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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~ノンネイティブの力~

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 ネイティブのように英語を話すことができたら、、、そんな風に思ったことはないだろうか。私は、その願いをずっと持ち続けてきた。中学生でアメリカに住んでいた時は、「もっと上手く話せるようになったら、友達も増えるかもしれない。」そう思っていた。今は、「英語でもっと上手く文章を書くことができるようになったら、レジュメプロ(履歴書等を作成するサービスを提供)で、より洗練された英文を届けることが可能になる。」そんな想いで、英語の勉強を継続してきた。
 そんな私が、先日、「ネイティブのように英語を話すことができないことのメリット」に気づいた。国内外の組織にいる人たちを集めて行った研修の場での気づきだ。研修のファシリテーターの説明に上手くついていけないノンネイティブの人達の戸惑いを観察したのがきっかけだった。その米国人のネイティブの研修のファシリテーターは、米国では使われているけれど、ノンネイティブの人達には一般的に馴染みが薄い表現=イディオム をしばしば使っていたのだ。
 例えば、air on the side of caution。そのまま訳そうとすると、「注意の側に空気」???となり、意味が全く通じない。実際の意味は、「慎重過ぎるぐらい慎重になる」だ。他にも、A penny for your thoughts 「あなたの考えに1 ペニー」???これは、誰かに考えを尋ねる時に使う表現だ。An arm and a leg 「腕と足」???これは、非常にコストが高いことを意味する。日本に長年住んでいる方なので、日本人にはわかりづらい表現を使わないで説明してくれるだろう、と期待していた。しかし、英語を母国語としている人には、それは容易ではないケースがあるのだということを知った。
 イディオムに加えて話がわかりづらかった要因は、早口になる傾向があったこと。そして、冗談を言う際に小声で言う傾向があったことだ。ネイティブ同志だと、それでも理解されてきたのだと思う。その癖は根強く、もう少しゆっくり、かつ、大声で話すようお願いをしたが、大きくは改善されなかった。
 もちろん、ノンネイティブがいる場ではイディオムを使わない、あるいは使った場合には補足説明をつける。そして、ゆっくりと大声で話すことができるネイティブの方もいる。しかし、その数は、私の経験上では、多くはない。これは、多様な人と接する環境においては、日本人をはじめとするノンネイティブが有利になり得ることを意味するのではないか。知っている単語数が限られているということは、一見デメリットに見える。しかし、だからこそ、イディオムを使わず、誰にでもわかる平易な言葉で語ることができるのではないか。難しい言葉を入れないからこそ、そして、短文で話すからこそ、伝えたい本質をはっきりと伝えることも可能になり、相手の理解度が増す。私の知人は英語が決して得意ではないけれど、言いたいことはちゃんと伝えることができる。彼の話しぶりを聞いていると、短文で話し、それらをわかりやすい接続詞でつないでいる。
 A. Therefore, B. (Aである。従って、Bである。)といったような具合だ。長々と話す人の話を理解して、誰もがわかる言葉で簡潔に言い換えることができるファシリテーターがいる。彼にそのコツを聞いたことがある。いわく、「名詞と動詞に注目すればいい。」つまり、「名詞と動詞」さえ使えば、意図は伝わるということだ。
 コミュニケーションで大事なのは、流暢に話そうとするよりも、伝えたいことが、まずは相手に誤解のないように伝わること。そのための出発点が、平易な言葉で伝えることだ。その際、その言語が得意でない人の気持ちが理解できること、そして限られた表現しかないことも強みになる。どう伝えたらいいか、相手目線に立った工夫が、ある枠の中でできるようになるからだ。加えて、平易な言葉をどういう順番で、どういう接続詞を使って伝えるか、も、伝わるレベルを高める。その際に、「結論」「理由」「結論」の流れを使う、といった型に沿って話すのは効果的だ。ただし、武道と同じで、型を身につけるためには訓練がいる。型を徹底して練習することで、体で覚え、自然とできるようになるまで習得できる。私は、これを、昨年学んだ「方眼ノートの型」を使ってやりたいと思っている。その第一歩は、「英語で伝えたいことを相手に誤解のないように伝えることができる練習」=ドリル を方眼ノートの型を使って作ること。そのためには、皆さんがどういうことをどんな場面で伝えたいのか、それをたくさん知ることが必要となる。対話を重ねながらドリル作りに取り組むことで、ノンネイティブの方が力を発揮する支援をしたい。

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