グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第113回)
研究者巣立ちの手伝い

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :5月号

 国内外で半分ノマドの生活を送っていると生産性維持のためにモバイル電子ツールは欠かせない。現在のスマホブームの前からシャープの電子メール用モバイルツールを何台も買い替え、スマホの源流であったNTTドコモのモトローラ製M1000や世界のスマホメーカーのパイオニア台湾HTC社の初期モデルを使用していた。いずれも、出先でインターネットメールを読めるという快感を味わったのはいまでも忘れないが、M1000はやたらと故障が多く、無料新品交換が3回あり、販売中止となった。
 ただし、モバイルツールはあくまでメールを早く読むというツールであった。3年ほど前にスマホをSamsung Galaxy タブレットに変えたのは、それまで約20年続けていた、ノートPCを毎日持ち歩く習慣がきつくなり、さりとて、視力が落ちて、スマホでは画面が小さすぎて学生の論文を読むのがきつくなったためであった。タブレットは、サイズ的には使い勝手がよかったが、遅いのと海外のホテルなどで弱いWIFIの電波をキャッチするのに難があり、買い替えを考えていたところに出会ったのがSamsung Galaxy Tab A6である。このモデルは日本で出回っているGalaxy Tabではなく、グローバルモデルであるが、実に優れもので、使用1週間で虜になった。

Samsung Galaxy Tab A6  筆者がスマホやタブレット機能には限界があると勝手に思い込んでいたことはあるが、新Galaxy Tabのハードの性能は思いのほか高く、言語は20ヵ国語以上に対応し、ソフト面もMicrosoft Officeのオリジナル3点セットがプレ・インストールされており、マウスやキーボードを追加して、PowerPointやWord文書の編集がタブレット上でも出来るようになった。また、世界のジャンル別ニュースのダイジェストソフトとメモ機能を使うと大学院での講義に織り込むネタの収集がいとも簡単にできるようになり(これは芸人のネタ帳の如くである)、生産性が大幅に高まった上に、1~2泊の国内旅行であるとPCは持ち歩かなくて済む。

 4月第1週にはまたフランスの大学院に行った。過去2年で10回目となる。2日にかけて博士課程生4名の最終論述試験があり、審査員を務めた。うち、ロシア国籍の1名は筆者が指導教授を務める学生であり、もう1名は、初期の研究アドバイスを行い、論文の精査を担当したマレイシア出身の華人カナダ人学生である。
 ロシアの学生は、銀行家出身で、地方銀行の頭取と州会議員(与党)であったが、ロシアの与党所属でこのような要職にあると、中央からの行動・言動規制が激しいようで、比較的自由な立場でコミュニティー開発を支援するNPOを立ち上げ代表となり、またロシア連邦市民会議のメンバーに選出されている。
 博士研究のテーマはプロジェクトマネジメント研究としては大変ユニークである。ロシアには、旧ソ連時代の地域産業割り当て政策の名残で単独企業あるいは産業に依存する地方都市が多々ある。これらの都市では企業の衰退や雇用機会不在で相次ぐ人口流失を背景に、老朽化した住宅の再建を中心に家庭の資産構築(ホームアセット・ビルディング)が将来を開くカギとなっているが、この課題に① プロジェクトマネジメント・セオリー(PM研究のバイブルであるPerspective s on Projects, Turner R. et. al 2010より)、② Institutional Economy (制度経済学)そして、③ Theory of Reasoned Action (理性的行動理論)を応用して迫り、住宅建設だけではなく、住の安定による教育機会、起業機会、社会インクルージョン機会の確保を促進するホームアセット・ビルディングプロジェクト群を近隣住民と行政を巻き込んでポートフォリオ化する理論概念を案出した。最終試験には、ファカルティのそうそうたるメンバーが審査員で列席し、本学生は優秀な成績でPh.D.認定を受けた。彼はスイスのMBAの他、ロシアですでに社会学Ph.D.経営学のDBAを保有しており、これからも社会活動を行う一方で、ロシアの制度上の正博士であり、国立大学の正教授資格を授かるに必要なDoctor of Science 取得に向けてさらに研究を続ける。フランスでの博士研究の成果は、学生と筆者の連名で、9月開催のIPMA世界大会のアカデミックトラックに論文応募を進めている。

最終試験合格後の記念撮影 新Ph.D.主催のアカデミックディナー(謝恩夕食会)
最終試験合格後の記念撮影 新Ph.D.主催のアカデミックディナー(謝恩夕食会)

 カナダ人学生の論文は、プロジェクトの伝統的なリスクマネジメントに、複雑性要因識別とソフト(人間の判断)要因識別を加味する研究で、論文精査員である筆者のコメントにきちんと対応してくれた結果、大変良い論文となった。最終論述では、内容を盛り込み過ぎて持ち時間を超過したが、論文自体が優れているので事なきを得て合格。
 この人は元、米系メジャーオイルの地域法人の社員で、カナダに移住してオイルサンドプロジェクトのプロジェクトマネジャーをしていたが、開発プロジェクトはすべて中止で失職している。現在大学の教員職に応募する活動を開始しており、筆者も推薦状を書いている。
 国内では、昨年中盤以来、なにかと就職活動の相談にのっていた海外出身の研究者が。この4月に第一志望の国立大学院大学の准教授に就任した。
 筆者はいずれ消えていくが、筆者と縁ができた研究者の卵たちは、順々に研究者として世界のあちこちで巣立っていっている。以て瞑すべし。
 来月は3年半ぶりのロシアからの報告となります。  ♥♥♥


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