イベントマネジメント
- P2M研究報告 2/2 「レガシー創りマネジメント」 -
一般的なビジネスは、取引を通じて売上を上げ収益を確保する。開発型プロジェクトは、予定した費用、品質、期間で物を仕上げる。イベントには、演出する側と演じ手、観客やボランティア、スポンサー等との関係性があり一般的なビジネスや開発型のプロジェクトとは異なる関係性マネジメントが求められる。
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2012年ロンドンオリパラ大会
2012年ロンドン大会に向けてイギリス政府は環境に配慮した取り組みを示すために、オリンピック史上初めて持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム “BS8901”を2007年に開発した。これは、ロンドン大会が環境、社会、経済のバランスが取れた運営を行うための国内規格であり持続可能なイベントのあり方や社会モデルの提言である。この“BS8901”をベースに、持続可能性を考慮したイベントマネジメントの国際規格“ISO20121”が2012年6月に発行されロンドン大会で適用された。2016年リオデジャネイロ大会でも適用され、2020年東京大会でも適用される予定でありロンドン大会がもたらしたレガシーの一つである。
2012年ロンドン大会では、ロンドン東部の再生をレガシーとする計画が当初より中心的なコンセプトとなり、競技施設やメダルの数、ボランティアの動員やアーティストの演出などを含む総合的なプログラムマネジメントが行われた。大会後のレガシーも計画的に運用されたことで全国的なスポーツ振興が実現し、リオ大会でもメダル数が伸びマネジメント効果が表れている。
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英国DCMSが2008年に公表した5つのレガシー行動計画
(DCMS “Department for Culture, Media and Sport”) |
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① |
英国を世界有数のスポーツ大国にする |
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② |
ロンドン東部地域の中心地を変革する |
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③ |
青少年が地域のボランティア・文化・スポーツ活動に参加するよう鼓舞する |
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④ |
オリンピック・パークを持続可能な暮らしの青写真とする |
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⑤ |
英国が、住む人や観光客、事業者にとって、創造的かつ社会的に寛容で、快適な国であることを世界に示す |
英国DCMSは、レガシー行動計画を実現するために各項目の施策を具体化し複数に分割したプロジェクトを統合することでレガシーを実現した。
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5. |
2019年ラグビーW杯
ラグビーワールドカップは、世界的なスポーツイベントであり夏季オリンピック、サッカーW杯に次ぎ3番目の規模である。このイベントを公開されている情報をもとに下記の様に整理した。
この大会は7週間に渡り日本の12都市で開催される。ラグビーと言うスポーツのレガシー価値を生むには、ラグビーがどの様に普及するのか、どのような姿が望ましいのか、何故、ラグビーを普及する必要があるのか検討し、関係者間で目指す姿を共有 する必要がある。現在、プロリーグとして、ジャパン・ラグビー・トップリーグがあるが、2019大会後も今のままでよいのか。それとも、開催12都市を中心とした地域をベースに自立的に国際イベントを行う文化システムを創り、地方創生に貢献することは出来ないか検討の余地がある。
但し、ラグビーW杯2019組織委員会の役割が、現段階ではチケット販売と大会運営に限定されておりイベントマネジメントの実践であるレガシー検討には至っていないようである。文化は、ハード(施設)、ソフト(ゲームを楽しむプログラム)、ネットワーク(人と地域を結ぶコミュニティー)で構成されるシステムとなることで持続的となる。
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6. |
2020年東京オリパラ大会
2013年9月7日(現地時間)アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会にて、2020年夏季オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定した。その後、エンブレムやメイン会場となる新国立競技場建設計画の見直し等、ネガティブな話題が多く報道された。このイベントは複数のプロジェクトで構成されるプログラムである。又、東京開催決定までの招致活動と会場や施設を整備する活動、そして、ゲームの開催からレガシー運用を行う活動を3つのフェーズとして考えれば、P2Mの3Sモデルを適用できる。それでは、2020年東京大会のレガシーとは何か。1964年と2020年大会の違いを時代背景から比較すると次の様になる。
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1964年と2020年の東京オリンピックの位置づけ比較
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出典:参考文献 [7] |
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2020大会は1964大会とは違い経済効果は限定的であり、全国での文化プログラム開催や2020年を目標として国民の姿勢や意識を前向きにする効果が期待される。
高度経済成長がレガシーとなった前大会と比較し、2020年の日本は少子高齢化と人口減少が加速し衰退の兆しが表れる時代である。この大会で如何なるレガシーを創るか、持続的繁栄社会ではないだろうか。 |
以上
<参考文献>
[1] |
日本政策投資銀行地域企画部「ラグビーワールドカップ2019開催による経済波及効果および開催都市の取組みについて‐経済波及効果推計 2,330億円‐」、2016年5月 |
[2] |
自治体国際化フォーラムVol.319「ラグビーワールドカップ2015イングランド大会から学ぶ」、2016年3月 |
[3] |
World Rugby “競技規則 Rugby Union ラグビー憲章含む”、2016年 |
[4] |
Hiroshi Nakata “Sport Market in Japan & Project Management Framework 第22回PMRクラブ”、2016年9月 |
[5] |
(一財)自治体国際化協会「2012年ロンドンオリンピックの概要」,Clear Report No. 402, 2014年10月 |
[6] |
東京P2M研究部会「平成27年度活動報告書 イベントマネジメント」、PMAJ, 2016 |
[7] |
間野義之、「オリンピックレガシー」、ポプラ社、2013 |
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