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「エンタテイメント論」(110)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
⑩優れた発想は、発想を促進する「環境」を整備し、発想に集中した末に生まれる。

●魚PJT
 淡水魚水族館に関する内外の情報を集め、思い付いたアイデアを様々なファイルに収納し、時々引っ張り出して、連想、夢想、空想をした。そしてアイデアが生まれた。

出典:連想、夢想、空想は、優れた発想のための肥やし Learning mind com 出典:連想、夢想、空想は、
優れた発想のための肥やし
Learning mind com

 この「想」を巡らせる「環境」として筆者は、朝晩の通勤電車、出張の際の新幹線や飛行機を選んだ。その効果は抜群であった。

 また家庭では、机の上は環境ではなかった。それは資料整理、PC操作によると情報受発信作業などの空間であった。「魚PJT」のアイデアは、乗り物の中で思い付いたものが殆どであった。その他には「テレビ」を家でリラックスして観る「環境」も「アイデア」の発想に役立った。

●昭和PJT
 昭和村プロジェクトの発想に関する「環境」の整備のやり方は、魚プロジェクトの場合と殆ど同じであった。
 しかし大きく違っていたのは、昭和村プロジェクトに関して「昭和」の歴史上避けて通れない「太平洋戦争」を如何にするかと云う重大問題が存在した事であった。「戦争」を避けて通れないなら、太平洋戦争を基本コンセプトに含めるか? この超難問を解決するため1年近く悩んだ。そして遂に戦争を避ける方法を思い付いた。

 それは、既述の通り、プロジェクト候補地が岐阜県の地形に近似していることを発見し、それを活用することであった。昭和のある時期を選定し、その時期を昭和の象徴として扱い、それを切り口に候補地全体を岐阜県そのもので具現化する方法であった。

 この事を思い付いた時と場所が筆者専用の理事室であった。理事室のドアをいつも解放した。筆者の秘書官が理事室の外から時々、居眠りする筆者を心配そうに見守っていた事を思い出す。そして居眠りから目覚めた瞬間、戦争回避方法を思い付いた。理事室は筆者の発想のための「環境」でもあった。

●連想、夢想、空想
 多くの人は、何か新しいものを考える時、理屈で、力ずくで、無理して考える。そうすると今まで考えてきたアイデア以上の「優れた発想」は中々浮かばないものだ。そのため更に頑張る。しかし頑張れば、頑張る程、迷路に入って身動きできなくなる。

出典:連想、夢想、空想は価値ある行動 dreamstime com
出典:連想、夢想、空想は価値ある行動 dreamstime com

 その結果、自分は発想など無理な人間と考える様になる。そして諦める。諦める自分を見て益々ダメな人間と考える。真面目な人ほどこの傾向が強い。しかし「諦め」も、「無理」と考えることも絶対に禁物である。そう考えた瞬間、全てはダメになるからだ。

 この迷路からどの様にして脱出するか? 人によって様々な脱出が試みられている。その方法もマチマチである。何故なら、そもそも連想、夢想、空想、そして発想は、本人の特性、職業、家庭、帰属コミュニティー、そして人生の在り方によって無限に異なり、しかも時の流れで変化するからだ。おまけに「想」の中身も人によってマチマチである。

 その様な状況下で最も重要な事は何か? それは連想、夢想、空想することを「無駄な行動」と考えないことである。無駄と考えずに挑戦すると、迷路からの脱出は意外に簡単なのである。

 「優れた発想」は、以上の様な「想」から生まれている事を古今東西の多くの科学者、工学者、事業家、そして芸術家が異口同音に指摘している。

 もう一つ彼らが指摘していることがある。それは「優れた発想は、発想を促進する“環境”を整備し、発想に集中した末に生まれる」と云うことだ。連想、夢想、空想、そして発想の行動に最適な「環境」を自分流に探して、その環境を積極的に活用することである。

 静かな環境、ガヤガヤした環境など何でも良い。野原の散歩、街中の散歩など、とにかく発想を集中させる事が出来る環境を探し、活用することだ。環境を整備し、我田引水だが、夢工学式発想法を信じて、活用し、いろいろ「想」を巡らせれば、必ず「優れた発想」は生まれる。

●隙間時間活用発想法
 筆者は、ガラッパシの性格で、あまり品が良くない。そのためか静かな「環境」は好まない。ガヤガヤした「環境」の方を好む。既述の通り、「想」を巡らせる「環境」として、ガヤガヤする朝晩の通勤電車、出張の際の新幹線や飛行機などの中の方が何故か発想が集中する。そのためか下りる駅を見過ごすことがある。しかし発想の効果は抜群である。

 電車が混雑する時は、本や資料を読むと云う「情報入手」の行動でなく、「情報出力」の行動をする。即ちアイデアを考えることに集中する。妙なもので、このやり方を長年続けてくると、混雑のガヤガヤ「環境」での連想、夢想、空想など「想」を巡らせる効率が高くなり、集中力が増した。

 一方電車が混雑せず、座れる様な時は、間髪入れず、本や資料を読むと云う「情報入力」の行動を開始する。その他に自宅でテレビ番組を見ながら、資料整理などし、ヒントになる情報はその場で直ぐにメモする。

 なお筆者は情報出力時に思い付いたアイデアを、ズボンのポケットに常備する超小型筆記用具で超小型メモ帖に直ぐ書き込む。背広の上着のポケットに常備しないのは、春や夏場に背広を脱いだ時や着ない時に困るからだ。

 また情報入力時に備え、本や資料をいつもカバンに入れて持ち歩く。そして待ち合わせの時刻までに数分から数十分の隙間があると、直ぐに資料を取り出して読む。そんな時、不思議と面白いアイデアを発想したりする。

 以上のやり方をしているので、人と待ち合わせをしたり、出張などで新幹線の駅や空港に行く時は、必ず予定時刻よりかなり余裕を持った時間で現場到着する様にしている。この予定時刻までの隙間時間を完全に活用するので無駄な時間には一切ならない。

 その結果、人との待ち合わせで遅れた事は一切ない。また出張は全て予定通り行動できる。更にこの到着現場こそが発想のための「環境」になる。時間の有効活用、予定時刻通りの行動、発想促進の環境確保と云う「一石三鳥」をいつも享受している。

出典:待ち合せ時の活用 jameswoodward com
出典:待ち合せ時の活用 jameswoodward com

 筆者の某友人は、以上の事実を知って「隙間時間活用発想法!」と命名した。今後はこれを発想促進法の中の一つとして付け加える積りである。発想環境作りこそ発想の命である。

●第2の昭和村
 筆者は昭和村PJTについて次の事を開示したい。現在の昭和村は、昭和のある時期を切り口として作ったものである。しかし厳密に正確に言うと、現在の昭和村は、昭和そのものを象徴した基本コンセプトを起用していない。何故なら太平洋戦争を真正面から取り上げ、取り込んでいないからである。しかし筆者はその事から単純に逃げた訳ではない。

 太平洋戦争を基本コンセプトにすると「暗く」なり、「戦争の悲劇」を引きずった「昭和村」になり、人々が誰も寄り付かなくなる事を怖れる一方、それよりも、昭和の良い面、明るい面を昭和村に取り込みたかったから既述の様にしたのである。

出典:太平洋戦争 pacific summary pearl_harbor california
出典:太平洋戦争 pacific summary pearl_harbor california

 もし日本のどこかで「第2の昭和村」を建設する計画がある場合、是非、筆者を相談役に起用して欲しい。何故なら筆者は、昭和の本質を真正面から扱う「真の基本コンセプト」を構築するアイデアを、昭和村PJTを推進していた昔も、この原稿を書いている今も、考えているからである。

つづく

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