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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (36)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (12)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 3月号

Z. 先月号でIさんは【魅力ある地域公園づくり】というプロジェクトの責任者となり、「日本的ムラ社会にどっぷり漬かってみよう」という決心のように聞こえたがそれでいいのかな。
I.  いま、“アベノミクス”が求めている地方創生は、国のGDPを現在の500兆円から観光ビジネス等も含めて600兆円にすることを目標としています。そのため新しく地方創生の責任者となった山本耕三大臣は採算ベースのある事業展開ができる町には全面的に資金援助するといっています。それに対する町の方針を調べますと、すでに立派な中期基本計画(H28~30年)があり、それを実行するための立派な総合戦略が策定されておりました。町はすでに5つのテーマを推進していました。町はこれ以外で町にとって重要な課題となるものの模索したいという意思があり、6番目のテーマとして「地域課題検討部会」を立ち上げ、町民にむけた部会員の公募がありました。私が早速公募に応じ、最初の会合で提案書を提出しました。私が実施したのはP2M的な手法で課題と解決のための提案をまとめたものです。
 これに対する部会長の意見は、はっきりわかった来年度の予算に合格するようなテーマでないとダメだという発想でした。予算に見合う課題を選ぶという発想に驚きましたが、町とは結局日本的ムラ社会の典型だと理解し、とりあえずできるものをやろうという案に同意し、3つの案件が採択されました。
 私は地方自治とのお付き合いは初体験ですが、転職や社内移動で業界の違う仕事に組織替えした経験があり、新しい組織体に参入した場合の心構えができていました。
 私の経験は巨大ビジネス社会への参入のため、参加した業界の仕来りを素直に学ぶことを心掛けてきました。しかし、今回は私自身がPMの専門家で、その見識は役に立つという目途があったために提案書を出したわけです。しかし、専門家が出す提案書は先の先を読んだ提案となっており、素人から見ると分かりにくいのが特徴です。考えてみると、この仕事はボランティア活動です。玄人がいるわけはありません。手っ取り早くできる案というのは身の丈に合った提案かもしれないと、素直に感じ合意しました。
 そこで私自身が素直になって、日本的ムラ社会の住人になり、ことにあたることの重要性を理解しました。まず、関係者に現状を聞きながら話を整理していくことにしました。素直に接すると、多くの関係者が素直に話をしてくれました。そこで更に質問をしながら内容を理解したことを伝えていくと、この新規参加者に対し、好意をもってくれるようになっていくのがよくわかりました。理解した内容をベースに書類をまとめていくと、私に対する信頼度がどんどん高くなっていくのがよくわかりました。常にグローバル視点を心掛けてきた私が、日本的ムラ社会に対する、かたくなな考えを捨てると逆に信頼しあえているという安らぎさえ感じました。
 ここで部会長から本案件にたいする住民の意識を喚起するためにワークショップをする提案があり、ワークショップは専門家の指導に基づいて実施しました。
Z. ワークショップというのは面白いが、価値創造という内容に仕上げるには参加者に専門性の高い人を集める必要はないのかね。
I.  ご指摘の点が最大の課題でした。まず住民向けにワークショップ参加者を募集しました。しかし同時に狙いをつけた人材を10名ばかり参加させ、あとは成り行きに任せました。合計64名が参加してくれました。1テーブル10名としますと、テーブル数は6となり、3テーマで6テーブルは、1テーマあたりA,Bと2テーブルになりました。各テーブルの進行役はAテーブルがテーマの責任者、Bテーブルはすでに依頼した若手女性3名にお願いしました。
 ワークショップを始める前にワークショップを企画した都市開発専門コンサルタントに町の状況説明をしてもらいました。町の人口縮減の状況、10年後までの人口構成変化を説明し、現実の問題点、10年後の問題点を参加者にアピールしてくれました。
 次に各テーマ責任者がテーマの課題の説明を行い、このワークショップは町に対しに要求することではなく、町が考えていなかったことで、これから必要と思われる価値ある課題を自分たちの力で提案し、検討することだとお願いしました。
Z. 結果はよかったということかな。
I. そうです。結果は町に対する要求事項が少なく、すぐできる提案と、将来はこんなことができるといいねという内容に分かれました。ワークショップを実施して感じたことは想定していたより住民のレベルが高かったこと、意欲があることを感じました。
Z. それはよかったが、次はそのまとめが大変だろうね。
I.  ワークショップのグループ討議1:各位の提案をポストイットに書いて、模造紙上に内容別に分類して貼り付けたものを成果物1としました。
 ワークショップのグループ討議2:成果物1をテーブルの全員で討議し、提案を具体的な課題に整理したものを、新しい模造紙の左側に示し、右半分には新しい提案をまとめ、左半分に課題化してない提案をまとめた模造紙を成果物2としました。
 従来はこの模造紙の成果物1,2を制作することでワークショップを終了させていましたが、コンサルタントから従来にない提案がありました。成果物1、2それぞれをA4の紙に書き上げる提案です。ポストイットに書かれた内容をすべてA4の下半分に書き上げます。上半分は模造紙の写真をとり、これを転写します。この結果成果物をワークショップ参加者全員に感謝の意を込めて、配布することができました。
Z. それはよいことをしたね。通常は参加者に成果物を送ることをしない。しかしこの種の行動は住民の心に沁み込み、単なる戦略などより、住民を刺激し思わぬ成果に発展していく可能性が高いかもしれない。
I. ありがとうございます。新しいことをやるときは、このような素直さが必要なことも実感しました。行動することで新しい手法が生まれるといった方がいいのかもしれません。しかしこの3つのテーマだけで町の再生を達成することはできませんが、町の課題検討はビジネスの競争とは違い、すべてを1回で決める必要はありません。住民参加のワークショップを実施することで、住民の意識が向上し、さらなる前進が望めるかもしれません。町全体が日本的ムラ社会の典型です。今回は町の住民として、町の再生事業のプロジェクトに参加したことで、いろいろと新しいことを学びました。
テーマの企画者は住民から信頼されなければなりません。信頼されるには自分の主張を押し通すことより、接する人々から話を聞き、その内容を理解して、行動に移すという実績を残さなければなりません。
日本ムラ社会という、とてつもなく大きく、長く続いている社会です。住民の発想を無視しては、こちらが排除されるという力学が発生するからです。
信頼関係が確立すると、相手から聞いた話を基に、内容を広げることができます。例えば将来この課題はどのように変化するかなどと設問しても、相手は素直に反応し、会話の発展の中から新しい成果物が生まれ、更に信頼関係が深まることがわかります。

 現在は完全なムラ社会住人となり、知人が増え、この流れの中から価値ある意見が形成される手法を開拓したいと考えているところです。

Z. どうやらIさんらしい目途がたってきたという結論でいいのかな。
I. まだ、漠然とした案の段階です。その理由は“アベノミクス”にあります。この話は今月号では時期尚早なので、次回以降にゆだね、当分現在進行中の話を継続させていただきます。
Z. 批判より、話を進めることが大事だな。了解した。

以上

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