PM研究・研修部会
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プロジェクトマネジメント標準の比較
~世界のプロジェクトマネジメント標準の特徴を知る~

PMAJ PM研究・研修部会 高橋 政孝 : 9月号

1.はじめに
 日本ではプロジェクトマネジメント標準としてPMBOK®ガイド  (以下、PMBOKと略する)が広く普及している。一方、世界に目を向けると多くのプロジェクトマネジメント標準が制定され、実務で活用されている。いずれもプロジェクトを成功に導くために、それぞれの視点・考えを活かしたアプローチで描かれている。当部会ではこれまで世界のプロジェクトマネジメント標準を研究し、紹介してきた。2017年7月21日に行われたPM研究・研修部会セミナー(以下部会セミナーと略す)”プロジェクトマネジメント標準比較”では、我がPMAJのP2Mと当部会で取り上げたPMBOK、PRINCE2について独自の視点で特徴を伝えた。その内容を簡単に紹介したい。

2.特徴を表す比較項目
 3つのプロジェクトマネジメント標準(以下、PM標準と略す)を比較するにあたり、特徴を明確にできる比較項目を設定するためにPM標準を比較・分析しているGAPPS(Global Alliance for Project Performance Standards)をベースに調査を進めた。GAPPSは、グローバルに適用できるプロジェクトマネジメントに関するコンピテンシーベースの標準、フレームワーク、マッピング等を開発する、政府、企業、プロフェッショナル協会、研修・研究協会などの集団であり、主要なプロジェクトマネジメント標準、PM標準との対応をマッピング表にまとめたものも随時メンテナンスし、全て無償で公開している。当部会の第12回部会セミナーで紹介した。このマッピング表ではGAPPS基準でプロジェクトマネジメント項目の記載の有無が書かれている。しかしながら、今回比較する3つのPM標準のマッピング表を参照してみると、いずれも代表的なPM標準であるためか、似たような結果となり、十分に特徴を表せていないと判断せざるを得なかった。
 そこで、我々はPM標準を実務で活用するシーンとして以下の2ケースを想定して独自観点の比較項目を開発することにした。
企業が、戦略実現の手段としてPM標準を検討する場合
受注型企業や組織内のプロジェクトチームが現場で使うPM標準を検討する場合
このケースをもとに、下記の比較項目を設定した。
経営視点が意識されているか?
母体組織とプロジェクトの関係が明示されているか?
組織としてのノウハウの蓄積が意識されているか?
プロジェクトマネジャーの役割と責任が明示されているか?
マネジメント体系はどのような考えか?
プロセスフローが用意されているか?
ツール・技法が記述されているか?
これらの比較項目をもとに次から各PM標準の特徴を簡単に述べたい。

3.PMBOKの特徴
 PMBOKの経営視点については、スポンサーが要求事項を把握しプロジェクトマネジャーに伝える。第5版からビジネスケースの記載が加わっているが、これはプロジェクトを取り巻く環境を知ることであり、監視コントロールの基準としてのベースラインはスコープ、コスト、スケジュールであることから見て、要求事項を計画通りにこなすことがプロジェクトマネジャーに求められるものと考えられる。10個の知識エリア、5個のプロセス群、47個のプロセスが定義され、インプット、ツールと技法、アウトプットが整理されており、現場で使えるものになっている。どちらかというと、現場視点のマネジメント手法と考えてよい。

4.P2Mの特徴
 P2Mではプログラム/プロジェクトは、「変革」や「価値創造」に関する思考と行動のプロセスと位置づけており、経営的視点からプログラム/プロジェクトを捉えている。そのため、組織活動の考えが強く、プロジェクトを支援するPMOの形態の充実やプロジェクトマネジメント組織成熟度による組織力向上の考えも取り入れている。ノウハウ・知識は収集するだけでなく、定型化し、普及させ、組織全体で共有することが特徴である。一方で、現場マネジメント視点で見ると、10個のマネジメント領域と5個のグループが定義されているが、PMBOKほどツールは体系化されていない。このことから、現場視点のマネジメントだけでなく、経営視点で組織的にプロジェクトマネジメントを考えるには良い体系であると考える。

5.PRINCE2の特徴
 PRINCE2は母体組織の一組織をプロジェクト活動と定義し、ビジネスケースでプロジェクトの正当性を逐次確認して経営とリンクさせている。大きな特徴は仕事の一部、またはすべてを他者に委任する考えであり、現場視点のマネジメント手法は別のPM標準に委ねていること、プロジェクトマネジャー含むステークホルダーの役割責任・権限レベルが明確に定義され、プロジェクトマネジャーを支援する組織体制が明確であること、プロジェクトパフォーマンスの6つの側面すべてについて、計画立案、委任、モニタリング、コントロールに焦点を当てたプロセスとテーマが統合されていることである。PMBOKもP2Mも調達の考えはあるが、調達先のマネジメント手法については十分といえない。PRINCE2の委任の考えは調達マネジメントに役立てられると考える。

6.最後に
 今回は代表的な3つのPM標準規格を比較した。その周辺の標準規格(プログラムマネジメントやPMOなど)は対象にしていないし、我々が設定した独自視点での特徴抽出であり、十分読み切れていないところもある。一つの見方として、それぞれのPM標準の特徴を感じてもらい、PMBOKだけではない他のPM標準を活用するきっかけとなってもらえればと思う。

以上

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