PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (76) (実践編 - 33)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 COTO(Chief Operation Technical Officer)がいなくなり、CEOも変わり、COTOの役割まで任され、忙しい毎日が続き、疲れて帰宅し、女房と二人で食事をしながら今日一日の話をしていたところ、電話がかかってきました。
 誰かと思い電話に出ましたが何やらスリランカ語で慌てた声でした。スリランカ語は理解できないので「英語で慌てないで話しなさい」と言って、話を聞いたら「人事統括部長が帰宅途中に暴漢に襲われ銃で撃たれました」とのことでした。
 更に事情を聴くと「統括部長は病院に運ばれ重傷のため手術中です。運転手も打たれ同じ病院にいます」でした。
 おどろいて、なにはともあれ、着替えもせずに運転手を呼び、病院に駆けつけました。
 統括部長は手術中で会えませんでしたが、運転手は足を撃たれ、大きな風呂桶のような台に横になっていました。足に包帯を巻かれ、その包帯も血で真っ赤になっていて、そこから血も流れていました。
 「なぜ、運転手をすぐに手当てをしないのか?」と医者に話をしたが、「順番がある」と冷たい返事でした。内戦の真っただ中のスリランカではこのようなことは日常のような感じに受けました。
 人事部長が暴漢に襲われた事情を運転手や現場を見ていた人に聞いたところ以下のようなことでした。

 会社を定時に出て車での帰宅途中の事件だったようです。
 自宅に近い細い路地に入ったところに大きな材木が転がっていたので車を止めたところ、ボンネットに人が飛び乗ってきて、おもむろに統括部長に向けて4~5発ぐらい撃ってきました。一発が運転手の足に当たり、残り3発が統括部長に命中したとのことでした。
 そのような話を聞いている内に手術も終わりました。運よく手術も成功し、彼は無事だったようでした。そして、手術をした医者に彼の様子を聞いたところ、銃弾はわき腹に2発でもう一つは顎に当たったとのことでいた。
 「何故、顎に当たったのか?」と聞いたところ、「彼の衣服の胸にさしていた万年筆に一発が当たりそれが兆弾となって顎に当たったようです」と説明してくれました。
 犯人は心臓を狙ってとどめをさすつもりだったようです。彼は万年筆に助けられたということになります。
 一応、命に別条がないこともわかり安心して、本事件の概要をCEOに 電話で説明し自宅に帰りました。

 「何故、彼が撃たれたのだろう??・・この忙しい中でさらに面倒なことが起きてしまい、その善後策をどうしたらよいか?・・」一晩中考えてその夜は眠ることもできませんでした。
 翌朝、早速CEOの部屋に出向き状況を説明するとともに、寝ながら考えた対策について話をしました。
 そして、以前の懲罰委員会で活躍してくれたCIAを担当として、CAOが中心となって警察と密に連絡を取れる体制を作ることにしました。
 この組織は通常業務とは異なったタスク組織とし、この事件に係る問題の解決を優先するプロジェクトとして位置づけました。
 この事件について関係者と議論しましたが、筆者は本事件のきっかけは社内の問題に起因していると思っていました。その理由はこれまでかなり厳しい懲罰委員会での処分や大きくこの案件にかかわった人事部に恨みを持った者の犯行であり、その代表である人事統括部長がターゲットとなったと想定しました。
 この事件を重く見て、筆者はアドバイザーとして警察署長を退官した人と、そしてセキュリティーの問題もあるので軍の退役准将を雇い、筆者の部屋の隣に専用オフィスを作り、常に相談できるような体制をとりました。
 その結果、軍や警察からいろいろと情報が入ってきましたが、どれもが確信をついたものではありませんでした。しかし、これらの情報を整理すると犯人像としてはどうも軍の脱走兵で「殺しを生業とした殺し屋」のようだとのアドバイザーの意見でした。
 この話を聞き恐ろしくなってきましたが、スリランカではこの種の人達をコントラクトキラーと称し、依頼人の要請に基づき最後まで契約を履行することが一般的であるとのことでした。そのため、今回のように命拾いして、たとえ通常の生活に戻っても最後まで狙われる可能性があるとのことでした。
 この意味することは、人事統括部長が退院しても通常の生活もできないし、彼の家に警備を置いて閉じこもっていても危ないということです。
 スリランカで生活する限りで安全なところというと、警備もあり、大使館員も住むような頑丈な高層住宅ということになります。CEOと話をした結果、退院後はこのマンションに秘密裏に住まわせることにしました。
 その後も警察や軍及びCIAの調査では犯人が見つかりませんでした。

 このような事件の後、筆者が会社に出かけようとしたら、運転手が何やら紙片をもってきて「これが自動車のフロントガラスに張り付けてありました」と私に手渡しました。
 内容は運転手によると「次はお前だ!気を付けろ」とのことでした。
 早速、本件についてCEO に話をしました。
 彼は「スリランカ人は日本人には手を付けないと聞くが、外出や通勤には十分注意するように!!」と言うことだけで手の打ちようがない様子でした。
 確かに雲を掴むような話であり、せいぜい周りに注意をしながら行動範囲を狭めたり、会社に行く道順を毎朝変えたりして過ごすしかないと思います。
 もう一つは女房が昼間自宅にいる時によく無言電話がかかってくるとのことでした。
 電話については、筆者の所にかかってくる電話は交換機に細工をして電話の相手がわかるようにしました。
 今度は、朝の出勤後のことでしたが、毎朝秘書が準備するお茶を飲んだら、何か苦い味がしたのですぐ吐き出しましたが、心配になりすぐに医者に行きました。
 検査の結果はなんでもなかったが、このように銃撃事件の後は仕事以外のことがいろいろ発生し、筆者は神経を使い参っていました。
 本件は私事なので本社にはなるべく黙っていましたが、友人に話をしたところ、彼が動き「まずは自分を守るため」と言って気を利かし、本社の常務に話をしてしまったようです。
 しばらくすると、本社からは筆者に防弾チョッキが送られてきました。この暑いスリランカで防弾チョッキをいつもつけていることは難儀でしたが友人の行為に感謝しながら毎日つけて朝と夕方の通勤に使用しました。
 このようなことが次々と起こる原因は、これまでの懲戒委員会での免職、減給、一時出勤停止等の処分にあるのではないか、真剣に思うようになりました。
 そのため、これに多く加担した人事統括部長とその責任者であるCAOへの仕返しではないかと感じました。
 しかし、それにしても懲戒処分程度のことが銃撃による殺意をもって報復するようなレベルの話ではないとも思っていました。人事統括部長自身が関係している他の事情に問題があるとも考えられます。そうでなければ責任者である筆者には脅しだけでなく銃撃の可能性も十分考えられます。
 このようなことで毎日が緊張の連続でしたが、この事件の発端である統括部長の今後の処遇も考えなければなりません。
 彼は仕事もせずに、隠れているだけでは不満も募ってくると思い、その打開策も考える必要があると思いました。
 その打開策をCEOと相談した結果、本社の了解が得られれば、シンガポール事務所に面倒を見てもらうことで進めることにしました。
 いろいろ本社とも話をして、「何はともあれスリランカにいるのは危険」との本社の判断もありシンガポール事務所の一角を借りることにしました。そして、そこをSLTのスリランカ支店として登録し、彼を送り込むことにしました。
 シンガポールに送り込むにあたってもその途中での警戒もSLTのセキュリティー部隊や警察にお願いして、厳重な警戒のもとで空港まで送りました。
 筆者としてはこれで一応の決着がついたということで少し気が楽になりました。その後も筆者は、彼の様子を見るために何度かシンガポールに出かけました。
 一方、肝心の労働組合との関係は相変わらずであり、銃撃事件や懲罰委員会の件などでなかなか手を付けられないでいたこともあり、何となく険悪な雰囲気となっていました。
 その理由は管理職組合員である部長を懲罰委員会で懲戒処分にしたこと、厳しいCIA の調査、人事制度における管理職登用制度の改変なども原因となっていたようです。その他、相変わらず公社であった頃の権利の主張などもうるさく要求してきていました。
 特に、民営化事業として最も協力してもらいたい管理職組合は上記に示す件では多いに抵抗を示しました。
 管理職組合は、すでに話をしたように部長や課長そして局長も組合員として入っているので幹部会議にも彼らは出席しています。そのため、この会議の内容がすぐに各組合に知られることになり秘密が保たれない状況となっています。よって、重要な施策を進めるうえでも大きな障害となっています。その結果、なかなか民営化の目的である公社改革が進まないでいました。このことが最も筆者として頭の痛い問題であり、SLT の民営化には幹部の協力が絶対的に必要と考えていました。
 「この打開策は何か?」を毎日考える日々でした。
 そこで、効果としては薄いと思いましたが、一つの方法として考えたのは国際規格を利用した業務手順の改革を考え、前月号でも述べたISO 9001の認証取得です。
 この方法なら、SLTも以前はイギリス統治での業務のやり方で仕事をしていたこともあり、このイギリス発の国際規格であるISO9001に融和性があるのではないかと思いました。
 この認証取得には従業員が一丸となって作業を進める必要があるのでばらばらとなっている仕事のやり方の統一ができるばかりでなく、従業員同士に協調性が生まれてくるのではないかと考えました。
 この認証取得のため、品質保証部を立ち上げ、SLT の幹部社員を集めISO 9001の内容やその意義について話をしました。意外に抵抗なく受け入れてもらえました。
 以前、筆者が同じ民営化後のN社に同じようにISO9001取得について説明をした時の感触とは異なった反応でびっくりしました。
 これにより、筆者はISO 9001の認証取得によって少しでも業務のやり方に変化が見えることに期待しました。しかし、それでもSLT 幹部を含めた従業員全体が占領軍のようにやってきたN社にはあくまでも面従腹背の付き合いでしかないと思っていました。
 何か従業員と共通してことを作り上げ、従業員や組合との信頼関係を築く方法はないか毎日思い悩んでいました。

 そんなことを考えていた時、一人の従業員が秘書の紹介で私にアポイントメントをとってきました。

 今月号はここまで、続きは来月号

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