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「エンタテイメント論」(114)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
発想阻害排除法①-3
①優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除する事で生まれる(その3)
●固定概念と先入観は生存のための基本律
 先月号で固定概念と先入観について極めて重要且つ本質的な事を述べた。そのため敢えて本号でも繰り返し述べたい。

 人類発祥の日から今日まで、多くの先人達は、我々人類の為に数えきれない程の偉業を成し遂げた。今後も更なる偉業が多くの人達によって成し遂げられるだろう。

 現在に生きる我々は、これらの偉業の中の様々な「具象化された知恵」と「抽象化された知恵」を学校で、大学で、職場で、生活の場などで習得する。その習得とは、それらの知恵が我々の第一の脳(頭脳)、第二の脳(腸)、第三の脳(肌)に刷り込まれ、埋め込まれ、思考と行動の「源」になることである。

 これらの刷り込まれ、埋め込まれた有形・無形の知恵は、我々が「安心、安全、安定」して生きていく支えになるものである。言い換えれば、それらは正しく「生存を支える基本律(憲法)」である。

出典:基本生命律 slideshare net 出典:基本生命律
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 この基本律こそが「固定概念」や「先入観」の真の姿である。従って我々の基本律である「固定概念」と「先入観」は、そもそも容易に変えられるものではない。また打破出来るものでもない。むしろ簡単に変えられ、打破されては困るものである。

●固定概念や先入観への否定論
 しかし社会生活の場では固定概念や先入観は「メンタルブロック」と同一概念と理解されたり、否定すべき存在と認識されたり、捨て去られるべきものと考えられている。何故なら固定概念に縛られ,他者の意見を聞かない人、全ての事を無理やり自分の「固定概念」にはめ込もうとする人、自分の「枠」から外れることを極端に嫌う人、自分の「枠」で解決できないと不安や恐れの感情が沸き上がり、怒りの感情で攻撃的な行動をする人などがいるためだ。

 その結果、固定概念や先入観を否定的観点(Negative Aspect)から判断する事が大勢を占め、肯定的観点(Positive Aspect)から判断する事が稀である。

出典:いろいろな固定概念の人達 clipart com 出典:いろいろな固定概念
の人達 clipart com

●筆者の固定概念や先入観への考え方
 筆者は固定概念や先入観を肯定的観点から観ている。固定概念や先入観は本来否定すべき存在でも、間違を起こす源でもない。それらは我々の思考と行動の「安心、安全、安定」の支えである。否定や間違い問題は、固定概念や先入観よりもっと他にある事が原因になっている。

 筆者が「固定概念」や「先入観」を打破する事を主張するのは、「発想」がこれ以上進まず、何も生まれない強固な壁(メンタルブロックではない)にぶつかった時、発想のために一時的に打破を求めているだけである。

●固定概念と先入観の打破方法
 今月号で固定概念と先入感を如何に打破するか? を説明する事を約束した。しかし筆者の打破方法を説明する前に、世の中では一体どの様な「打破方法(解除方法)」が存在するのか?以下で代表例を紹介したい。

▲感情距離感説
 自分の「枠」で解決できない時、不安や恐れの感情が沸き上がる。その感情を抑圧できない場合、怒りの感情となる。この感情をニュートラルに捉えるべきである。感情に巻き込まれ、支配されると固定概念に縛られ、枠からはみ出ることが益々できなくなる。従って自分の感情に距離感を持つこと、それによって冷静に判断する。そうすれば固定概念や先入観を打破する。

▲対象距離感説
 目の前の刺激や事象に距離感が近すぎるから周りが見えなくなる。距離感を保ち、視点を高くし、俯瞰して見ることである。そのために必要なことは、自分の思考と行動のエネルギーを高めることである。日々、エネルギーを高める生き方を実践して初めて距離感を保てる。

▲視点増加説
 新たな視点を増やす。固定概念に縛られることは、ある特定の「枠」に、はめ込まれ、視点が偏った状態を云う。視点を偏らないため多面的にモノゴトを捉えること。しかしやみくもに視点を増やしても、それを結合させ、統合できなければ、バラバラになる。それでは対象が立体的に浮き彫らず、何が何だか分からなくなる。そのため自分自身から見た視点と第三者から見た視点の二つから始めてみて徐々に視点の数を増やし、モノゴトを多面的に、立体的に捉える。

▲リフレーミング説(reframing)
 これは、ある枠組み(フレーム)で捉えられている枠組みをはずして、違う枠組みで見ることを指導するカウンセリングの技術。これは本人だけでは不可能で、第三者の力が必要と云う考え方に立脚している。

 リフレームの目的は、今までの考えとは違った角度からアプローチしたり、視点を変えたり、焦点をずらしたり、解釈を変えたりと、誰もが潜在的に持っている能力を使って、意図的に自分や相手の生き方を健全なものにしてポジティブに見る考え方がる。

 例えば、同じ事でも、見方や感じ方が異なり、ある角度で見たら長所になり、また短所にもなる。筆記試験で残り時間が20分の時、悲観的に考えた場合は「もう20分しかない」と思う。しかし楽観的に考えた場合は「まだ20分もある」と思う。この技術で固定概念や先入観から脱出する。

出典:いろいろな枠 completedpeople com 出典:いろいろな枠
completedpeople com

▲自分 & 他者把握説
 自分が持っている固定概念を知るため些細な事でも思いつくまま書き出す。書き出す事で客観的に見つめる事が出来る。自分の良くない固定概念が何か分かったら、それを取り払う為の行動を試す。

 人と関わる事は何より刺激になる。考え方も、物事の捉え方も、人それぞれ違う。自分と似た人も、真逆の人もいる。共感し合える相手と過ごす方は心地良い。しかしそれだけでは自身を知る事は出来ない。人と関わって初めて新しい発見や今までと違う考え方を取り入れられる。

▲自分思考懐疑説
 これは、人を疑うのではなく、自分の考えを疑う事。例えば強面の人に出会った時、今までの固定概念では「怖い人」、「意地悪な人」と思う。しかし「本当にそうだろうか?」と疑う。また見た目の悪い料理を、今までの固定概念は「不味い」と手もつけなかった。しかし「もしかしたら、美味しいのかも?」と1口でも食べてみる。簡単な事から固定概念で踏み止まっていた1歩先を進む。その繰り返しで、少しずつ固定概念が取り払われる。

▲読書説、映画鑑賞説
 様々な本を読んだり、さまざまな映画を見る。好きなジャンルの本や映画だけでなく、興味のないジャンルやテーマのそれも見る。その結果、全く今まで知らなかった事や考えもしなかった様な事を知る。この事で自分の固定概念が覆される。

出典:本 cliparting com 映画 openclipart com
出典:本 cliparting com 映画 openclipart com

▲海外旅行説
 世界には様々な国があり、文化や常識が異なる。日本では当たり前の事が海外では通用しなかったり、その逆もある。それを体験する事で刺激を受け、自分の世界観が変わる。

 何よりも偏った固定概念の自分の世界観(価値観)を取り払うことが出来れば、自分自身が変わる。自分が信じていた固定概念を覆す体験は、自分の中に新しい価値観や考え方を植え付ける。

▲メンタルブロック解除説
 メンタルブロックとは「心にある壁」。何かに挑戦しようとしても自分には「できるはずがない」、しかし「せねばならない」など、行動する以前に既に出来上がった否定意識などが自分の思考と行動を抑制、抑止、悩ませる。その結果、どうにもならない状態に追い込まれ、それが高じて精神的障害(うつ病、精神障害など)を起こす。この原因は、固定概念や先入観に縛られたからだ等の考え方が多い。

 しかし「人と会いたくない」「人間が怖い」「緊張する」などがメンタルブロックの症状、それが基の「うつ病」や「精神障害」に関して、固定概念や先入観を「悪者扱い」にし、それを否定するだけの精神的障害解決策には要注意である。

 何故なら「うつ病」などに関して、第1の脳(頭脳)の他に、第2の脳(腸)や第3の脳(肌)の研究から精神的ストレスだけでなく、腸と肌の障害も「うつ病」などに関係していることが分かってきたからだ。これらは医学的分野の対象である。「夢工学式発想法」の範疇の外にある。

 メンタルブロック解除を日本では潜在意識の浄化とも言われる。この解除方法は①自分自身の心中の恐怖を知り、受け入れること。②メンタルブロックが外れた自分を何度もイメージすることなどが解除の基本である。

出典:メンタルブロック coachphil com 出典:メンタルブロック
coachphil com

▲スコトーマ解除説
 スコトーマとは「盲点」の意味。目の構造上見えない暗点のことで眼科の用語。最近、これが心理学盲点=スコトーマとしても研究され、活用される。これは過去の辛い、厳しい、恐怖の経験の固定概念から生まれる。

 これを解除するには、楽しい、嬉しい、清々しいと云う気持ちで過ごせるコンフォートゾーン(心地良い領域)を広げること。自分自身に以下の事を自問自答すること。本心から好きなものは何か? やりたい事は何か? 嬉しい事は何か? 必要な事は何か?を明らかにし、やりたい事を実践し、やりたくない事はしない。「自分に素直に思考し、行動する」ことでスコトーマを解除する。

▲禅解除説
 世界の時流を変えたアップル社の故・スティーブ・ジョブズは「禅」を学んだ。彼はそれに依って固定概念に囚われない大胆な発想をしたと言われている。

 「禅」とは信仰ではない。禅宗とも異なる。霊魂観、死後の世界観、教義、経典、信仰対象の神など一切ない。「禅」とは、座禅の作法で坐禅し、自己と向き合い自己洞察の研鑽を積むもの。そして主観と客観、自己と他者、善と悪などの相対以前の「存在」に迫ることを目指すもの。この座禅修行で自分が信じること、大切にしていること、目指すこと等が迷いの根元であり、実体のない幻影である事を気付かせ、「人間の心」の本質を自覚させるもの。

 「坐禅」は「解脱(一切の迷いや束縛を脱して自由で安らかな心を得ること)の道」である。しかし一方で「坐禅」で「得るものは何ものもない」。むしろ「捨ててゆく道」でもある。

出典:座禅修行 Modernmonk Ch 出典:座禅修行
Modernmonk Ch

 固定概念や先入観を脱出する「在り方」や「やり方」はまだまだ他に多数ある。とても書き切れない。また本号は珍しく6ページ(A4用紙)になり、通常の号の枚数を遥かに超えた。ここで説明を終えさせて欲しい。また筆者の「脱出方法」は、紙面に余裕がないので、次号で説明させて欲しい。


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