図書紹介
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サピエンス全史 (上) ――文明の構造と人類の幸福――
(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、(株)河出書房新社、2017年1月30日発行、第11刷、276ページ、1,900円+税)

デニマルさん : 10月号

今回紹介する本は、今年始めに買って3月頃に掲載する予定で準備していたが、諸々の事情で遅くなってしまった。その事情とは、MOE絵本大賞や本屋大賞や直木賞等の発表が続き、話題性の高い本をタイムリーに取り上げた為だ。先日の新聞広告欄に、この本が「全世界で500万部突破!」とあった。それとNHK「クローズアップ現代+」で放映され、朝日・読売・日経新聞や週刊文春等々で取り上げられて話題性が高くなってきた。更に、2017ビジネス書大賞も受賞している。実は、今回の本の色々な情報を調べている過程で、この大賞を知った。今年で8回目であり、この賞は「(前文略)、出版業界の活性化に貢献すると共に、日本のビジネスパーソンの成長、ひいては日本の産業界の発展に貢献する」(実行委員会の挨拶)と紹介されている。過去に、「伝え方が9割」(2014年、書店賞)、「嫌われる勇気」(2014年、特別賞)、「もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(2011年、大賞)等が受賞作品として選ばれていた。これらの本は、このコーナーでも紹介している。前置きが大変長くなったが、本題に入ろう。紹介の本は、人類の起源から現在のインターネット時代に至るまでの社会的な進展と人間の変遷を分かり易く書いている。著者はイスラエルの歴史学者で、現在ヘブライ大学で歴史学を教えている。その関係からか、学生に語る様に分かり易く系統的に纏めている。地球の誕生から人類の進化を経て、今日までの数十億年を2冊に集約した中味の濃い歴史学的ビジネス書である。

ホモ・サピエンス          ――人類が生き延びた歴史――
この本にあるホモ・サピエンスとは、homo は「人間」、sapience は「知恵」を意味するラテン語「知恵ある人」であるが、学術的には「ヒト科の中のホモ属の一種で、地球上に存在するヒトはすべてホモ・サピエンス」である。人類が誕生して、アフリカ大陸からアメリカ大陸等々に移動し住みついたのが1万6千年前で、その間に他の大型動物類を凌駕して生き延びてきた。本書は、その本質に迫り紐解いているのだが、それが認知革命であると書いている。この認知革命は、言葉を使った人類がフィクション(虚構)を共有して、想像力による集団行動で人類を脅かす動物や有益な植物を支配し今日に至ったと著者はいう。

火・言語(文字)・農耕        ――人類が生き延びた知恵――
人類の進化は、言語を使い、火を駆使して暖を取り、食物を加工して生き延びる過程で、武器をも作成している。その中で最も特筆すべき人類の知恵は、農業革命であると書いている。この農業革命は、従来の狩猟・採集生活に比べて安定した安全な生活が可能になり、楽な農耕・牧畜生活に変化していった。それは認知革命が活かされた農業革命で、その結果から「想像上の秩序」が生まれ、支配者と被支配に分化する。そして言葉を継続的に継承する手段として、文字の創出が人類の発展に大いに寄与している。従来の「想像上の秩序」が「過去の記録」として継承され、現在まで人類の英知の足跡として残っている。

国家統一からグローバル化      ――人類が生き延びる将来――
農業革命での農耕・牧畜生活が広範囲で大規模化する過程で、物々交換制度の不便さが、貨幣経済を生むことになる。この貨幣こそが、人類が信じたフィクション(虚構)をベースにした「取引の信頼関係」の上で運営されている。更に、この経済的に発展した種族や地域から国家等が自己利益の増大を目指した。紀元前2500年頃には、ペルシャ等に帝国が出現している。この帝国が世界をグローバル化の方向に導いている。それとキリスト教やイスラム教等の宗教も人類をグル―バル化の方向に纏める大きな力となっている。今まで述べた国家、貨幣、宗教は人類のフィクション上に成立し、その構造は今も変わっていない。


サピエンス全史 (下) ――文明の構造と人類の幸福――
(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、(株)河出書房新社、2017年2月1日発行、第13刷、294ページ、1,900円+税)


科学技術の進歩           ――社会生活はどう変わったか――
認知革命以降、人類は森羅万象を理解する努力をするが、それが困難と分かると無知を認めて、新しい知識獲得に力を注ぐ。近代科学は、観察と数学的アプローチで技術の開発を目指した。例えばニュートンやフランクリン等は独自の方法で科学を解明している。また、ナポレオンは、エジプト遠征に科学者を同行させ、領土拡大で実用的な知識を習得している。科学の解明が資本主義と融合して利益追究の道へと繋がっていると著者は書いている。

産業構造と経済進化         ――自由市場という競争化社会――
産業革命は、大量生産と大量輸送を可能にして消費主義が急速に発達した。その結果、ドンドン生産して、ドンドン消費する自由競争の市場経済へと変遷していく。この競争社会は、お金がお金を生み拡大の一途をたどる危険性を孕んでいる。バブルの崩壊以外でリセットされる方法はあるのか。認知革命によって人類共通の信頼を獲得したと思われる『フィクション』が本当に「虚構」か「虚構でないか」は歴史の流れが証明すると著者はいう。

超ホモ・サピエンス時代       ――文明進化からの人間の幸福――
この本の最後に、ホモ・サピエンスが経験した数々の革命や進化から、現代の近代科学は何をもたらしたのか。コンピューサイエンスを駆使したバイオテクノロジーは生命法則を変える所まで来ている。こうした科学進歩等を含めて、認知革命からの数々の進歩は、人類に幸福をもたらしたのであろうか。個人の欲望をある程度操作することは可能だが、著者は「最終的に人類は何を望むのか」の疑問を深く考えて答える必要があると結んでいる。

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