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人を巻き込む英語力

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 ここ数か月間、入社以来一番というぐらい、職場の仕事を大量にこなしてきた。グループ会社も含め、会社のほぼ全組織が影響を受ける、あるシステムの入れ替えプロジェクトをリードしてきたからだ。私の役割は、システムの円滑な導入に向け、新しい外国のベンダー、海外拠点、そして本社の主要なステークホルダーとコミュニケーションを取ること。新しいシステムということ、導入までのリードタイムに余裕がなかったこと、関与する人達の数が多数であるということ、時差があることなどから、大量の業務量があり、休日、早朝、夜間を問わず、主に英語でのコミュニケーションを取ってきた。組織間や人種間の文化の差を感じることも多く、正直、かなり疲れがたまることもあった。そんな中でも、受け取ったメール一本で、気持ちが楽になったこともあった。「人を巻き込む英語力」について、米国・英国のネイティブ・スピーカーとのコミュニケーションで得た、生きた表現を今回は、共有したい。

1.否定的な表現をできるだけ使用しない。
 私が各拠点に対して、ある指示を出したメールがあった。Please advise if you found any errors.(誤りを見つけたら、教えてください)と私は書いたのだが、それに対して、あるイギリス人が送ってくれた返事に、We’ll start the checking and report any corrections. (チェックを開始し、修正点があれば、報告します)とあった。
 Errors(誤り)と言うと、きつい印象を受ける。corrections(修正点)に変えることで、より前向きな印象を受ける。たった一言の違いだが、読み手が得る印象は違う。意識せずに使ったErrorsだったが、これからは、corrections(修正点)を使おうと決めた。

2. 良いことは、日本人からすると大げさに感じられる表現で褒める。
 私の方から何かを提案することが、今回のプロジェクトでは何回かあった。それに対して、That sounds like a great approach. (それは素晴らしいアプローチのように思えます)や、That sounds like a perfect plan. (それは完璧な計画のように聞こえます)や、It will be a superb and highly impactful program. (それは素晴らしくて、非常にインパクトのあるプログラムになります)や、Completely agree!
 (完全に同意します!)Super...thanks! (すごい!ありがとう!)といった返事が返ってきた。「完璧」ということは本来無いので、「大げさだな」とは思ったりしたものの、嬉しく感じたのは事実だ。こういった表現をネイティブ・スピーカーが普通にビジネス上のメールのやり取りで使っているということは、こちらが相手の提案に対してコメントする際にも、適宜日本人の感覚では大げさに思える言い回しを使った方がいいということなのだろう。

3. 相手をもっと頑張ろうとやる気にさせる表現を使う。
 自分の時間を削って相手のためにいろいろやっている時に、それが当たり前だと捉える人もいる。一方で、Appreciate your strong support.(あなたの強い支援に感謝しています)やHugely appreciated. (大変に感謝している)などと言われると、「感謝されているなら、もう少し頑張るか」という気になり、例えば好きなドラマを視ることができなくてもいいか、と思える。あるいは、もう少し具体的に、Thank you for going through this process with us. (このプロセスに私たちと一緒に取り組んでいただきありがとうございます)と言われると、「ちゃんとわかってくれているんだ。本来は、先方が単独できちっと仕上げるべきところが不十分なので、私がサポートしているということを」と自分の中で考えが巡り、「じゃあ、継続してサポートしてあげようか」という気になる。あるいは、You are really on top of everything. This will be a success. (あなたは本当にすべてを把握している。成功するでしょう)と言われたりすると、仕事が後追いになっていてまだやれていないことがある状態でも、「そこまで信頼してくれているのなら、それに応えなきゃ」という気になったりする。

4. 相手の不安を取り除く表現をする
 想定外のトラブルが生じて、「どうしよう?」と青ざめたこともあったが、そんな時にその領域の専門の人が、Leave it with me.(私に任せて)というメールを送ってきてくれた時は、「助かった!」と心の底から思い、一気に心が軽くなった。そして、私も誰か困っている人がいた際に、ここまで自信を持って言い切れるだけの根拠―スキルやマインドや能力を持っていたいと感じた。また、Leave it with me.程の強い表現ではないものの、例えば担当者の人が不在の際に別の人が、XX-san is back on Monday, in the meantime is there anything you need from me today? (XX-さんは、月曜日に戻ってきます。その間、今日私が何かする必要があるものはありますか?)と書いてくれた人がいたのは、有難かった。かつて同様な状況だった際に、「それは私の仕事ではないから」と冷たく言われたことがあったのとは大違いだ。
 システムの開始は今月だが、これからシステムの活用フェーズに入る。このプロジェクト自体は、まだ当面継続する。10月にはこのプロジェクト関連で、海外拠点を回る計画も立てている。これらの経験を通じて、「人を巻き込む英語力」についての学びを深めていきたい。

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