グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第112回)
稚内にて

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :4月号

 先月号で紹介した、(一財)海外産業人材育成協会(HIDA)主催、日本プロジェクトマネジメント協会受託のフィリピン経営者・管理者向けプログラム・プロジェクトマネジメント2週間研修は3月10日に無事終了した。今回は、低炭素化社会(Low Carbon Society - LCS)実現に向けての仕組み作りを支援するP&PMモデルを講師陣と16名の研修参加者で共創する試みであったが、フィリピンの二代目経営者達が実に優秀であり、大変良いモデルができた。
 参加者全員がLCSに対して知見と実践経験を有していて、足が地に着いた事例が次々に出てきた。特にフィリピンに数百万人居る河川敷などの不法占拠者の自立化を支援する移住コミュニティー作り(数件)や海洋環境の保護と観光を両立させるプロジェクトの発表が優れていた。フィリピンのエリート達は英語力が極めて高いので、講師陣も勉強になる。
 これは筆者の個人的な興味であるが、学生の頃、中南米研究をしていて、当時はまだスペイン語が公用語であり、今もアジアで唯一ラテン文化の国と数えられているフィリピンのコロニアル文化が現在どうなっているか気になっているが、これは自分でフィリピンを訪れ確かめてみないと分からないようだ。2010年にフィリピン経営者研修を始めた頃には学校でスペイン語教育を受けた参加者がいてスペイン語が通じたが、最近はスペイン系の人でも、スペイン語は忘れたと言う。

通算5回目のフィリピン経営者研修 ワークショップ風景
通算5回目のフィリピン経営者研修 ワークショップ風景

 年初から大学院での集中講義やプロフェッショナルの研修が続いていた。体力や精神力は大丈夫であるが、講師の代わりがいないので、インフルエンザや風邪を引かないようにという細心の注意がストレスになる。ようやく長い闘いが終えて、しばしの休養で3日ほど妻と北海道に行った。
 妻が稚内に行こうと提案し、筆者も数年前まで5年ほど、ロシアやウクライナで厳冬期の授業を行っていて雪の世界に懐かしさがあり、すぐに同意した。
 北海道に行くのは今回2回目であったが、フライトからの、まだ冬の北海道の風景がすばらしい。最近は、年に5回から6回くらい通る、新潟上空からロシア極東地区のウラジオストクに入る空路に慣れているが、こちらは単調であり、羽田から左に行かずに真っすぐ北上する先にこれほど素晴らしい風景があることは感動であった。岩木山(津軽富士)、青森、函館、洞爺湖、札幌とすべて見えて、圧巻は稚内に入る手前からの利尻冨士であった。

フライトからの利尻富士 稚内港北防波堤ドーム
フライトからの利尻富士 稚内港北防波堤ドーム

 稚内に行ったのは、冬の北海道の街を経験し、生活感に若干触れること、そしてサハリンと対峙する日本最北の地でロシアとの距離感を自分なりに測ってみたいこと、からだった。
 稚内でかつてあれほど華やかであった漁業の衰退、大幅な人口減や観光客減でサバイバルに苦労する商店・飲食店、廃止が検討され始められたJR宗谷本線や採算難のバス路線など、最北の地も大変である。一息つくのは利尻島・礼文島を訪れる観光客が増える夏場のひと時のみとのことであった。
 ロシアの影であるが、確かに最北端の宗谷岬からサハリン島の最南端までは直線距離で43キロであり、快晴の日には展望台からサハリンが見えるし、夏場は稚内港からサハリンのコルサコフ(旧名 大泊)港を結んだフェリーが運航されている。しかし、街にはお土産屋さんや飲食店の色褪せた看板が目立つだけで、ロシア漁船の稚内水揚げが急減したため、夏場を含めてロシア人の来訪はかなり減ったとのことだ。
 2009年に、コルサコフ市の東側に、顧客側で三井物産、三菱商事が、元請コントラクターとして千代田化工建設と東洋エンジニアリングが参加した巨大なサハリンLNGプラントが完成するまでは、稚内-ユジノサハリンスク(旧豊岡)コルサコフ間の航空路もあり、プラント資材の運搬で稚内港もにぎわったとのことだ。サハリンでは次のLNGプロジェクトの計画が2件あるが実現が遅れている。
 4月6日にフランス大学院でロシア人社会人学生の博士論文最終審査に指導教員として出席することになっており、現在論文プレゼンテーションの詰めを行っているが、彼の博士研究テーマは、ロシアや旧ソ連の国々で大きな社会課題である地方の都市の住宅の再生とそれを起点とする家庭のアセット構築プログラムである。
 北方領土での日ロ共同事業の項目の出し合いで、ロシア側から住宅再建が高優先度事業として提案されたが、これはロシア全域の問題で、安価で安全かつエコな住宅を供給できる日本企業には大きなビジネスチャンスがある。
 社会再生にプログラムマネジメントが果たす役割は大きいが、世界的にまだP&PM側からのモデル開発が十分にできてない。  ♥♥♥


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