4月第1週にはまたフランスの大学院に行った。過去2年で10回目となる。2日にかけて博士課程生4名の最終論述試験があり、審査員を務めた。うち、ロシア国籍の1名は筆者が指導教授を務める学生であり、もう1名は、初期の研究アドバイスを行い、論文の精査を担当したマレイシア出身の華人カナダ人学生である。
ロシアの学生は、銀行家出身で、地方銀行の頭取と州会議員(与党)であったが、ロシアの与党所属でこのような要職にあると、中央からの行動・言動規制が激しいようで、比較的自由な立場でコミュニティー開発を支援するNPOを立ち上げ代表となり、またロシア連邦市民会議のメンバーに選出されている。
博士研究のテーマはプロジェクトマネジメント研究としては大変ユニークである。ロシアには、旧ソ連時代の地域産業割り当て政策の名残で単独企業あるいは産業に依存する地方都市が多々ある。これらの都市では企業の衰退や雇用機会不在で相次ぐ人口流失を背景に、老朽化した住宅の再建を中心に家庭の資産構築(ホームアセット・ビルディング)が将来を開くカギとなっているが、この課題に① プロジェクトマネジメント・セオリー(PM研究のバイブルであるPerspective s on Projects, Turner R. et. al 2010より)、② Institutional Economy (制度経済学)そして、③ Theory of Reasoned Action (理性的行動理論)を応用して迫り、住宅建設だけではなく、住の安定による教育機会、起業機会、社会インクルージョン機会の確保を促進するホームアセット・ビルディングプロジェクト群を近隣住民と行政を巻き込んでポートフォリオ化する理論概念を案出した。最終試験には、ファカルティのそうそうたるメンバーが審査員で列席し、本学生は優秀な成績でPh.D.認定を受けた。彼はスイスのMBAの他、ロシアですでに社会学Ph.D.経営学のDBAを保有しており、これからも社会活動を行う一方で、ロシアの制度上の正博士であり、国立大学の正教授資格を授かるに必要なDoctor of Science 取得に向けてさらに研究を続ける。フランスでの博士研究の成果は、学生と筆者の連名で、9月開催のIPMA世界大会のアカデミックトラックに論文応募を進めている。