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「エンタテイメント論」(111)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●創造の事を何故、これほど長期に論じるのか?
 エンタテイメントの本質、その形態、その事業性などを論じる「エンタテイメント論」の本稿で、「創造」の事を何故、これほど長期に亘って論じるのか? 読者は疑問に思ったであろう。

 本稿を書き始めた頃から数年後までは「創造」のことを取り上げる予定はなかった。しかしある契機で「創造」のことを書き始めた。第1部・エンタテイメントの概要から第2部・エンタテイメントの本質に進んでいく段階で、創造のポイントだけ取り上げるつもりだった。しかしそうせず、今日まで続けてきた理由を以下に述べたい。

●日本のエンタテイメント業界の衰退
 日本には、ゲームやアニメの業界を除き、世界的競争力を持った「真のエンタテイメント業界」は存在しない。

出典:エンタテイメント michaelmasci.files.com
出典:エンタテイメント michaelmasci.files.com

 その実例が数多くある。以前にも述べたが、現在の日本には映画会社や音楽会社は存在する。しかし事業の体を成し、日本の映画や音楽のコンテンツをビジネスとして常時、継続して世界に提供できる会社は存在しない。言い換えれば、真の映画会社やレコード会社は存在しない。

 更に欧米諸国やアジア諸国に数多く存在する「本物のエンタテイナー」は日本で激減した。しかも「新たな才能あるエンタテイナー」は殆ど育っていない。ときたま,凄い才能を開花させた日本人エンタテイナーが海外の音楽コンテストなどで優勝する。しかしその人物を日本のエンタテイメント事業会社は「本気、本音」で支援せず、世界に勇躍させず、その人物を引き金にした世界規模のエンタテイメント・ビジネスなど全く構築しない。しないよりも出来ないのが実態だ。

 凄い技術があっても、世界的なビジネスに構築し、発展させられない日本の製造会社の実例とそっくりの事がエンタテイメント業界で起こっているのである。その悪例は、3Dプリンター・ビジネスである。このビジネスは宇宙空間にまで発展しているが、この技術を発明したのは日本人である。その発明に日本のどの企業も注目せず、事業化しなかった。最低の発想力である。今や日本の総合起業率は世界最低、ベンチャー企業家数も世界最低である。この事実の深刻さを多くの政治家も、一般国民も認識していない。

 以上の問題を解決するには、「事業化する知恵」、そのための「優れた発想」を産み出す事である。また「優れた発想」を創り出す「発想法」を活用することなども不可欠である。

●エンタテイメント業界に不可欠なビジネス・イノベーション
 日本人の深層心理にエンタテイメントは、今も「歌舞音曲の類」、「河原乞食の芸」などとする感覚がまだまだ残存する。ましてエンタテイナーはアーティストには扱われず、芸人扱いである。

 日本のTV界のどの番組にも、何の芸も、何の面白さも、何の教養もない「お笑い芸人」が我がもの顔で登場して久しい。最近は、政治、行政、司法、科学、工学、事業、そして芸術などの「非・エンタテイメント分野」に属するTV番組にまで「お笑い芸人」が多用されている。

 しかしその様な多用が番組の質を著しく落とす。これはTVと云う「公器」の乱用であり、まじめな一般人を愚弄する行為である。しからば「お笑い芸人」が本物の観客を相手に、本物の芸を披露できる本物のエンタテイメントの場はあるか? これが殆ど存在しない。何たることか!

 TV業界が凋落し、危機的な状況になった現状から抜け出し、世界を相手に真のエンタテイメント・ビジネスを再生するにはどうすれば良いか?

 その再生のために人、金、技術などを投下すれば可能か? 現実は甘くない。その再生にはエンタテイメント業界が一致協力して「本気、本音」で「ビジネス・イノベーション」に取り組み、成功させることである。製造業でも同じことである。

出典:ビジネス・イノベーション martin-koser com. 出典:ビジネス・イノベーション
martin-koser com.

 ビジネス・イノベーションに最も必要なものは何か それは、一にも、二にも「知恵」「アイデア」、即ち「優れた発想」である。エンタテイメント事業会社やエンタテイナーは、観客に心の底から楽しめる「新しい娯楽」を創出することである。それには「新しいアイデア」が必要なのである。

 以上の事から発想のための「基本的考え方」と「具体的方法論」で構築された「夢工学式発想法」を本稿で紹介し、説明しようと考えた。そして現在に至っている。しばらくの間、「本発想法」の連載を続けたい。それが終われば、エンタテイメントのテーマに戻る予定である。

 さてこの機会に「夢工学式発想法」を超・概説したい。

●夢工学式発想法の「在り方(基本的な考え方)」
 夢工学式発想法の「在り方(基本的考え方)」とは、「夢工学の本質」と「創造の本質」に準拠した考え方と行動をとることである。

 夢工学の本質とは、エルビス・プレスリーの世界的ヒット・ソングである「I want you, I need you, I love you.」のYouが「夢」である場合、その「夢」は必ず実現すること。創造の本質とは、宇宙を含めて万物には例外なく等価(Analogy)が存在する。従って創造とは等価の原則を活用することである。この真意が分からない読者は、以前の連載を参照して欲しい。

出典:Elvis Aaron Presley(1935-1977) elvis-aaron-presley-action com、リンゴと月の等価性 imagesgazine.uc.edu

●「やり方(具体的方法論)」
 「やり方(具体的方法論)」とは、「在り方(基本的考え方)」を基に構築された以下の2つの事を云う。それは、肯定的観点(Positive Aspect)と否定的観点(Negative Aspect)から構築され、前者は、「夢工学」に、後者は「悪夢工学」にそれぞれ準拠している。
発想自体を促す「発想促進法」
発想自体を阻害するものを排除する「発想阻害排除法」
 シンプル且つ実務的活用性のある発想法でなければ、筆者を含め誰もそれを活用しないだろう。本発想法は、筆者が長年の研究と実践の結果、現在の形に辿りついたものである。しかし発展途上のもので、今後その内容は変化する事を注記したい。この際、是非、本発想法を活用し、「優れた発想」を産み出せるか否かを試して欲しい。

●デザイン思考と夢工学式発想法
 筆者は、様々な分野のビジネス・パーソンからよく尋ねられる事がある。それは、「デザイン思考と夢工学式発想法はどこが違うのか?」である。

 いろいろな点で違う。紙面の制約で詳細は割愛するが、最も根源的に違い点は、以下の2点である。なお両発想法は全く逆の発想法と言えるだろう。
デザイン思考は「ブレーンストーミング」を、夢工学式発想法は「自由発想」を夫々発想の方法として活用していること。ブレーンストーミングには自己批判禁止、他人批判禁止などの厳格なルールが有る。しかし自由発想には、ルールが無く、完全に自由である。
デザイン思考は発想のための「ルール」、発想に至る「手順」や「マニュアル」などを厳格に定める。夢工学式発想法は、発想のための「ルール」、「手順」、「マニュアル」など一切定めない。
発想する人物に全て任せる。何故定めないかは、本稿のバックナンバーを読んで欲しい。

●発想促進法と発想阻害排除法の同時・同質の実践
 下記の発想促進法と発想阻害排除法は、片方だけでなく、両方を同時に同質(同レベル)に実践する時、最大の効果を発揮する。

出典:加速、減速 search/images blogspot.com 出典:加速、減速
search/images blogspot.com

 発想促進法と「法」の名称を、発想阻害排除法も「法」の名称を夫々使っているが、便宜的にそうしているだけで、ルールではない。どれを使うかは全て実践者の自由選択である。

●発想促進法
 「発想促進法」は、以下の10項目の全て又は一部を実践する方法を云う。これらを前号まで順番に実例を基に詳細に説明してきた。
優れた発想は、発想の「動機(夢、好き、欲求、好奇心等)」の強さに比例して生まれる。
優れた発想は、発想の動機(前記)が実現し、成功した状況と効果を「仮説」する事に依って生まれる。
優れた発想は、万物と万事の中の「アナロジー(等価性、類似性)」を活用し、「新しい結合や分解」に依って生まれる。
優れた発想は、「理性と感性」を同時・同質に「位相転換」して発揮する「自由発想」に依って生まれる。
優れた発想は、考え続けた末に「直感」の形で突然生まれる。直感は信じるに値する。
優れた発想は、「一人思考」だけでなく、小人数の「グループ思考(交流、競争、共創)」に依っても生まれる。
優れた発想は、発想の「量」に比例して生まれる。量が「質」を決め、「質」は24時間働く脳に依って無意識に判別される。
優れた発想は、発想対象に関する知識、経験、情報の「量」に比例して生まれる。無から有は生じない。
優れた発想は、発想内容を即時「メモ」する事に依って生まれる。発想内容の記憶が直ぐ消える為と脳の記憶の負担軽減の為。
優れた発想は、発想を促進する「環境」を整備し、発想に集中する事に依って生まれる。

●発想阻害排除法
 発想阻害排除法は、以下の4項目の全て又は一部を実践する方法を云う。
優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除する事に依って生まれる。
優れた発想は、発想を阻害する「破壊行為」、「無理解」、「誤解」等を排除する事に依って生まれる。
優れた発想は、発想を阻害する「発想ルール」、「発想マニュアル」等を避け、発想に集中する事によって生まれる。
優れた発想は、発想を阻害する「環境」を排除し、発想に集中する事に依って生まれる。

自由に考えて実行し、実行して自由に考える! 自由に考えて実行し、
実行して自由に考える!

  来月号から「発想阻害排除法」を実例を基に順次、説明する。

つづく

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