図書紹介
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がん消滅の罠 完全寛解の謎
(岩木一麻著、(株)宝島社、2017年1月26日発行、第1刷、325ページ 1,380円+税)

デニマルさん : 4月号

今回紹介する本は、2017年・第15回「このミステリーがすごい大賞」で大賞を受賞している。この大賞は宝島社が主催し、面白い作品・新しい才能を発掘・育成する新しいシステムを構築してミステリー&エンターテインメントの分野を拡大する狙いで行われている。第4回目の受賞作「チーム・バチスタの栄光」(海堂尊著)はミリオンセラーになっている。昨今の癌は早期発見で死に至らず治療可能と言われるが、日本人の死亡順位ワースト3の一つであり、3人に一人は癌で亡くなっている。だから癌と聞いただけで、我が事の様に反応する。一方、癌は一番いい死に方だとも言われている。余命宣告をされて辛い思いをするが、色々と事前準備が出来る利点もある。更に、最近では余命宣告を受けた時点で生命保険金が支給されるものもある時代である。この本は、その癌と治療と保険が絶妙に絡み合った完全犯罪を狙ったミステリー小説である。今回の著者は、国立がん研究センターの放射線医学総合研究所で研究に従事し、現在は医療系出版社勤務の医療専門家でもある。

完全寛解の謎           ――完全寛解とは?――
この副題にある寛解(かんかい)は「がんの症状が軽減した状態。がんが縮小し、症状が改善された状態を部分寛解(partial remission)。がんが消失し、検査値が正常を示す状態を完全寛解(complete remission)という」(この本の冒頭)に記載されている。ここに登場する人物は癌センターの医師とその恩師である元教授と生命保険会社に勤める友人仲間である。そこで癌告知された患者の癌が完全寛解し保険金が支払われる物語展開である。

病院と研究者の謎          ――癌と戦う医師とは?――
医師は患者の病気を治す立場にある。だから病気の症状によって投薬や手術等の治療を施す。同時に病院は、病原の究明とその対処策も研究している。癌細胞を抑え、撲滅させるために医師や研究者は、地道な研究も重ねている。この主人公の恩師は、突然研究センターを辞職して民間病院の理事長となる。その時「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」と謎めいたセリフを残して転職した。

病気と保険金の謎         ――病気と医療保険とは?――
医師は病院内外の情報を共有し、患者の為の最新情報や噂等々にも気を配る。そんな中で、末期癌の患者が完全寛解して保険金を受け取ったという情報を耳にする。完全寛解は癌患者にとっても、医師とっても望ましい例だが、その病院は主人公の恩師が転職した所だ。もし完全寛解の内容が正しく証明されなければ、保険金詐欺の犯罪である。その完全寛解の真相に迫る。著者は医療の専門知識を駆使したスリリングなミステリー小説を書いた。

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