理事長コーナー
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プロジェクトの公式文書作成の昔、今、未来

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :6月号

 AI、ビックデータ、IoTなどバズワードが盛んにマスコミ上をにぎわしている。実現すれば、近い将来、日本の産業構造に影響を与えることは間違いない。しかし、それぞれの第一人者と呼ばれる専門家は、「AIは第三次ブームだ」などと意外と冷めた発言をしている。一説には、この種の「近い将来の飯のタネ」が実生活に入り込むには、その出現から少なくとも20年はかかるという。

 プロジェクト業務の中で重要な要素に「文書化」がある。仕事の流れをみると、提案書、見積書、契約書、計画書、要領書、進捗報告書、完成図書などがあるが、中でも議事録の作成頻度は高い。AIを利用してこれらの文書作成が簡素化されれば、煩わしくなくなる。その実現は、10年後か、20年後か。未来を考察するために、過去を振り返ってみる。

 約40年前の1978年に、東芝から日本初の日本語ワードプロセッサー(ワープロ)「JW-10」が発売された。1台700万円という高価な機械で、事務机1台分ほどのサイズだった。当時の大卒の初任給が10万円台にのった年だ。高価なため、導入したとしても、重要度の高い業務に優先利用したであろう。その頃は、「タイプ室」と呼ばれる専門部署が社内にあり、和文、英文のタイピストが集められ、手書き下書き文書をタイプして、「印刷室」で複写されて社内に配布した。しかし、和文ワープロの競争は激しく、シャープが廉価な卓上製品を次々と発売し、市場を奪っていった。価格も急激に低下した上に利便性は高く、専門部署での集中から、利用現場へと導入され、やがてパンチ室は廃止となった。1990年には、パソコン(PC : Personal Computer)が普及し始め、Windows-95 が発売されると、またたく間にワープロは駆逐され、1999年に最大手シャープはワープロから撤退している。

 Windows-95は常時ネット接続機能が備わり、個々のPCは孤立することなくネットで結ばれるようになった。社内外をイントラネットとインターネットと使い分けていたが、やがて使い分けもなくなった。電子メールで顧客と直接の情報交換が可能となったが、そのことで操作を誤り、社内文書を誤って顧客に送り、怒りをかうこともあった。さらには、同じ文章でも電子メールでの連絡では、受け手の誤解を招くことが多く発生した。顧客に信頼され有能といわれていたプロジェクトマネジャーが、電子メールを使わないと宣言して、直接面談が出来ない場合には、電話とファックスで対応していたことを思い出す。誤解メールの常習犯は、許可のない顧客への送信を禁止されたこともあった。電子メールと複合複写機の普及で、利便性は向上したが、ヒトに起因するヒューマン・コミュニケーションエラーは、大げさな言い方だが、このように「文明」が変わる時に必ず起きる。

 P2M標準ガイドブックは、この頃、2001年に創刊している。初版と改訂2版(新版@2007年)での情報マネジメントに関する事項(初版、改訂2版とも第8章)は、要件や取り扱いにたいして注意深く記載されている。情報インフラの基本要件としては、改訂3版(第3部第8章)にて、「確実性、効率性、効果生、堅牢性」が必須であるとしている。この要件の充足を担保するのは、常にヒトであった。しかし、やがてその役割にはAIが組み込まれてゆくのであろうか。

 2007年のアップル社アイフォン発売以降、場所やデバイス(PC、スマホ、タブレットなど)を問わず個人が発信する情報は急増した。それは、あくまで個人が主体である。いわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用だ。その機能は、「プロフィール、メッセージ送受信、タイムライン、ユーザー相互リンク機能、ユーザー検索、ブログ、アンケート、コミュニティ」(Wikipeida@20170529)とある。日本では、LINE、Facebook、Twitterなどの利用が多いようだ。(総務省情報通信白書2017年度版)電子メールにない、気軽に打電し、相手の反応が即わかる、利便性と即時性が受けている。2016年末で、約7000万人の利用が日本であるという。(ICT総研推定値)

 SNSのビジネス向けの有償サービスが開始されている。LINE Works の仕様では、管理者を登録し、個人向け機能に加え「メール、掲示板、カレンダー、ファイル共有」が追加されている。中でもセキュリティ対策機能が強化され、「盗難・紛失、情報漏洩・無断アクセス、ウィルス・マルウェア、インシデント発生時対応」とある。ビジネス向けSNSでは、特に、高い機密性と信頼性が必要だ。ここまでが現状でも提供されている製品・サービスだが、AIを活用とまでは言えない。

 ところで、自動議事録作成はビジネス上の価値がある。通常のスマホを使い、何時でも、何処でも、日常業務で手軽に利用できる議事録作成機能だ。会議への参加者の音声を聞き分け識別し、要約した上で、文書化して議事録を作成する。会議が終わったと同時に議事録案を参加者でシェアし、その場で確認、修正、合意する。プロジェクト遂行上、議事録は必須であり、作成頻度も高いため、存在すれば大変便利だ。有償の専用機はすでに販売されているというが、日常的にスマホで手軽に利用できれば価値がある。音声識別、論理シンタックスチェック、発言の要約など、まだ実現していない。「AI」の範疇といえるだろう。このようなSNSへのAIの組み込みは、現状ではまだ「夢」だ。しかし、振り返ってみると、利用が当たり前で継続的存続を疑わなかった「タイプ室」や「ワープロ専用機」がまたたくまに消えた。このようなスマホでの無償議事録作成機能は、遅くとも10年先に実現しているだろう。

以 上

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