理事長コーナー
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AIを超えるか中学生プロ棋士

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :7月号

 藤井聡太四段の快進撃が止まらない。プロ棋士公式戦に新人デビューして、史上最年少記録を14歳2ヵ月で突破した。中学3年生である。緒戦を飾った対局は、14歳7カ月で最年少記録を62年間保持していた加藤一二三九段であるから因縁だ。凄いのは「史上最年少プロ棋士の誕生」だけではない。緒戦以来勝ち続け、とうとうプロ棋士の連勝記録である28連勝も超えて29連勝を達成している(2017年6月29日付け)。どこまで勝ち続けるか、興味が尽きない。

 過去に中学生でプロ入りを決めたのは、加藤九段のほかに、現日本将棋連盟会長の谷川浩司九段、羽生善治三冠、渡辺明竜王の4名だけだから5人目となる。記録のスピードも早い。まだ小学6年生で初段になり、同学年のうちに二段になった。この記録も、羽生三冠、渡辺竜王を上回る。TVのインタビューに見る藤井四段は、とても通常の中学生とは思えない風格がある。この藤井四段は、どのような幼年期を経て成長してきたのか、また、彼の成長を見守った母親はどのような人でどのような育て方をしたのか。

 5歳で、将棋をゲームとして始めた。祖母の育子さんが偶然に買ってきた「スタディ将棋」(くもん出版)がそれだ。それぞれの駒には進める方向に矢印が付いているので、駒の役割が一目でわかる将棋キットだ。育子さんによれば、「すぐに熱中していました。・・・のめり込み方が、ほかの孫に比べて聡太だけ突出していた」。だからといって、年がら年中、将棋のことしか考えていないというのではない。インタビューに答えている。「授業のときは授業に集中しています。・・・(多くの先輩は、詰将棋を学校へ持参していたが)僕は持っていかない。頭の中で盤面が浮かぶということもありません」。

 その時々に、めぐり合うことに、集中しているようだ。母親の裕子さんは、「普段から観察していると何かに集中していることが多く、なるべく邪魔しないようにしている」と話している。ところが、本人は、「母は集中力があると述べていましたが、自分では集中力がないと思っています。目の前の対戦相手と対局していても、隣の対局のほうが気になってしまう。10分に1回ぐらいの間隔で、隣の対局の進捗が気になってしまうんです」という。他のプロ棋士は、対局中の気分転換が、さらなる集中に必要であると述べている。さらに「もちろん、つねに目の前の対局に集中できればいちばんです。でも、緊張感のある対局のなかで、集中力を持続するのは意外に難しいんです。息抜きというわけではないですが、多少、気分を緩めることも必要かなという気もします」。

 多くの憧れていた先輩棋士を打ち破った。そのため、現在憧れている棋士はと聞かれても、いませんと答えるという。その彼が、自らを鍛えているのが、将棋のフリーソフトだ。「今年の5月くらいからフリーソフトを何個かインストールして、パソコン上で将棋を指すようになりました。自分の弱みや間違っていた手がわかるので、勉強になります」。どうもこのことが、世上でいわれている「AIから学んでいる」ということの真実のようだ。

 最近、複雑にみえる機能をもった機械は、「AI内蔵」と言われる。AIを研究している専門家は、第三のAIブームだと冷静だ。ただ、急激に性能が向上したコンピュータにより複雑な処理が容易になり、多くのデータ(ビックデータ)から“学ぶ”ことが進んだだけのようだ。まして、人間を超えることはないと言い切っている。2016年6月号の本ジャーナルで「AIと共存する社会におけるプロジェクトマネジメント」というタイトルでAIとプロジェクトマネジメントに触れた。AIと人間には役割に違いがあり、お互い補完し合う関係が、プロジェクトの実施にも役立つであろうと記載した。

 藤井四段の場合には、フリーソフトと戦うことで、自分の勝負勘をつかさどる頭脳を鍛えているようだ。フリーソフトとの相互反応による自己増殖的勝負能力の急激な向上といえる。これは誰にでも出来ることではないだろう。しかし、このプロセスは、やがてAI化され、次の藤井四段を育てることを暗示している。AIと人間の共存する姿だ。

以 上

注 : 「iRONNA Picks: 史上最年少プロ棋士、藤井聡太の『最強伝説』はこうして始まった」より引用

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