理事長コーナー
先号   次号

情報の信頼性とビジネス

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :5月号

 総務省・情報通信政策研究所が2016年8月に公表した「平成27年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を紹介した朝日新聞のコラム(経済気象台@2017年4月25日朝刊)が興味深い。情報源として、インターネットが初めてテレビを抜いた。一方で、情報の信頼度は、インターネットはテレビの約半分である。さらに、この調査とは別のグローバルな広告の信頼度調査でも、テレビ63%、新聞60%に対し、携帯・ネット広告は36~48%にとどまる。最近、大手IT企業によるキュレーションサイトの信頼性の問題が指摘されたことなどもあり、これらの調査結果には納得がゆく。

 広告費用に関する経産省の調査でも、ネット広告は既に雑誌広告を2008年に抜き去り、新聞広告を2012年に抜いている。2022年頃にはテレビ広告も抜くと予測されている。(経済産業省 特定サービス産業動態統計調査より)広告では、信頼性が低くても情報の露出頻度の高いネットメディアの利用価値が高く、注目されている。利用者の推測年齢層、利用時間帯、GPS連動でユーザーの位置情報などから、相手に合わせ広告のコンテンツを変えることで、個人別サービスも拡充されてきている。ターゲットを絞ったマケーティングで効果は高い。

 さて、上記の新聞コラムはその後半で、「既存メディアの持つ情報・広告とブランドへの信頼は、放送電波・設備、輪転機・販売網などとの垂直統合構造と共にある」。企業、あるいは企業グループは、基本的にサプライチェーンの上流から下流までの機能を、グループを含めた組織内に揃え、人材を養成し、システムを構築し、機材を揃える事で、信頼性の高いブランドを提供している。この組織内では専門家を抱え、自組織内で不足する専門機能は、外部に求め補完している。あくまで、自組織が自ら信頼性を維持する体制であり、自己の責任下で行われる。

 ところが、「ネットは、多くの産業で新たなサービスを生み、垂直統合構造の破壊と再編を促す。この過程でブランド・信頼と新たな技術とどう結びつけるか」が課題であるとしている。インターネットという新技術が従来の縦組織を揺さぶっている。金融では、ネット取引の決済では、利便性が高いとされる電子通貨であるビットコインが拡大し、国の規制が厳しいリアルの金融の領域まで脅かし始めた。最近、頻繁にメディアに登場するブロックチェーンという先端IT技術が駆使されていることとビットコインは一体である。元々ITは、金融との親和性が高いといわれているが、この新ITサービスが、金融の垂直統合構造に挑戦し始めたといえる。

 アマゾンは、本・雑誌の販売の流通から始め、独自規格の電子版の流通へも乗り出した。その結果であろう、ニューヨークなどの米国大都市では多くの本屋が閉鎖に追い込まれているという最近の記事があった。更には、本・雑誌だけでなく、あらゆる生活用品の販売へと展開し、将来扱う商品には限界は無いようにみえる。直近では、ネット取引が難しいとされていた生鮮食料品の流通に地域限定で乗り出すと公表した。

 垂直統合型の組織に対する信頼の概念とその組織の行動様式が、情報とIT技術の進歩とともに変わりつつある。利用者は、必ずしも信頼できるとは限らない情報を前提として商品・サービスを利用する。その情報に高い信頼を求める場合には、他のネット情報やテレビや新聞からの情報を確認することで自己防衛するだろう。一方、商品・サービスの提供側も、利用者が完璧よりもスピードなどの利便性や効用性が上がることに優先度を置くことが判れば、充分に確立してない新技術・新サービスでも有効であれば、一刻も早く提供することを選択するだろう。完璧を狙わず、ベストエフォート(性能保証はせず最大限のサービス提供を努力する)ベースでよいということだ。市場のコンセンサスを得る事は必要だが、利用者もその信頼度を承知の上で利用する。その結果、製品・サービスの好循環につながる。それが次のイノベーションをうみ、さらに、性能や機能が向上し、可用性は上がる。

 それでは、このようにベストエフォートをベースとしてビジネスモデルとする組織が提供する商品・サービスは、信頼性に欠けると云うのであろうか。勿論、完成度100%をユーザーに期待されている商品・サービスの分野も必要だ。だが、ベストエフォートベースの商品・サービスで良いと思う利用者には、市場で許容される信頼度の範囲で商品・サービスが提供されれば良い。その関係は外部環境によって変化する。それでよしとする判断は経営者によってなされる。

 「経営戦略」から「事業戦略」「プログラムミッション」と流れる戦略とミッションによりプログラム・プロジェクトを展開する流れは、明示していないが、垂直統合型組織を対象としている。上記のようなベストエフォートベースの組織へ適用できる。P2M標準ガイドブック改訂3版第2部2章プログラムとプログラムマネジメントが参考となる。

以 上

参照) “テレビが新聞を抜いた日”
1 )  リンクはこちら
2 )  リンクはこちら

ページトップに戻る