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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (38)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (14)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 5月号

Z. 先月号で【魅力ある地域公園づくり】というプロジェクトは、ワークショップを実施した結果、大きな成果が出せたと聞いた。新年度になって、どのような展開になったかな。
I. ワークショップの成果をまとめて町に報告し、ある程度の評価を受けることができました。いま町はA地区再生協議会という“アベノミクス”に対応した特別地区の再生事業を推進しています。この協議会は6つの部会を持っています。私が関与したのは6番目の部会で再生協議会の残された課題は何かを調べること、そして選ばれた課題を成功させるための方法を検討することでした。その結果検討課題として3つの候補が採用されました。そして住民の意見を聞くためにワークショップを実施しました。3つの候補に対する町民の感触が良いこともわかりました。そこでA地区再生協議会は①【魅力ある地域公園づくり】分科会、②【里山遊歩道健康マップづくり】分科会をまとめて【公園・散策路部会】と命名し、部会に昇格しました。③【A小学校地域交流拠点化】分科会は他の部会と併合させ、全体を6部会として4月から再出発しました。「公園・散策路」は分科会から部会に昇格したため、私は正式にA地域再生協議会の部会長(役員)になりました。
Z. それはおめでとう。しかし部会としたから成功するとは限らない。わたしの勘では、究極の解決策が生まれるとは限らない。どうかな?
I. その通りです。私の経験した日本的ムラ社会はビジョンを出すことが嫌いのようです。「ビジョンを出し、リスク分析をし、時間をかけて失敗しない企画をするより、公園のような小さい案件は、できるところから始め、失敗したら、別の案を検討する方がより少ないリスクで正解(成功)に到達する時間が短い」という発想を採用しています。これも一理あると理解し、素直に従うことにしました。
 では、日本の企業の大型案件の企画はどのようにしているかお話しします。過去のように試行錯誤的なやり方では経費や時間の浪費が多くなることが分かり、欧米流のMBA資格者に企画案件を任せるようになりました。しかし、未来志向の大型案は経営者の経験をはるかに超えるものが多く、経営者も戦略担当者も経験範囲外の案件を取り扱うことになります。そこで日本ムラ社会の長は組織の安全・安心のためにリスク分析を最初に実施させ、この段階で先に進めるかどうか検討します。最近の世界情勢をみるとお分かりのように、現実の世の中はリスクだらけです。賢明なる日本ムラ社会企業経営者は日本人の発想を心憎いまで知り抜いています。経営者はリスク分析者の労をねぎらった後、これら案件は危険性が高いと判断し、企業化しないことが安全であることを強調し、企画中止を決定します。そのため日本は大型案件で後れを取って今日に至っていますが、不思議なことに経営者は失敗しない名経営者と評価されています。
 欧米の経営者の発想は違います。リスク分析で企業化の賛否を決めるのではなく、業務の進行過程で発生するかもしれないリスクを一つづつ減らす方向にプロジェクトを進めてゆきます。その結果、欧米企業は企業化に成功し、リスクを避けた日本の経営者は地位の安泰という個人的成功を勝ち取り、任期を全うしています。そして日本的ムラ社会は今も国内で権力維持に成功していますが、ゼネコン、家電の競争力低下は無視できません。ゼネコンは海外で赤字を出し、国内の震災復興、オリンピック景気で息を吹き返していますが、本物の強さではありません。

Z. Iさんの話はわかるが、端的に今の町の再生協議会で公園部会は成功はできるのかね。
I. 簡単な言い方をします。町の行政は縦割り組織です。今の組織で実施している政策は人口減で予算が不足し、すべてが縮小計画となります。これでは元気が出ない組織となります。ビジョンなどと大げさなことではなく、何をすれば、人口減少の速度を減らせるかという発想が必要かと思います。実は私には最終的な秘策がありますが、それは最後の手段にしようと考えました。折角町の事業に対し、役員の地位を確保したわけです。何とかムラ社会的な手法で成功させる手順を考えてみました。
Z. その方法を説明してほしい。
I. 28年度の仕事は29年度以降の事業化の手順をつくることでした。
( 1 ) すぐできるテーマを一つの公園で29年度内に実験し、結論を出します。成功事例であれば29年度以降にそれを必要とする公園で採用します。
 実は29年度の予算がそれほどありません。それは一種の幸いだと考えています。
 公園の活性化とは何でしょうか。最近の日本人(親も子も)は公園の活性化とはディズニーランドやUSJのやり方(リピーターの再現)を想定します。皆が喜ぶ新しい遊具を導入し、リピーターはその企画を楽しむという手法と考えがちです。また、ハウステンポスも同様に企画者が面白いもの、面白いことを、観客に提案し、面白さの実績を口コミで知らせてもらい、業績を回復させています。
 しかし、私たちが求める公園の活性化とは、最新の遊具を導入することではなく、公園を利用する人々、すなわち私たち自身が公園をうまく使う方法を考え、実行すること。それを見た他の住民が、その面白さに同調し、行動することによって活性化が達成され、さらに周辺の人々を動員することによって起きる現象と定義するべきではないでしょうか。
 例えば子供と父親で一緒に遊ぶ工夫をすることで、新しい親子関係が構築されます。それを29年度に実施し、試行錯誤をした上で、求めた企画が成功し、人々が集まり始めて、軌道に乗ったことになります。これは画期的なことです。しかも経費を大きく使うこともなく実施できます。住民のリーダーの発想と、その仲間の情熱が成果を出します。成果が感激となり、成功への自信となります。この成功にはコミュニティづくりという能力と情熱が鍵です。この能力と情熱があれば、日本的ムラ社会でも、現代的クールジャパンまがいの社会を実現することが可能です。
( 2 ) 29年度以降は公園の活動範囲を広げる方法を検討します。この場合は子供だけでなく、各年齢階層の人々が公園を活用することで自分たちを豊かにできる工夫を検討します。
( 3 ) これらの成功をベースに、単に公園だけでなく、散策路開発と両立させる提案をします。それは町のビジネスにつながる方策です。ビジネスなくして限界集落を救う方法はありません。
( 4 ) 次に児童公園を積極的に花壇化するなどの提案を公園愛護会を通じて行い、更に維持管理する方式で町の負担を軽減するアイデアを出すことも実行したいものです。
( 5 ) すぐやるテーマの実践にあたっては、周辺の住民を含めたワークショップを実施し、無関心だった人々に体験していただき、活性化する階層の幅を広げたいと願っています。
Z. なるほど、次第に具体的になってきた気がする。もしかすると公園を動機として、住民自身が活性化すれば、在宅介護などにも貢献できるコミュニティをつくることに成功するかもしれないな。
I. 私の究極の目的は公園からはじまる発展形がねらいです。

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