虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡
(小松成美著、(株)幻冬舎、2017年5月20日発行、第1刷、221ページ、1,300円+税)
デニマルさん : 7月号
今回紹介の本には、副題に「働く幸せを実現した町工場の奇跡」と書かれてある。この本の町工場の話は、9年前に出版された「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司著、あさ出版)で最初に紹介された。その著者の坂本氏は、法政大学教授で地域経済論等を教える傍ら、全国の「大切にしたい会社」を調査し同名の著書がシリーズ化され、現在6巻まで発行されている。話を本筋に戻そう。本書で紹介する会社は、日本理化学工業㈱(神奈川県川崎市、昭和12年設立)で、主に文房具のチョーク等を製造・販売している。この会社が実現した奇跡とは、全社社員83名のうち62名が知的障がい者で、製造ラインの主戦力として活躍している。更に、業界でのシェアが1位であることでも有名だ。この本は、創業から現在までの会社と知的障がいを持つ社員との足跡を克明に追ったヒューマン・ドキュメントである。会社のビジョンは「日本一強く、優しい会社を目指し」、会社は「働くことの幸せとは何か」を社員と共に考え、経営者が福祉のあるべき姿を模索し続けている。
虹色を製造・販売する会社 ――日本理化学工業株式会社――
この会社が製造・販売する虹色のチョークは「ダストレスチョーク」といい、書いても消しても粉が飛ばない製品である。会社が知的障がい者を採用したのは、40年前である。大山社長は、「全ての行動に意義と責任を持ち、品格を伴う社員と共に世界を代表するメーカーとして皆働(共生)社会を目指します」、その為に「自分の身近な周りの人の為に頑張れることが自分達の成長に繋がり、それが働く幸せの実現である」と会社案内に書いている。
虹色を製造する働き手 ――知的障害をのり越えて働く人――
この本には、三人の社員が紹介されている。一人は39歳の男子社員で、自閉症傾向があるが、集中力や厳密さが際立っている。その才能が活かされて新製品(キットパス)担当に抜擢され、職場担当だけでなく会社のエースとして活躍している。もう一人は、障がい者雇用第一号の女性である。60歳の定年後も更に勤め続けて、勤続50年の表彰を受けている。彼女は社内の人的交流にも努め、生き甲斐ある職場で53年も仕事に頑張れたと語っている。
虹色の製造を影で支える人々 ――皆働社会の家族と職場と学校――
会社は知的障がい者の雇用に努めて、「皆働(共生)社会を目指す」と宣言している。先に紹介の社員ご家族や、障がい者学校の関係者は、一様に「卒業生を雇い、成長している社員と会社に感謝している」と語る。この話は『四方一両得』となる要素がある。障がい者は最低賃金で雇用されることで地域自立し、企業は役に立つ社員を確保して、障がい者を抱えるご家族は将来の不安が解消され、国は膨れ上がる福祉予算削減の可能性に挑めるか。
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