PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(109)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
⑨優れた発想は、発想内容を即時「メモ」する事から生まれる。発想内容が直ぐ消える事と脳の負担軽減のため。

●魚PJT
 淡水魚水族館に関する情報は、無理やり集めるのではなく、気楽に感じたこと、考えたことをその都度、直ぐにメモすることで集めた。この方が遥かに質が高く量も集まったからだ。

 アチコチの水族館を見て歩いた時など、目に入って来た対象物から何かを感じた印象まで細かくメモした。また水族館だけでなく、街を歩いていて、何かある事が閃いた時、直ぐに、その場でメモした。

出典:メモを取る images.eamemomonday.NoteTake 出典:メモを取る
images.eamemomonday.
NoteTake

 メモする時、それに関連する絵や写真がある時は、メモの紙と一緒にしてファイルした。またメモしなくても、新聞や雑誌で参考になるものがあれば、ハサミで切り抜いて集めた。ハサミが無ければ、そのページをバリッと手で破いてファイルに突っ込んだ。

 集めたメモ、新聞、雑誌など切り抜きは物凄い数になった。しかし一向に気にせず、集めるだけ集めた。そして時々ファイルを引き出し、中身を順不同で眺めた。一々その内容を読まなくても、眺めた瞬間、中身を殆ど思い出す事が出来た。思い出さないものだけ読んだ。これらの凄い数のメモは、時系列で整理されていない。大きい紙にKJ法のA型図解の様に空間配置して整理されているのだ。これを眺める事に依って水族館の様々な仮説や「これだ!」という面白い発想を生み出すことが出来た。「メモこそ命」である。

●昭和PJT
 昭和村プロジェクトから連想される「昭和イメージ」、「村イメージ」、「村民イメージ」などを基に、考えたコト、感じたコト、発想したコトなどを片っ端からメモした。メモに写真や資料を添付したことは、上記のプロジェクトの時と同じである。沢山のメモを集め、それを時々眺めた。
出典:今、直ぐ、ここでメモを! thinking-clipart-Thinking action
出典:今、直ぐ、ここでメモを!
thinking-clipart-Thinking action

 筆者は昔も今もPCに向かって仕事をしていると、「うっかり居眠り」が出る。どうもPCは苦手だ。
また岐阜県理事時代、理事室で訳の分からぬ紙切れや資料を眺めてブツブツ「独り言」をつぶやく筆者を理事室の外から筆者の秘書がいつも心配そうに眺めていた事を思い出す。

 理事室で居眠りから覚めた時、計画地と岐阜県の形が相似している事に気付き、これが昭和村の基本コンセプトになった事は既に説明した。今にして思うと、プロジェクトの計画地から連想された岐阜県の様々な事をメモしていたので、そこから無意識に「これだ!」という基本コンセプトの発想が生まれたのではないだろうか。「メモこそ命」である。

●「忘れるから」メモする。
 アイデアや思い付いたコトは「あっ!」と言う間に消える。一時は覚えていても、「忘れるから」メモする必要性がある。

 この「忘れる」とは、人は誰でも1時間以内に60~70%忘れ、数日後に80~90%忘れ、それ以降は100%忘れると云うことだ。従って以下の事をする必要がある。

「今、直ぐにその場で(Now & Here)」メモすること(作業中でも一時中断してメモすること)。
何かを創造したい時は「関係ないと思われるコト」も面倒くさがらずメモすること(後で役立つ)。
メモ用紙と筆記用具(鉛筆、ボールペンなど)を「常に携帯」すること。
メモの仕方は、要点を絞り、「固有名詞、数字、単語、図形、絵」を書くこと(スマートフォン、PCにアイデアを書き、蓄積するのは薦めない。メモ断片の空間配置と空間認識が出来ないから)
「メモを取ることは、アイデアを発想する事と全く同じレベルで重要」であると認識すること。

 メモの効用を知らない人又は無視する人は、ブレーンストーミング法、デザイン思考法、夢工学式発想法などのアイデア技法を覚えて、活用し、発想しても、然したる効果を生まない。

 なお筆者は、起きている時は常にズボンのポケットに、寝る時は枕元に、小さなポストイットを束にしたメモ帳と筆記用具を常備している。思い付いた時、その場でメモするためである。これによってどれほど多くの仕事や趣味などに効果があったか。計り知れない。「メモこそ命」である。

●「忘れるため」にメモをする。
 「忘れないため」にメモするのに、「忘れるため」にメモするとは矛盾していると思われるだろう。しかし矛盾していないのだ。

 その理由は、人間の「思考のための働く領域(Working Space)」が意外に小さいからだ。多くのことを頭の中に一時的に、意識的に、詰め込むとゴチャゴチャになり、スッキリと思考できなくなる。そのため頭の中の思考結果を外にはき出し、メモする。そうすると記憶持続の負担が軽くなる。まさしく忘れることだ。こうすると頭の中の「思考領域」が広がり、記憶しておくストレスが無いため、思考と発想が促進される。PCのデータを外にはき出し、軽くしてPCを迅速に動かすのと同じだ。

●リマインダー(Reminder)はメモと同じ!
 筆者は食事をしながら何かを思い付いた時、メモ紙がないと、割りばしの収納紙などにメモする。しかしメモする紙も、筆記用具も一切無い時はどうするか? 

出典:メモを忘れるな! Reminder-clipart-freeimage.jpg 出典:メモを忘れるな!
Reminder-clipart-freeimage.jpg

 答えは簡単である。テーブルに置かれている何でもよいから選び、保管すること。例えば手拭き、口拭き用の小さな「ティッシュ」があれば、それを手に取り、丸めてズボンのポケットに入れること。

 筆者は昔、新日本製鐵ニューヨーク駐在員として家族と一緒にNYに派遣され、マンハッタンのグランドセントラル駅のビルにある事務所で仕事を始めた。その時、筆者の秘書で経理担当の女性社員との会話で最初に覚え、今も鮮明に覚えており、今も活用している言葉が表題のリマインダー(Reminder)である。

 ポケットに入れた「丸めたティッシュ」は、後で取り出して見ると、食事の風景を一瞬にして頭に浮かばせ、忘れていた記憶を蘇らせ、思い付いたアイデアを引っ張り出す。まさしく「記憶を呼び戻す物」で、リマインダー(Reminder)である。日本ではそれを「備簿録」の様な書かれたモノを意味している様だ。しかし「記憶を呼び戻すモノ」の意味で、どんな物でもよい。メモできない時に使える発想したアイデアを想起するための極めて重要な手段である。

 余談であるが、Reminderの英語に接すると、米国映画女優エリザベス・テーラーの様な超美人で、背が高く、スリムで、気品があり、しかも高学歴で、超聡明な筆者の秘書兼経理担当の彼女を思い出す。そして彼女の様な素晴らしい人材を採用できた当時の新日本製鐵ニューヨーク事務所の高いステータスを思い起させる。

●メモ魔の人物
 筆者がメモの効用を幾ら説いても、読者の賛同はなかなか得られないだろう。しかし古今東西の多くの芸術家、科学者、工学者、経営者はもとより、天才と言われた多くの分野の人物の殆どが「メモ魔」である。この事実を知れば、賛同してくれるのではないか。従って凡人の中の凡人である筆者は、絶対に「メモ魔」でなければならないと誓い、昔も、今も、メモを続けている。

 天才で「メモ魔」であったと史実が明かした人物は数多い。音楽分野ではベートーベン、シューベルト、モーツアルトなど、科学分野では、ニュートン、アインシュタイン、ノーベル化学賞を受賞した福井謙一などである。

 その他の分野で「メモ魔」の代表者はエジソンであろう。エジソンは生涯千数百の特許を持ち、発明王にふさわしい人物だ。正確かどうか不明だが、数百万枚のメモが残されていると聞く。

出典:エジソンのメモ telegraph-history.org/george-m-phelps.htm 出典:エジソンのメモ
telegraph-history.org/george-m-phelps.htm

 ベートーベンは、メロディーが浮かぶと、五線譜のメモ帳に書いた。シューベルトもメモ魔であった。しかしモーツアルトは「メモ魔」ではなかったという説が多い。彼は一切メモなどせず、頭の中で曲を発想し、固定化し、それを楽譜にそのまま書いたと言われている。映画「アマデウス」のシーンでもその様に描かれている。

 しかし筆者は「それは作り話」と考えている。何故なら現在の脳科学が人間の思考や記憶の仕組みを明らかにしているためだ。人間はメモすることで記憶維持のストレスから解放され、情報処理領域を増やす。まさにコンピューター処理と同じだ。

 作曲、演奏、指揮、私生活などと超多忙なモーツアルトは、特に作曲と云う創造作業の邪魔になることは絶対に避けたはずだ。彼は頭の中で、すべての旋律、リズム、和声、対位法的展開を発想し、記憶し、構築し、重層処理すると大変な負荷が掛かる事くらい分かっていたはず。譜面にその構築要点をメモすれば楽になる、そして外部記憶化されたメモ譜面を眺め、それを組み合わせれば、幾らでも作曲を楽々と展開させられる。彼の未完成メモ譜面が発見されている事からも「作り話」である事が分かる。

 余談であるが、筆者の得意技はジャズピアノ演奏よりも「作曲」である。数えきれない数の作曲の断片メモを残し、ファイルしている。それは「宝の山」である。最近は超多忙のため作曲の請負は受けていない。しかし以前はTVコマーシャルソング、企業イメージソングなどの作曲を本業の合間で請け負った。昔も、今も筆者の音楽エージェントは、「(株) ビクターミュージック・アーツ(昔の(株) ビクター音楽出版)」である。作曲した曲の法的保護が必要な場合は、「日本著作権協会」から作曲した曲に著作権を付与して貰っている。

 更に余談であるが、日本中で「おもてなし」が盛んである。しかし外国人に「おもてなし」として披露する日本人が誰でも唄える「歌」は「桜の歌」の他に何があるのか? 米国には「ABC歌」がある。しかし日本語の原点である「いろはにほへと~」に旋律が付いた歌が見当たらない。そのため筆者は、最近「いろは歌」を作曲した。現在、これを普及させるための活動を開始した。

 「いろはにほへと~」を1番と3番の詞として、某女性に2番を作詞して貰った。この作詞、作曲の著作権も取得した。彼女に無理にお願いして唄って貰い、レコード化前の「仮のデモCD音源」を作った。是非本稿の読者に聞いて欲しい。もし希望があれば、「いろは歌」の楽譜と詞を本稿で公表する一方、仮CD音源は希望者に別送する。

つづく

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