高いのが私立の幼稚園です。人口減が原因で経営危機が訪れます。
最近世界的に新しい小学校への就業前教育方式が出てきました。ペリー方式という小学校就業前教育方式です。文明の遅れたアフリカで採用されていた教育方式ですが、この教育を受けた生徒は高校を卒業した時点での成績や、社会での成功率が高く、その後の実績の良さが提示されています。この教育はIQ方式(知識吸収方式)より、EQ方式に近い内容です。知識の利用でなく、社会的活動能力に優れるという特徴があります。
ここまで書き進めてきましたが、現状では壮大すぎるので、提案は取りやめ、下記⑤以下を提案してきました。

智恵袋型老婦人コミュニティの提案
夫婦共稼ぎの住民が保育園の送り迎えでの困難を助ける、知恵袋型老婦人コミュニティをつくり、保育園児の送り迎え、母親が遅くなった場合の子供の面倒を見るコミュニティがあればこの町に住みたいと思う子育て家庭が増えるのではないかという提案を考えました。

最後は身近な問題としてあまり利用されていない公園の活性化
公園の必要性は住民の側から常に遊具の追加要求があります。しかし、1年もすると利用者は興味を示さなくなり、もとの静寂な公園に戻っています。そこで提案したのが公園の花壇化です。

Ⅱ. 公園の花壇化を実現するための現実的戦略・戦術
6つのテーマを一つのプロジェクトとして統合すると面白くなる話をしましたが、再生協議会は現在のところ行政に合わせて、縦割りプロジェクトが6つあるという状況です。そのような雰囲気の中では、1部とはいえ私の提案は場違いな感じを与えます。協議会責任者は戸惑いを感じたようですが、わざわざ応募して来た外来者に失礼のない対応をしてくれました。

すなわち、この時点で協議会は5つのプロジェクトが終局に近い状況でしたから、わたしの提案は迷惑なものと受け止められました。再生協議会の幹部から見ると、現状の空気を知らない人間として、最初は疎ましい存在だったと思います。しかし提案した最後のテーマは利用されていない公園の活性化ということで、幹部はこれを妥協点とし、テーマを取り上げてくれました。そして素人にも分かりやすい提案をすぐに出せという要求を出しました。この指令は安倍総理が目指している“アベノミックス”とは違うじゃないかと思いましたが、辛抱強く幹部の要望に応える方針に切り替えました。

小さな戦術とSTEP1
しかし“アベノミックス”は依然として生きていますから、プロジェクトの持続的可能性を無視できません。そこで現プロジェクトの実践をSTEP1とし、持続可能性には触れないで業務を進める。しかしSTEP1終了後は改めて、維持可能性への考慮を目指すSTEP2を提案し、内容の説明をしませんでした。因みにこれから更に進めるSTEP3とは収益を上げるステップを意味していますが、現在はこの課題にも触れないことにしています。

しかし、再生協議会のSTEP1でも、プロジェクト実践しながら将来に向けた工夫をしました。
業務の進め方の過程で、打ち合わせ内容を誰もが理解しやすい形でまとめるため、文書だけでなく、図や表の活用をすることをお願いしてきました。言葉をかえるとエンジニアリング手法を取り入れてもらいました。
その理由を説明します。会議の途中で各位は好き勝手なことを言いますが、話を聞いてもビジョンがみえてこないのです。これは日本人の特長の一つです。私が実践を実施していた相手はほとんど海外の顧客です。内容のある話で、中身が正確に表現されています。私はビジョンという言葉を使わないで、ビジョンの内容を述べてもらうことにしました。このやり方で、今まで理解できなかった説明を、図を利用して説明してもらうことで全員が理解できるレベルにまで仕上げました。
その結果: 上述したSTEP1の実践アプローチで、ワークショップ傘下の住民からの支持が得られ、次いで、公園部会メンバーの優れた実践提案力が町行政の信頼を獲得しました。

重要な時期のプロジェクトとその戦略としてのSTEP2
STEP1のプロジェクトの実践が終了しますと、公園の維持管理問題が浮上します。毎年花壇の花の植え替えがあります。このプロジェクトは住民中心で企画し、“アベノミックス”の経費で完了したものです。この場合町は増えた花壇の花の植え替えの手間をどこで出すか、町と住民側ときわどいせめぎ合いとなります。
この計画に対し、STEP1の企画者は己の交渉能力に自信があるため、全額町の出費でまとめる提案を出したいといってきました。
しかし私の提案は、花の提供は町に願っても、植え替えの作業は住民で行うべきと主張しました。理由は簡単です。公園の作業をすべて町に任せると、公園が次第に魅力のないものになっていきます。町には公園を維持管理する義務がありますが、愛情をもって実行することはありません。そのために次第に公園は寂れていきます。それではわざわざ苦労をして今回改修した意味がなくなります。愛情を持った人々で公園を守ることで、人々が喜んできてくれる公園が完成します。

このように一歩ずつ努力をして、町の公園の花壇化を積極的に伸ばそうと願っています。ここまでくると、町に観光客が増えてきます。これで“アベノミックス”が目指すものが完成します。

Ⅲ. 花壇化以外の公園活性化の戦略
最近、公園部会で最も困難であった、遊具に頼らない公園の活用方法を考え出すという私からの提案に、メンバーから同意する動きが生まれました。
本公園の責任者が自分の知り合いの4家族と公園花壇化の提案者を仲間にくわえ、このテーマに取り組む方向で討議を始めるようになりました。
この種の公園は基本的にハード(遊具)を考え出すのではなく、遊びというコト(ソフト)を考えることに切り替え始めてくれました。
コトを考えるというコトはある意味で一種の遊びそのものです。少し訓練ができると、楽しくなってくるから不思議です。
この発想から、彼らが真の目的は公園の活性化ではなく、住民としての自分たちの活性化であると気づくようになりました。
このプロジェクトは、これから老人でなく若い人々を集めて、議論を進めていくことを実行し始めました。
小さな努力で、世間で通用している事例を収集し、新しいアイデアを提供できるよう頑張り始めました。

Z. Iさんの当初の意図は、この段階で多くの人々へ伝達されつつある気がする。
最初から広大な夢を打ち出すより、地道に1点を確保して、次の2点目を目指すやり方への共感が増えてきたという印象を受ける。成功への道は辛抱して遠回りしたことだと思います。
また、Iさんの行動を見ていると、人の話の中から課題を見つけ、行動に移していることに気が付きます。学習能力に優れている。真の戦略家は大きな原則、ルールがあるとしても最後の詰めは学習能力の高さ、あるいはコア・コンピテンシーという能力だと思う。
また、Iさんの心中には企業を巻き込むことで新しい提案ができるという考えもあるようだね。
( 注 ) コア・コンピタンスとは実践的実力
  米国国務省は職員の採用に際し、IQテストの高得点者を採用していた。しかし高IQ保持者の業績は芳しくなく、高IQ者ではないが世界中のどこの国に派遣しても、よい業績を残す人がいた。国務省は彼らの持つ能力をコア・コンピテンシーと名付け尊重してきた。

以上

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