PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(116)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :11月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
発想阻害排除法①-5
①優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除する事で生まれる(その5)
●理詰と空想 & 遊びと勉強(仕事)
 前号で固定概念や先入観を打破する方法として、理性と感性の自由な「交互往来」又は「瞬時往来」を提言した。

 理詰めで物事を考え、アイデアが出ない時、「夢」、「希望」、「好きな事」などを、謂わばデタラメに高く、広く、深く空想する。そこで出たアイデアを理詰めで現実のモノやコトに転換する。それで駄目な時、更に空想をする。「夢」、「希望」、「好きな事」が空想の源になっているので、誰でも空想は容易に可能である。やってみれば分かる。しかしそれが出来ない人は、そんな空想をしても無駄だ、無意味だと最初から決め付けているためだ。

 また前号でその交互往来を支援する方法として「遊び」の効用を紹介した。日本人の多くのビジネス・パーソンは、何故か「遊び」の効用を軽視する。子供頃から「遊んでないで、勉強しなさい!」といつも親から叱られて育っている。特に有名大学卒業の謂わばエリート・ビジネス・パーソンは、勉強VS遊び、仕事VS遊びの対峙概念になり、「遊び」を正当視、重要視、効用視できなくなっている。とんでもない偏見であり、誤解だ。夢工学の主張する「黄金三角ピラミッド」では、芸術とその一線上に位置する「遊び(エンタテイメント)」は共に、科学、工学、事業(ビジネス)のいずれにも強い影響力を持つ支配律である。

 「遊び」は、空想を高く、広く、深く展開するための「手段」になる。また固定概念と先入観の「基本律」をしっかり維持しながら、「優れた発想」の障害になる固定概念と先入感の一部を排除する役割を果たす。

 理性と感性の自由な「交互往来」又は「瞬時往来」を促進させ、根底で支える役割も果たす「遊び」を軽視したり、無視して、「遊んでないで勉強せよ」では本当の優秀な学生は育たない。「遊んでないで仕事をせよ」でも、真のビジネス・パーソンは育たない。忙しくても、瞬時を惜しんで遊ぼうではないか。

●映画とTVに於けるファンタジー(空想 & 感性)とリアリティー(理詰め & 理性)
 以前に本誌91号で特撮監督リチャード・エドランドを紹介した。彼は、映画をヒットさせる秘訣として「ファンタジー機能(F)とリアリティー機能(R)を同時同質に達成することだ」と筆者に語った。彼は「スターウォーズ」、「ポルターガイスト」などの特殊映画撮影(SFX)で幾つかのアカデミー賞を取った。そして理性と感性の瞬時往来が出来る人物である。

  出典:リチャード ・エドランド Boss Film社 出典:リチャード ・エドランド
Boss Film社
出典:Star Wars, Warsinthestras Co. 出典:Die Hard, Flyenghhouses Co, 出典:Poltergeist, Flickfucts Co.
出典:Star Wars,
Warsinthestras Co.
出典:Die Hard,
Flyenghhouses Co,
出典:Poltergeist,
Flickfucts Co.

 日本の最近の映画やTV番組は、見ていて直ぐに白ける。また見るに堪えないものが極めて多い。ファンジー機能(面白さ、楽しさ、怖さ)ばかり追求し、リアリティー機能(現実性、合理性、納得性)が決定的に欠落していからだ。日本の映画人、TV界の人達は、面白さや楽しさを追求することが絶対必要条件と思い込んでいる。まさしく固定概念や先入観の虜になっている。

 故・黒澤監督は、ファンタジー機能とリアリティー機能の同時・同質達成を口に出さず、黙々と昔から実践してきた。同監督は、世界の映画業界に多大な功績を残した。アカデミー名誉賞を受賞したのは当然である。もっと早く同監督に授与すべきであった。

 現在、大阪のUSJは、ハリーポッターで大人気である。このUSJプロジェクトを日本に持ち込み、新日本製鐵(株)に紹介した人物は、他ならぬ同監督である。筆者は、このプロジェクトの総括責任者として、その実現に挑戦した。この事を契機として同監督と親しくなった。しかしこのプロジェクトは潰され、無念の涙を落とした。

  出典:黒澤 明 Kurota Kaku 出典:黒澤 明
  Kurota Kaku
出典:七人の侍 椿三十郎 用心棒
出典:七人の侍 椿三十郎 用心棒
東宝映画 & 黒澤プロダクション

 同監督は、時代劇映画で箪笥の中にわざわざ着物を入れさせて撮影した。中の着物は映画のシーンで見えない。彼は「箪笥には着物が必ず入っているものだ」と撮影関係者に暗黙に伝え、徹底したリアリティーを追及した。彼もF機能とR機能の同時同質の達成の重要性と必要性を認識して、理性と感性の瞬時往来をした人物である。

●ビジネスの世界に於けるファンタジー(空想 & 感性)とリアリティー(理詰め & 理性)
 エドランド監督も、黒沢監督も、ファンタジーの世界を対象にしていながら、リアリティーの世界も対象にして、映画の本質を追求した。この事は、筆者を含め、ビジネスの世界に多くいる読者に極めて重要なメッセージを伝えている。

 エドランド監督も、黒沢監督も、良い映画を作るために悩み、打破できない固定概念や先入観に縛られたはずである。しかし彼らは、感性だけに頼らず、理性を働かせたのである。その事で万人が納得(理性的受容)し、同時に感動(感性的受容)する映画を創り上げたのである。

 従って我々、ビジネス・パーソンは、理性ばかりに訴える企画案、計画案、各種提案でなく、同時同質に感性に訴える案を創るべきであろう。

 感性に長けた映画人が苦手な理性を働かせたのである。理性に長けたビジネスマンも苦手な感性を働かせるべきである。そうすることで、その過程で自然に固定概念や先入観を打破され、優れた発想が生まれるのである。

●固定概念と先入観の打破のための「ゼロ・ベース発想」への疑問
 発想が出来なくなる、解決策が浮かばないなどの場合、思考の枠組みを全て外し、「ゼロから考えろ」と多くの学者、評論家などがよく主張する。しかし本当にそれでよいのか?

出典:ゼロ思考とは、maxresdefault.jpg&action
出典:ゼロ思考とは、maxresdefault.jpg&action

 筆者は固定概念や先入観は「拙いこと」「悪いこと」ではないと主張してきた。これこそが「生存のための基本律」であると定義した。全ての人が人生の全てを掛けて獲得した「基本律」である固定概念と先入観に堂々と向き合い、それを尊重することが重要である。

 にも関わらず、どうしても発想が出来ない、解決策が浮かばない時は、ゼロにするのではなく、ほんの少しだけ、基本律の一部を除外し、理性又は感性を働かせるのだ。ゼロベース思考は、まさしく全てをご破算にしてゼロからやり直す思考作業である。その様にすると、自分の専門性、経験性、そして基本律を全面否定することになる。

 もしそんな事をすると、検討対象に関して一から勉強し直すことになる。これでは無茶苦茶である。それでは最も効率の悪い検討をすることになる。それでも優れた発想や解決策を見出せれば良いが、そんなやり方をするだけの時間的、労力的、経済的な余裕はあるのだろうか?

 現実のビジネスの世界で徹底的に理性的に詰めるが、行き詰まったら、趣味や道楽で頭を「活性化」でなく「感性化」し、リラックスし、気持ち良くすることだ。繰り返して述べたい。理性と感性の交互往来を強く勧めたい。

 そして個人の思考ベースに於いては、理性と感性を交互往来する一方、組織の思考ベースでは、映画人やテレビ人なら理性化を目指すこと、ビジネス人やモノ作り人なら感性化を目指すことである。

 筆者は、頭が疲れると、応接間のグランドピアノでジャズを弾くか、自宅の半地下の事務所に設置しているクラビノーバで作曲し、CDを作る。また月一回、ジャズライブハウスの「箱出演」する東京倶楽部本郷店でトリオ+女性歌手の編成でピアノを弾いている。その機会に他のプロ演奏家と理性と感性の交流をしている。仕事と道楽を共にエンジョイしている。

 余談だが、読者にジャズ音楽を演奏することand/or唄うことを薦めたい。ジャズは自由が基本。自分の好きな様に演奏し、好きな様に唄えばよい。何も難しいことはない。気軽に演奏し、気軽に唄う。楽器演奏者は、自分の身の丈、実力の範囲でジャズを演奏できるし、楽しめる。歌も同じだ。音程が外れても、リズムが少々合わなくても何でもOK。ジャズは自由奔放で、いい加減な筆者にピッタリの性分が合った音楽である。

 ちなみに指で触れば音が出るピアノ、叩けば音がでるドラム、共に楽器の中で最も易しい楽器である。「ピアノが難しい」と言って儲けるピアノの先生は非難されるべきだ。他の楽器は音を出すこと自体が難しいのだから。従って読者にはジャズピアノを弾くことを薦める。

出典:ヤマハグランドピアノ C3 クラビノーバ CVP709 ヤマハ楽器HP
出典:ヤマハグランドピアノ C3   クラビノーバ CVP709
ヤマハ楽器HP

 ピアノとクラビノーバの写真を掲載するため「出典」を書かざるを得なくなった。その結果、ヤマハ楽器の宣伝になった。その意図は一切ない。読者に詫びたい。

 「夢工学式発想法」は、自由発想を基本にする。ルールなど無い。「ジャズ」とそっくりである。そもそも筆者は、高校生の頃から今年77歳のクソ爺になるまで、ジャズを楽しんできた。だから夢工学式発想法がジャズとそっくりになるのは当然かも。

つづく

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