図書紹介
先号   次号

罪の声
(塩田武士著、(株)講談社、2016年9月21日発行、第4刷、409ページ、1,650円+税)

デニマルさん : 6月号

今年で14回目となる2017年本屋大賞は、この4月に発表された。今回の大賞は「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著)が受賞したが、同年1月の直木賞に続くダブル受賞である。この本は、このコーナーで2017年1月号に紹介した。筆者は以前から本屋大賞に注目し、毎年候補作品を事前に読み、大賞受賞作を秘かに予想している。今年度では、今回紹介の本が受賞すると期待していた。残念ながら3位となり大賞受賞を逃したが、内容的には読み応えのあるミステリー小説である。他に、「暗幕のゲルニカ」(原田ハマ著、2016年8月号で紹介)や「夜行」(森見登美彦著)や「コーヒーが冷めないうちに」(川口俊和著)も読んだが、この「罪の声」が一番内容が良かったので、ここで敢えて紹介することにした。この本は過去の大きな未解決事件を克明に調べ、そこからフィクションを組立てて謎に迫るミステリー小説にした。読んでいる内にノンフィクションとフィクションの境目が分からなくなる位、緊迫感溢れる作品に仕立てた。この本では昭和期最大の未解決事件の一つであるグリコ・森永事件(1984年3月発生)がベースで、公訴時効成立後の2015年に物語が始まる。

罪の声(≒犯人)       ――警察庁広域重要指定「グリコ・森永事件」――
グリコ・森永事件(小説では「ギン萬」事件)は、31年前に起きたが、「かい人21面相」と名乗る犯行グループが、青酸ソーダ入り菓子をばら撒くと食品会社を脅迫し、世間を騒がせた。その結果、被害企業は売上低迷と株価暴落で大きな被害を受けた。この犯人は関西弁の犯行声明を出して、警察を揶揄する挑戦状を出して話題となった。事件後1年半して終息宣言し、犯人は消えた。警察の懸命な捜査でも「かい人21面相」は捕まらなかった。

罪の声(≒犯人の家族)     ――公訴時効が成立後の犯人家族と証拠品――
京都でテーラーを営む主人公は、親の遺品を整理中にカセットテープと黒革のノートを見つける。そのノートには英文で書かれた文章と製菓会社の「ギンガ」と「萬堂」の名前が多く書かれてあった。更に、カセットテープを再生すると、自分の声と思われる声が聞こえた。その後、色々調べてみると、「ギン萬」事件の恐喝に使われた脅迫テープであることが判明した。時効が成立した事件とはいえ、犯行に関係した家族が、ここに現存していた。

罪の声(≒追う新聞記者)    ――新聞社の大型企画「31年目の真実」――
この本のもう一人の主人公は、新聞記者である。入社13年目の文化部記者が、「ギン萬事件、31年目の真実」という大型企画に応援スタッフとして駆り出された。その取材中に「ギン萬事件」は、「かい人21面相」や「キツネ目の男」の男と現金受け渡しの犯人を追うあまり、事件の本質から外れていることに気付く。それは犯人が犯行に使ったテープに子供の声を入れ犯罪にまき込んだ冷酷さに着目した。新聞記者は事件を追って、遂にその犯行テープの男に辿り着くが、詳細は読んでのお楽しみである。著者は「犯人に時効はあるが、家族には時効がない」と新聞記者だった経験を踏まえて、罪の声の本質に迫っていった。

ページトップに戻る