図書紹介
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月の満ち欠け
(佐藤正午著、(株)岩波書店、2017年7月25日発行、第4刷、322ページ、1,600円+税)

デニマルさん : 9月号

今回紹介する本は、今年度の直木賞を受賞した作品である。今年で157回を迎えた芥川・直木賞は7月中旬に結果発表された。このコーナーでは、過去に多くの直木賞を紹介している関係もあり取り上げた。今回受賞の作品は、他の候補作品に比べ前評判が高く早々に受賞決定したという。その評価は「特に文章がみずみずしく、的確で抑制が利いていると称えられ、練りに練った作品構成の巧みさも抜きんでている」と絶賛された。早速入手して読んでみると、これは直ぐにでも紹介したくなる程の内容だった。過去に直木賞や芥川賞や本屋大賞等の受賞作品を、ここで20冊以上取り上げているが、その中でもユニークで心に残る作品である。著者の佐藤氏は、作家歴30年のベテランだが初候補で初受賞である。名前の「正午」の由来は、アマチュア時代に佐世保市内の消防署が正午に鳴らすサイレンの音を聞いて、小説書きにとりかかるという習慣から思いついたと語っている。それと、この本の出版元である岩波書店は、創業1913年以来の初めての直木賞の受賞とのことだ。

謎多き少女「るり」            ――推理小説か?――
物語は、初老の会社員である主人公が東京駅のカフェで7歳の娘「るり」を連れた若い母親と会う所から始まる。その「るり」は初対面の主人公との過去を話し、持参した娘の遺作の肖像画も見たことがあると言う。娘の名は「瑠璃」で、高校の卒業式を終えて間もなく交通事故で亡くなった。車を運転していたのが妻で、一瞬にして二人の家族を失った。「るり」が「瑠璃」の過去を知る筈もない話を語る。推理小説を思わせる物語の始まりである。

永遠の愛を求める「瑠瑠」         ――恋愛小説か?――
東京駅では、主人公の友人とも待ち合せしていたが、遂に来なかった。その友人の妻の名も「瑠璃」で不慮の事故で亡くなっている。この小説には4人の「瑠璃」と称する女性が登場する。それぞれが子供であったり、人妻であったりする。筆者は、本の内容から相関図を作成して物語の展開ストーリを確認にしたが、複雑に絡み合った男女の繋がりがある。著者は、この複雑な物語をサラリと語る様に文章化し、小説家としての筆の冴えを見せる。

月の様に満ちては欠ける          ――SF小説か?――
この本に登場する名前の「瑠璃」とは、諺の「瑠璃も玻璃も照らせば光る」から来ている。だから、人も照らせば光って活躍の場があれば真価を発揮すると言っているのだが、途中で不慮の事故等で命を落している。更に題名の「月の満ち欠け」は、月が欠けてもまた満ちる様に、死んでも生まれ変わりを繰り返す輪廻転生を物語っている。4人の「瑠璃」が織りなすストーリィは、数奇なる愛の奇跡を見る様で結末を含め、読んでのお楽しみである。

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