理事長コーナー
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自律性はPMにとって必須要素だ

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :4月号

 プロジェクトマネジメント(PM)の教科書に必ず出てくるテーマに、「チームワーク」や強いチームを形成するための「チームビルディング」がある。プロジェクトを実行する構成員は、専門家の集団からなる。これらの専門家を取りまとめてプロジェクトを構想から企画を経て完成させるために、全体工程を統括するプロジェクトマネジャーが必要だ。無論、プロジェクトスポンサーも必須の構成要員だ。それぞれ専門家だ。

 一般に、異なる分野の専門家同士の意思疎通は良くない。社内メンバーだけであれば過去の職場経験や仲間意識が助けとなる。しかし、現実のプロジェクト構成員は、社内外から募るので、集めたまま仕事を進めると、まとまりのないままプロジェクトは進行する。すれ違いや相互ミスが重なり、プロジェクトにとり好ましくない。従い、プロジェクトが本格化する設計・構築期間(P2Mでは“システムモデル・プロジェクト”)の開始までには、主要な役割を担うチーム員一人ひとりに、プロジェクトの使命・目的・目標と自らの貢献すべき業務内容をきちんと認識させることが重要だ。

 さらには、最高のチームパフォーマンスを引き出すため、チームビルディングを実施することでチームワークのレベルを上げる試みが増えている。長期あるいは超短納期、大規模、複雑、新規などの特徴のあるプロジェクトでは、情報が幾何学的に増えるので、お互い理解し思いやるチームビルディングの出来が、プロジェクトの成果に直接に影響する。非常に重要な事である。

 ところが、日本人が忘れがちな事項がある。それはチーム構成員一人ひとりの「自律性」の問題である。プロジェクトマネジメントの知識体系を構築した欧米では、子供の頃から“自律した人間に育てる”という考え方が根本にある為、一般の欧米人は自律性がある、あるいは、自律性が高いと言われている(文献も多い)。自己が確立しているのであり、「他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること」(“自律”@Wikipedia)。自分で考え、自ら判断し行動する。

 日本人にとってもこんなことは当たり前だ、と思うが、実はそうでないとの指摘がある。ラグビー日本代表を変貌させ、その後はイングランドの監督に就任し快進撃を続けているエディー・ジョーンズの言葉がある。氏は、弱体だった日本チームに、後に“伝説化”した“1日5部練習”など厳しい体力増強トレーニングを課したことで有名だ。だが、それ以上に重視したのが、「自ら考える・取り組む」という自律性の強化だった。「他国の選手は、もともと(子供の頃から)そんなふうに(自律度高く)育てられている・・・ところが、日本には足りなかった。試合で『キックを有効利用していこう』と声をかけると、日本の選手たちはキックしかやらない。僅差で負けていて絶対にボールを離してはいけない場面でも、安易にキックをして相手ボールにしてしまう。そこで、選手には『不確かなものを授けて、自分で考えさせた。』意識的に混乱させることで“自分で考える機会”を作った。」結果は、2015年ワールドカップで、優勝候補だった南アフリカを下し「ラグビー史上最大の番狂わせ」を演出した。

 “混乱させることで試して育て、自ら考えさせる”という育成術だ。それには余談がある。長野県菅平で行われていた学生チームの練習試合で、負けた方が罰として追加の練習を強いられていた。それを見て「選手に罰を与えてはいけない。学生であろうが、成人であろうが、ラグビーは楽しませなければいけない。体力を失った選手がテストでよい数字が出せないのは当然のこと。目の前の選手はフラフラしながら走っている。あのような理不尽なことばかりやらされていては、自分で考えることなどしなくなる。・・・特に、“子供達の育て方”を変えなくてはいけない」とエディーは繰り返し説いたという。

 日本の子どもたちが「自ら考え創造的なプレーができない」背景をもつことに気づいていたもう一人の外国人がいる。元日本サッカー代表監督のイビチャ・オシムだ。「日本人は他人の言うことを聞きすぎる。日本の選手はコーチが右に行けと言ったら、右に行くよね。ヨーロッパの選手はわざと左に行くよ」。言われたとおりにしかプレーしない日本選手の欠点矯正には「サプライズが必要だ。・・・24時間、選手やスタッフを試し、サプライズさせ続け、結果、考える力をつけろ。」と伝えていた。

 二人の知将のキーワードは、「試して育成」、「混乱とサプライズ」。チームをもって事を成し遂げるという観点からは、スポーツもプロジェクトも同じだ。子供の頃から日本人は、悪戯や悪さをすると「隣の(怖い)おじさんに言いつけるよ」、「おてんとうさまがいつも見ているよ」と、関係性を重視した育て方をされてきたため、日本人の多くは「無難な道」を選択する事が多い。それは「他律的」な選択だ。「プロジェクトの成功は『自律性』を持った構成員により達成される」という原則を、常に頭の中心に置いて行動する必要がある。自律性が創造力を生み出す。それがイノベーションの根源なのだから。

注 : 文中の「エディー」と「オシム」に関しては、「エディーとオシム、智将の『考えさせる』技術」(島沢優子:東洋経済オンライン@2017年3月25日版)より引用。

 以 上

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