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IT大国のアメリカの矛盾

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :3月号

 米国では今年の1月20日にトランプ大統領が第45代米国大統領に就任した。早速、公約していた「アメリカを再び偉大にするための100日行動計画(100-day action plan to make America great again)」から順次大統領令に署名し始めた。その中に、国民の雇用を増すために「メキシコとの国境沿いに壁を築く」、「治安対策としての移民の拒否」、「TPPからの即時離脱など貿易協定の見直し」などがある。具体的数字としては、「今後10年で2,500万人の雇用を創出し、年間の経済成長率を4%に戻す」、「中国の輸出品に45%の高い関税を課す」がある。また、公式就任以前にも自動車などのグローバル企業に対して、国外にある工場の国内への復帰を呼びかけ、GM、フォード、トヨタなどが呼応して、米国内投資を約束している。「最も雇用を創出する大統領に」なるとして「アメリカ第一主義」を繰り返している。成否は兎も角、強烈な印象だ。(「トランプ大統領-就任から38日」 NHK NEWS WEB@20170227)

 これに対して多くの評論家の話を要約するとこう評している。国境に関税壁を設け、廉価な製品の流入を妨げる事は、グローバル化の流れに逆行する。短期的には賃金が上昇するかもしれないが、やがてブーメラン効果で物価上昇に繋がり、結果として国内産業や労働者の雇用を守ることにはならず、返って国民の負担が増えるはずである。そのことは、米国の国際競争力が低下することでもあり、非常に拙い政策である。これらは自明の事である。賢い経営者は経済合理性を中心に対処すれば、上昇する人件費に対抗するために、国内では機械化投資を増やすし、更に低賃金を目指した海外投資を継続するであろう。

 未来学者のゲルト・レオンハルトは、現在のIT技術の進歩は2020年にAIは人ひとりの能力と等価になり、2050年には全人類を合わせた能力と同じになると予測している。さらに、技術の進歩は経済を発展させるが、ロボットなどが日常化し失業を増やすことに繋がるとしている。また、同時に米国では雇用される働き方から独立し、フリーランスとして個人事業主となる人が急増している。現在、勤労者の30%がフリーランスであるが、2020年には40%となると推測されている。単純に10%の労働者が労働市場から移行する。(「ロボットがもたらす仕事の未来」NHK BS@20170105)

 今までの常識的な判断からすると、トランプ大統領の目算とは異なる結果となるようである。米国は、多様性を最大限に活かし、イノベーションを起こしている。特にGang of Four あるは、AGFAと呼ばれるIT企業(Apple、Google、Facebook、Amazon)は、次々と付加価値の高い製品・サービスを生み出し、世界を席巻している。従業員の主要構成が多様な移民であり、仮に米国人の職を奪っているとしても、米国にもたらしている富(GDP)は巨大であり、かつ毎年成長することで、米国経済成長を支えていることは紛れもない事実である。トランプ大統領の為すべきことは、前述のような政策でなく、強みを更に強くして稼いだ富を、適切な配分に変えることである。

 これらをP2M風にいえば、ミッションプロファイリングを通して、課題を明確にし、対処すべき目的と目標を定める。その上で戦略に沿い、多くのプロジェクトを創生し、優先順位を決めて、実行して行くことである。この全過程では、トップダウンだけでなく、ボトムアップとミドルアップダウンによる組み合わせによる課題の妥当性、経済性、適法性からの評価が必要である。政治もP2Mも同じである。

以 上

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