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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (41)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (17)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 8月号

Z. 先月は公園部会の皆さんにエンジニアリング的な資料の作り方をしてもらい、町行政の担当課長に説明し、ほめられたといわれたが、町からの回答はどうだったかな。
I. 回答は得られました。私たちが申し出た大きな公園の改修に対しては町も何らかの改修の必要性を認めており、支援する旨の報告がありました。それ以外の再生協議会のテリトリーの公園の改修に関する課題解決には至りませんでした。再生協議会が実施する領域内での公園改修については町の担当課長の関心は金のかからない面白い提案が出たらいいね、という程度でした。そのため再生協議会はハード(遊具)等を提供しない公園の活用化を提案する羽目になってしまいました。
Z. 町に関心がなく、今の公園活用で住民も困っていないなら、公園の活性化に真剣に取り組む必要性がないのではないかという反論もある。公園の活性化を求める本音は何なのかね。
I. 鋭い質問ですね。今地方自治は人口減少による限界集落化という課題に取り組んでいます。この課題の解決に、町は企業と共同でビジネスを始め、収入源を増やすことを考えています。“アベノミクス”はこの機会を提供しています。
 いま日本のGDPは500兆円です。これを600兆円にのばすのが“アベノミクス”の狙いです。しかしGDPは人口と比例していることが過去の実績で分かっています。そこで“アベノミクス”が考えたのが国内に規制緩和のための特別区を設け、新ビジネスを開発することでした。理由は「官は一度制定した規制を時代が変わっても、廃棄することをせず、規制によって保護された企業が成長の見込みもないまま生き残り、新しいビジネス開発を妨げている」との考え方が国内に存在することです。“アベノミクス”は官による規制の緩和を実施する目的で国内に特別区を設け、政府指導による規制緩和を実施し、新しいビジネスを許可するという大きな特徴を持っています。
 例えば、経産省管轄下に産総研という研究機関があり、膨大な予算を抱えていながら、特許出願が少なく、ここ数十年で収益をあげた研究が1件程度という報告を研究員から聞きました。その理由は官が管理する機関では、仕事を管理するのではなく、官による権限を管理しているわけです。そして成果は官が手にしますので、民間数社を集めて共同研究しても、民間は手持ちの有力な技術を開示しません。それに対し米国の巨大研究所は、その研究そのものを一式選ばれた民間企業に委託します。そして官による管理はPM(プロジェクトマネジメント)手法によるWBS管理を規則づけることで、容易に管理し、成果を出しています。それは成果を出すことを契約で決めているからです。日本の研究所は金が正当に使われているかを管理することが目的となり、成果を出す責任を定めていません。この長年の欠点を突いたのが“アベノミクス”でした。“アベノミクス”はその事業が採算ベースに乗るならば、資金援助をすることを約束していました。

 ここで本題に入り、私どもの再生協議会の事例を申し上げます。町は自前で確立した総合戦略を踏まえて、5部会を設立し、残りの課題を検討する部会を臨時部会として発足しました。私は公募に応じて、この検討部会のメンバーとして参画し、町の総合戦略を読み返し、課題解決のための立案をしました。
 私はP2M研究会で限界集落問題を研究してきましたので、全体をまとめた総合戦略案を提供してみました。この戦略は6部会を個々に運営するだけでなく、この6部門をプラットフォームとする総合戦略構想を提案しました。その理由は個々の部門の戦略を実施しても行政の実施範囲から卒業できず、限界集落解消にならないからです。もし、各部門が個別でなく、全体をプラットフォーム化することで、企画を検討すると、次々と新しい発想が生まれ、種々のアイデアが出てきます。そして総合力が拡大します。アイデアが5つ以上あると、実施事業に優先順位をつけることで、できるものから進めるという柔軟な対応ができます。また、難しい問題は先送りすることもできます。アイデアを変化させ高度化することもできます。これを行政各位が担当範囲内だけで考えると、行政の各部署で壁ができ、行政を上回るアイデアをつくることができません。プラットフォームマネジメントができるとアイデア構築という手法が大きく生きることができます。
 しかし、この提案を受けた責任者は回答することに困り、検討部会はその範囲内で小さくまとめ、3か月で答えを出す内容にせよという指令を出しました。それも一理あるとおもい、現執行部案で業務を進めました。しかし、これでは将来行き詰まることが見えているので総合戦略は棚上げではなく、棚に保管しました。この理想案は組織の異なる他の組織が全体の理念を理解し、新しいビジネスに挑戦するという壮大な内容です。しかし、その実現には数年かかり、町長選挙という大きな課題を持つ町長にとっては、理想はその通りでも、次期選挙で町長が当選できないと絵にかいたモチになります。そのため、壮大な案は誰も求めないことが理解できました。
 次に私は町の老人会にも入り、住民がどのような危機感の中で、この再生協議会を進めているか調査しました。今この町が熱心に進めているのは、高齢者の健康寿命促進運動で、住民もある程度の満足感があり、危機感が全くないことがわかりました。

 危機感とは、人口減で町の収入がへりますが、町を維持管理する費用は人口減少となっても減らないことから、行政は赤字財政になります。このため町は2つのことを考えねばなりません。第一は民間企業と組んで、町の収益を増やすこと。第二が健康な高齢者が増加するので、健康な高齢者を人材としたボランティア化を進め、経費の低減を図る方法です。町は今”通いの場”という制度をつくり、健康高齢者の健康促進をしています。ゆくゆくはこれらの健康高齢者を活用し、第二のケースに適用する考えでいるのかもしれません。
Z. 住民に関心が薄い課題を処理するのは大変だね。しかし、限界集落の解消は町の収入を増やさない限り、問題は解決できないことは自明の理だ。住民の関心の薄さを理由に、 課題を先延ばしする手法は好ましくないな。
 しかし、最近の東京都議会選挙での結果を君たちはどのように見ているかね。
 先ほどIさんから話があったが、「“アベノミクス”は官ががっちり抑えてきた既得権益を、安倍政権は特別区を設け、特別区内では従来からの規制を外し、民間活用を考え、民の活動範囲を拡大する発想だった。そのために官の規制に対し、政府が口を挟ませない方法で、規制外しを実現してきた。しかし最近の安倍政権の権力行使手法を見ると、数の論理を駆使する権力へのおごりがあり、権力行使のやり方がマスコミを通じ、国民に伝わり、国民からの不満があった。しかし対抗馬がないことに安心し、その対応がずさんであったため、今度は官側の規制外しに対する報復措置(江戸の敵は長崎でとる)というカウンターパンチが功を奏した。官の勝利ということは、“アベノミクス”が原点に戻ったということで、喜ばしくないことを国民も理解してほしいと思う。
 官とマスコミは常に政治の潔癖性を要求し、国民の潔癖性を利用して、官が望む権力集中への巻き返しを図ってきたが、今度もまた成功した。今の世界経済の中で生き残るには、官が持つ能力だけでは日本は完全に後れを取っている。そしてこのことを国民はまだ気が付いていない。これで民活を利用する“アベノミクス”という地方再生に対する勢いは失せる可能性が高い。Iさんも行政にたいする対応には注意深く、無理をしないことが肝要だと思うよ。
I. ありがとうございます。その通りですね。そこで私は上部機関からの要請を素直に受け「2度目のワークショップ」を開こうと考えています。このワークショップには、老人以外の有能な人材も集め、多くの議論を重ね、手ぬかりなく進めたいと考えています。
Z. 住民の関心が薄く、行政も熱心でないなら、肩の力を抜いてコトに当たった方が無難だな。いずれ、収入増を求める行政側からの要請があるはずだ。それまでは手元にあるという総合戦略は出さない方が無難だな。
I. これは一本取られました。心掛けましょう。

以上

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