グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第119回)
プロジェクトマネジメントのブレークスルー観測

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :11月号

 9月と10月に大学院教育の新たなモデル2つに触れる機会があった。いわば高等教育のブレークスルーである。一つは、筆者が自分で行った公立大学大学院における完全プロジェクト・ベースト・ラーニング(Project-based Learning)方式によるプロジェクトマネジメント実践論講義(英語)であり、教室もアクティブ・ラーニング教育用のものを使用した。大変良い成果がでた。もう一つは、文部科学省のリーディング大学院プログラムに認定されている大学院博士課程5年制文理融合一貫教育(オールラウンド型博士輩出プログラム)にキャリアパス講演で招かれもので、博士課程前期3年で理系1、文系1の2つの修士号を取得し、残りの後期2年(文系は3年)で博士号を取るという欧米並みのファーストトラック高等教育で、すでに第1期生は博士を取得している。講演に出席した全学の修士課程生から選抜された約40名の学生の極めて真剣な眼差しと質疑応答時の鋭い質問に、良い刺激を受けた。学生達も、この大学(学部)を母校とし、卒業後ちょうど50年になり、いまだに世界を駆け巡る筆者の極めてユニークなキャリアに大きな興味を持ってくれた。

 本コラムの先月号で、9月にカザフスタンで開催されたIPMA第30回世界大会の報告を行ったが、今号ではその延長で、大会で議論されたプロジェクトマネジメントのブレークスルー・トピックスについて報告する。大会初日に、基幹経済セクター、IT・ハイテクセクター、政府・公共セクターに分かれてPMのブレークスルーについてパネル討議を行った。ここで紹介するのは、筆者がリードモダレータを務めた基幹経済セクター(産業整備、インフラ整備、製造業、資源開発・プラント、基幹ITインフラ、直接投資等)のパネルで取り上げられたトピックスである。

“新現実”あるいは“新ノーマル”体制が現実となり、構造改革のためのプロジェクトが多くなっている、この傾向に対応できるPMが必要である。
In the making is an emerging management model for the new reality - New normal in the world.
世界のPESTLE(政治、経済、社会、テクノロジー、法制、エコロジー)要素が急激に変化するなかで、社会の広範な重大課題に対応できる(イノベーションの)マネジメント方式の探求がなされている。
There is an ongoing search for management compatible with changing PESTLE (political, economic, social, technological, legal and environmental) factors that can deal with diverse challenges in socio-economic, technological, environmental and geo-political aspects.
ヒエラーキーに依存するマネジメントは、たとえ伝統的な産業においても、機能しにくくなっている。個人のワークスタイル、労働価値に配慮したマネジメントスタイルが求められている。
Management based on hierarchy does not work well any longer - tolerate different working styles, different work values.
成功定義が変わるなかで、求められるマネジメントモデルも変わる。
New definition of success is demanding a new management model.
コマンド & コントロール型のプロジェクトマネジャーから、世代間意識ギャップを踏まえた、チーム員のセルフ・スターター意識を醸成するファシリテーター的プロジェクトマネジャーへの変革が求められる。
From command and control to project manager facilitation for self-initiative of project team members (be aware of the generation gap).
IPMA ICB第4版では、プロジェククトマネジメントの行動(理論)側面を重視している。
An emerging paradigm: Behavioural project management.
乱気流にさらされた基幹経済セクターではクライシスマネジメントを、PMを活用して行う必要がある(ウクライナ代表)
Breakthrough in enterprises of the main sectors of the economy by project and program management for innovation in a turbulent socio-economic environment (e.g. Ukraine).
直接投資を引き付ける重要要素は投資国の魅力度で、国の政治・経済・社会の予知可能性が高く、教育レベルが高く、優れたモチベーションを持ち、ミッション意識が高い国民が経済の第一線にいること、が重要である。
Country attractiveness as a decisive factor of Foreign Direct Investment (FDI) destination, given that trustworthy (predictable), dynamic, equitable nation with well educated, motivated, and mission conscious nationals are in the economic forefront.
設備投資プロジェクトの成功はフロント・エンド・ローディングによるところが大きい(フロント・エンド・ローディングはプラントエンジニアリング産業や日本の自動車産業が多用する超上流課程での機能横断チームによるプロジェクトの複合最適化手法)
Front-End Loading (cross-functional integrated team approach to project execution planning in the front-end stage). This is a key competence in the oil/gas/chemical industry, and at Japanese automotive companies.
第4次産業革命では、サステイナブルな変革が必要。
Sustainable change is gaining importance in the era of the 4th industrial revolution.
変動する世界では、実践知(フロネシス)がブレークスルー・コンピタンスとなる。
Phronesis as a breakthrough competence for success in the changing world.
 
 来月号では、ITセクターと政府のPMにつき、ブレークスルー傾向を取り上げる。
 
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