PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(113)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :8月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
発想阻害排除法①-2
①優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除する事で生まれる(その2)
●魚PJT
 先月号で、どこの水族館もエンタテイメント(面白さ、楽しさ、怖さ)への発想は似たり寄ったりで、エンタテイメントの本質を理解し、それを本格的に導入した水族館は皆無であった。言い換えれば、どこの水族館も「水族館はこの様にあるべきだ」と云う固定概念や先入観に縛り付けられている事を述べた。皮肉な事に固定概念や先入観を打破するべきは、筆者が取り組んだ水族館ではなく、日本の他の多くの水族館であった。この状況は今も変わらない様だ。しかし何故、固定概念や先入観に縛られるのか?

岐阜バーチャル&リアル世界淡水魚水族館プロジェクト、岐阜・昭和村プロジェクト

●昭和PJT
 先月号で、計画地が南北に細長い形であること、岐阜県の形と全く同じではないがよく似ていること、従って岐阜県の長い歴史の中の「ある時期」を捉え(太平洋戦争の時期を外す)、岐阜県丸ごと空間的に計画地に「はめ込む」と云う時空の「基本コンサプト」を思付いた。嬉しかったより安堵した。「昭和=太平洋戦争」の固定概念と先入感は消えていた。しかし何故消えていたのか?

●固定概念とは? 先入観とは?
 そもそも固定概念や先入観とは何か?を考えてみたい。

 ある人物は、本人が持つ考え方、概念、イメージ等に他の人物からその誤り、欠点、問題点を指摘される。しかし本人は、それらを訂正又は変更する意志を全く持たない。また本人は、新しいアイデア、考え方、概念等などを見付ける努力をする。しかし従来の考え方や概念等に支配され、何も見付ける事が出来ない。この様な状況に在る考え方や概念等を「固定概念」と云う。

 ある人物は、検討対象となるモノやコトに直接接触する前に、他の人物からそれらのモノやコトに関する情報を言葉若しくは関連する書物などで得る。しかし直接接触していない為、不十分な情報である。にも拘わらず、本人自身が無意識に、ある考え方や概念等を形成する。その結果、本人は、モノやコトに直接接触しても、接触前に形成した考え方や概念などに引っ張られ、モノやコトを「在るがまま」に正しく認識できず、理解できなくなる。またその時に形成していなくても、既に従来から強く固まった考え方や概念等を持っていると正しく認識できず、理解できなくなる。この様な状況に在る考え方や概念等を「先入観」と云う。

 以上の様な固定観念や先入観は、誰もが必ず持っている。そのため他の人物から誤りや問題を指摘されても、自分の考え方や概念等を容易に変えない。また自由な発想を妨げる様な固定概念や先入感は、知識や経験を積み重ねるほど強固に形成される。しかも一度持つと変える事や消し去る事は難しくなり、「鍵」を掛けた様なマインドになり、モノやコトを「発展」させる様なマインドの形成から益々遠ざかる。

出典 固定概念 vs 成長概念 designedbyteachers.com
出典 固定概念 vs 成長概念
designedbyteachers.com

●固定概念、先入観は何故、生まれるのか?
 人間は、幼児や子供の頃は、強い固定観念や先入観はなく、物事をそのまま感知(感性発揮)し、そのまま理解(理性発揮)する。しかし小、中、高校生、大学生、社会人と成長していく過程で「五感と体感」と「学習と経験」を基に本人は、自分にとって「有益か? 無益か?」、「有害か? 無害か?」などを感知し、識別し、自らの第一の脳(頭脳)、第二の脳(腸)、第三の脳(肌)に埋め込み、理解する。第一、第二、第三の脳とは何か? 別の機会に説明する。
 
 この様な感知、識別、埋め込み、理解の積み重ねによって、本人は、本人独特の思考と行動の「在り方(基本的考え方)」と「やり方(具体的方法論)」を確立する。更に社会生活を通じて多くの「習慣」、「常識」、「ノウハウ」などを獲得する。その様な過程で固定概念や先入観が生まれる。

●固定概念と先入観の真の姿
 本発想法では「固定概念や先入観を打破せよ」と主張している。

 注意して欲しいことは、固定概念や先入観が新しい発想の障害になる場合にのみ「打破せよ」と主張しているだけだ。固定概念と先入観を最初から「悪者」と決め付けている学者、評論家、一般人が多いことは残念である。筆者は、それらが間違った概念や観点であると主張している訳ではない。むしろ固定概念や先入観の真の姿を認識して欲しいと主張している。

 科学、工学(技術)、事業(ビジネス)、それら全ての頂点に立つ芸術は、人類史に残る素晴らしい「知的生産物」を生み出し、現在の文化と文明を形成した。そして今後も生み出し続けるだろう。この姿を「黄金の三角ピラミッド」と命名し、図式化した。

出典:「夢工学」(著者:川勝良昭 出版:亜細亜大学購買部)
出典:「夢工学」(著者:川勝良昭 出版:亜細亜大学購買部)

 古今東西の多くの科学者は「新しい知」を、工学者は「新しい技」を、事業家は「新しい価値」を、そして芸術家は「新しい美」を夫々創造するため、「汗と涙と血」を流す事を厭わず、むしろ好んで流し、挑戦し、知的生産物の実現と成功に貢献してきた。そして今後も貢献するだろう。

 特に筆者が定義する「芸術」は、人々の心を豊かにし、幸せにする哲学、思想、宗教、文学、音楽、美術などを意味するだけでなく、人々を心から楽しませる「エンタテイメント」も意味し、その全てを包含する。そして「芸術」こそが科学、工学、事業を支配する最も根源的な「存在」である事を強く主張したい。

 更に「芸術」に関して追加指摘したい。欧米の公の会合やレセプションなどの「場」では、芸術家は、着席する政治家、事業家などの中で最も高い席が与えられ、高遇されている事実が在る。これは欧米人が「芸術」を最も高く評価している証左の一つである。日本ではあり得ない事だ。

 また欧米では「芸術」が生み出した数々の芸術作品だけでなく、多くの都市に残る貴重な建造物を昔も、今も大切に保存している。市民が自腹を切って自分の時間を犠牲にして「建物保存運動」をしないと、都市構造物が次々と取り壊わされる国が存在する。どこの国か? 賢明な読者は知っているだろう。そもそも「芸術」を最も高く評価していない国だから破壊行為が起こるのだ。

 筆者の定義する「芸術」は、エンタテイメントを伝統芸術と同じ線上に乗せ、極めて重要な位置を占めるとしている。優れた「エンタテイナー」は、日本と違って欧米社会では極めて高い評価を受け、憧れの職業になっている。マジシャンはエンタテイナーの中で最高の評価を受ける。この事を多くの日本人は知らない。日本に世界に誇れるエンタテイメントが殆どいない。残念の極みだ。

出典 人々に豊かさと幸せを与える「芸術」 artofhappiness institute 人々を楽しませる「芸術」 michelmasici com
出典 人々に豊かさと幸せを与える「芸術」 artofhappiness institute
人々を楽しませる「芸術」 michelmasici com

 以上の通り、芸術、科学、工学、事業は、我々に多くの恩恵と知的生産物をもたらした。我々はそれらを学校で、大学で、職場で、生活などの場で習得し、思考と行動の知恵に、生きるための知恵に、そして人生の知恵にしている。

 これらのすべての「知恵」は、我々の第一の脳、第二の脳、第三の脳に埋め込まれ(ビルトイン)思考と行動の「源」になっている。それらは正しく「生存のための基本律(憲法)」である。この基本律こそが他ならぬ「固定概念」や「先入観」の真の姿である。我々の基本律である「固定概念」と「先入観」は、おいそれと容易に打破できない一方、絶対に捨ててはならないものである。

●固定概念と先入観を打破する方法
 打破し難い一方、捨ててはならない「固定概念」と「先入観」を発想のために如何に打破するか? 今月号で説明する予定であったが、紙面の制約から次号で説明する事にさせて欲しい。

つづく

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