グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第117回)
真夏の内外キャンパス廻り

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :9月号

 8月第1週は、日本の大学院大学で一週間の集中講義をしていた。当学での筆者の英語の講義としては7年ぶりに日本人の修士課程生が受講してくれたが、残り3名はバングラデッシュ、パキスタン、ケニア国籍であった。4名でも科目講義を催行というのはすごいが、4名はましなほうで、以前、初日午前は1名のみで、講師も学生もどうしようかと思ったことがあった。幸い午後からもう1名加わりようやく授業になった。
 
 私立の大学では考えられないことだが、少人数の大学院での集中講義の初日は、講義が成立するだけの学生が教室に実際にいるかどうかが客員講師には大変心配である。学生が履修届を出すのと実際に講義に出席するのは別の話で、歩留まりは7割程度である。事前配付の教材をザーと読んで、付いていけない、と感じたらそこでドロップアウトとなる。そして、始業時間に教室に居るのは日本人、韓国人そして中国人学生だけ、というのが普通となっている。授業の時間に遅れるのは決して怠けているからではなく、決まった時間に間に合わせることができるのは、実は東アジアの人間だけの特技なのだ。
 
 フランスの修士課程で教えていた時は、9時始業で学生が集りだすのは9時20分頃、揃うのは9時半で、ウクライナやロシアでは、大体10分遅れ、チャンピオンはセネガルで、授業開始は公称午前10時であると、学生が揃うに最短でも1時間かかる。アングロサクソン民族もピンポイントで時間を合わせるのはほとんどできない。なぜなのか。日本人の大人ならほぼ誰でもできるが、ある場所にある時間に着くための行動段取りができないのである(何時に起きて、朝食を何時から作って、その日の服を決める、など)。くだんの大学院では南アジアやアフリカ、モンゴルの学生は、全員キャンパス内の寮に住んでいて、目をつぶっていても教室にたどり着けるはずであるが、休憩の後でも、かならず5分から10分遅れて来る。
 
 一方、首都圏の大学院の授業で、いつも不思議に思うのは、教授からその日の時間割を必ず黒板に書くように言われることで、全体の時間割は科目案内に書いてあるのに、だ。今の日本の大学院生は、この時間割から狂うと不快感を表す者もいるとのこと。これでは世界は無理だ。
 
 この原稿を書いている8月には、岡山県立大学、慶應義塾大学(日吉キャンパス)、北陸先端科学技術大学院大学そしてフランスのSKEMA経営大学院大学と4つの大学院で講義を行った。これは筆者の新記録である。なんとか全て無事終わったが、実に強行軍であった。4校目のフランス大学院では、朝9時から夕方5時半までのEU世界博士課程セミナーに加えて夜の3時間のファカルティ・デイナーがある。ディナーにはワインが付き物で、自分がいまだに働いているのはワインを飲むためと嘯いている筆者は、ほどほどに、にという自制はフランスに居ると効きにくい。これでは疲れないわけがない。
 
 実際、筆者の講演“Lessons Learned from Recent Major Oil & Gas and Infrastructure Projects” は、セミナーの最終日の最終枠で実施、という試練であったが、前日夜のセミナー・メインディナーで、同席した米国Dean Kashiwagi教授と英国Darren Dalcher教授は、酒絶ちで、目の前にある白赤のワインボトルが空かないのでは主催者に失礼であると発し、隣のオランダのコンサルタントの女性と二人で、四分の三ボトルずつ飲んだであろうか。ウコンの力粉末錠のおかげで、酔うこともなく良く眠れたが、このたたりは翌日午後に出た。急に疲れがでて、自分の講演では活舌が悪くなりキレが良くなかった。英語が滑らかに出てこないのである。筆者には、9月第1週のIPMA世界大会での基調講演・基調パネル議長・元学生のとの論文発表及びポスター発表が控えており、その準備をかなり真剣に行う必要があったので、慣れ親しんだSKEMAセミナーでの講演プレゼンテーションの準備に手抜きがあった。
 
 カザフスタンでの世界大会でも筆者の基調講演は、3日目のクロージング・キーノートである。ということは、前日2日目の夜に大会のガラ・ディナーがあるということで、宴会での素晴らしいワインの誘惑とどのように戦うか、という新たな課題がでてきた。IPMA世界大会のガラ・ディナーはPM界で最高のディナーで、タキシードイベントである。そこで供されるワインを飲まないと悔いが残るので、やっぱり飲むことになるであろう。その代わり、基調講演の準備だけは、かつての一発勝負のプレゼンテーションの頃に戻って、きちんとやる必要はあるが。
 
 2002年から通っているSKEMAのEDEN世界セミナーであるが、本年が最後とほぼ決めている。自分の学生はすべて卒業したのと、西ヨーロッパ流のリサーチに常々違和感を持っていたことからだ。但し、リールの街にはまた遊びに行きたくなるであろう。
 
EDEN Seminar : 10年後のPM---グループ討議 セミナーディナー(最盛期の4分の一の規模)
EDEN Seminar : 10年後のPM---グループ討議 セミナーディナー(最盛期の4分の一の規模)
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