PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (75) (実践編 - 32)

向後 忠明 [プロフィール] :1月号

 明けましておめでとうございます。 2017年元旦


 先月号では「いろいろな仕事や事件が舞い込んできた」と述べていました。
 その一つはCEO の交代とCOTO(建設担当役員)の日本への帰国です。
 薄々は感じていたが、このように早くそれも同時にスリランカテレコム(以後SLTと呼ぶ)からいなくなることは驚きでした。
 CEOについてはN社と規約の上での交代劇と思います。
 しかし、COTOについては全く何の情報もなく、旧CEOからも新CEOからもCOTOの交代または代行者についての話は役員会においても説明がありませんでした。
 この結果、筆者が暗黙の内に当然のようにCOTOの役割を兼務するような状況となりました。
 これまでこの建設関係の業務内容は遠目で見ていたが、筆者としても薄々いくつかの問題があることに気が付いていました。
 早速、COTO代行としての活動を正式に開始し、建設現況の内容を知るため関係者にその調査をするようにお願いしました。

 調査の結果以下のようなことがわかりました。
 SLTで実行されている案件はほとんどがODA(海外開発援助資金)に依存しているものでした。そのうちの幾つかの大きなプロジェクトは日本のJBICを通したものでした。
 その殆どのプロジェクトは商社がプライムとなり、プロジェクトをリードしていました。
 しかし、この人達のプロジェクトマネジメント能力は期待できるような十分なものではなく単なるエージェント的役割でした。技術面においても専門的な知識はあまりないようでした。
 一方、技術面を含めSLT側の立場でコンサルが付いていましたが、この人もプロジェクトマネジメントについては全く知見も経験もなく、結局は顧客としてのSLTが問題発生ごとに人を増やして対応していくような状況でした。
 おまけにサブコンの能力も低く、工事の予定も遅れている上に品質面でも多く問題を起こしていた。
 また、プロジェクトの契約も商社がプライムとなって、一括ランプサムで実行されていて、SLTは商社にプロジェクト全体のマネジメントを任せざるを得ない状況でした。
 また、プロジェクトの進捗や課題に関する報告は技術コンサルからのものに頼り、あまり介入することをしていませんでした。
 なお、ODA案件は一般的に資金供給国の業者を優先する事や既設備との関連性等も考慮しない、一般国際入札を前提としています。
 そのため、被援助国の既存の機材の機種またはモデルを考慮したものではなく、その結果として、SLT の設備は各国のメーカの各種の機器材か混在することになっていました。
 このため、メインテナンスが複雑となり、その費用も余計に掛かり、また故障時の対応でも多くの問題が発生していました。
 おまけに、これまでの各国からの援助によるプロジェクトで購入したケーブルも、対象案件以外の目的に使用できず、プロジェクト終了後も多量に余って資材置き場に山のように積み上げられていました。

 この原因は契約やプロジェクトの監理をコンサルに任せ、SLT側にプロジェクト全体をマネージするといった意識がなく、コンサルからの報告を照査するだけであったところにあるようです。
 それにつけ込んで高額な報酬をとるコンサルタントは契約期間を過ぎていてもプロジェクトの遅れをプライムのせいにして居残っていました。
 SLTも自信がないため、このコンサルを辞めさせることもできず雇い続けている状況でした。
 SLT側はこのような状況をあまり深刻には考えていない様子でもあり、「N社がマネジメント側に立ってプロジェクトを管理しているのに?」と疑問を持たざるを得ない状況でした。
 このような状況を断ち切るため、まずはコンサルタントにはやめてもらい、筆者が直接プロジェクトに関与し、毎月のプライムのPMが進める進捗会議に出席し、彼らに厳しくコメントし、そのフォローをSLT とプライム側が一緒なって実行するように求めました。
 コントラクター側も筆者の経歴なども知っていたようで、これまで甘く見ていた仕事への態度も急激に変わり、若干の遅れではあったが以前よりも進捗が改善するようになりました。
 このようなことをN社が介在していたのにもかかわらずなぜ長く放置していたのか疑問に思い腹も立ちました。しかし、過ぎたことを言ってもしょうがないので筆者としては与えられた責務を黙々とすることにしました。
 しかし、この業務にかかわってきて、なぜN社側は気が付かなかったのか疑問に思いました。
 CEO はCOTOのコンサルの進捗報告やそれに伴った回線開通による収入の増加だけを見ていたようでその裏で隠されたいろいろな問題を正確に把握していなかったようです。
 このことはN社側の建設に係るプロジェクトマネジメント人材の不足もあるが、一番の問題はODA案件の在り方に基本的な問題があるということでした。
 国として良かれと思っているODAによる援助がかえって多くの問題をつくってしまっていることです。開発援助を受ける側の立場から見てみると技術的知見のない、そして自助努力のできない被援助国に対しては、もう少しきめ細かな施策を考える必要があると感じました。
 すなわち、ODAによる援助では、基本的に日本の場合はアンタイドと呼ばれ、日本が資金を出すといっても競争入札を原則としているため、その都度業者が持ち込むシステムや設備が異なってきます。よって、結果的にはSLTのシステムや設備は チグハグな設備構成となり、まるで通信設備の博物館のようになっていました。SLTの電気通信の歴史は日本のものより古く、交換機などは骨董品的クロスバーもまだ使用されている状態でした。
 そのため、各設備間のインターフェースや中途半端な回線接続状況から、メインテナンスも困難を極めていてコストもかかるといった状況でした。
 筆者としてはこのような状況を少しでも改善するため、余材の整理を行い、それを使用して、不足回線や不良回線の改善を早急にやるように指示しました。
 このように建設関係の問題の発見と進捗の遅れの回復などに介入し、何とか軌道に乗せるようにしてきました。
 発展途上国の援助についてはその国の人的能力を考慮したものとすることが大事であり適切なリソースマネージメントや目標管理のできる人材の育成が必要と感じました。
 そして、SLTとしても建設関係に限らず、今後のことを考え、人事主幹のCAOとしてプロジェクトマネジメントの研修を行うことを考え、教育研修部にその指示を出しました。

 一方の、懲罰委員会の仕事はCEO が変わってもその活動は続いて行われ、その内容も広範にわたる内容のものとなっていました。
 例えば、郵便物の不配、機材の横流し、自動車の公私混同使用、許可なしの物品購入等々いろいろと発生していました。
 問題となっていた懲罰に関する規約も弁護士が完成させていて、その手順に従って報告された案件を内容によって懲罰の軽重を以前より迅速に評定することができるようになりました。また、SLT 内の査察を行う CIAもかなり綿密な調査を行うようになり、委員会での処理もかなり効率的になりました。
 その後も委員会活動は続きましたが、CIAよりの報告も数は多いが、その内容は風紀をはじめ地方の小さな問題などとなり、委員会で扱うようなものが少なくなってきました。
 そのため、1年ほど続いた委員会でしたが、SLT内の問題事項もかなり減少したことからこの委員会を解散し、これらの作業を人事部に引き継ぐことにしました。

 この懲罰委員会の設立後には懲戒処分に対して大臣、国選のボードメンバーそして組合などからも外乱が入り、かなりセンシティブな問題となったこともありました。
 また、部長クラスの懲戒処分に関する内容が外部に漏れ、この内容がUNION(特にエンジニアリングユニオン)活動の原因となり、挙句の果てはスリランカ議会にまで問題として取り上げられようにもなりました。中にはかなり悪質な事件もあり、この調査に当たっては多くの妨害もありました。
 しかし、一連の懲罰委員会による部長クラスの懲戒処分はほかの部課長クラスに大きなショックだったようです。SLTの社員は特権意識が強く、かつなれ合いが多いので、この悪い習慣から決別するためにはこれくらいのショック療法は必要だったと思っています。

 さて、次なるCAO としての課題は未だこの時点では解決されていない組合問題です。
 組合対策はスリランカの全企業が問題としているものです。この組合対策を何とかしない限り企業が企業として成り立たないのがこの国の問題です。
 SLTも同じであり、これまでは以前のような大きな運動は発生していないが、集会はあちらこちらで行われています。
 ところがこれまで静かだった組合ですが、懲罰委員会や建設関係の業務に一段落したころになって、急きょ組合連合から10項目にわたる要求が出てきました。ほとんどはすでに話し合った要求内容であるが、その主な内容は、公社時代の特権回復、物価上昇により給料のアップと昇格、社員電話のレンタル料金の無料化、ペンションスキームの追加等々でした。
 これらは一部を除いてすでに話をして解決したことであり、「何をいまさら」と思いました。しかし、真摯に対応しないと以前のような大きなデモになると思い、連合組合(UNION) の代表に秘密裏に接触し、このことについて話をしたところ、彼は知らないといっていました。さらに労務担当に調べさせると以前問題となった、いつも過激な要求をする2つの組合の長が提案したものであることがわかりました。
 この組合長はあまり過激な組合でしたので以前、会社出入り禁止にしたことがあります。その後、いろいろ訴えを出してきて裁判沙汰になりましたが、結局会社側が勝訴し、決着しました。しかし、今度は組合連合(UNION)でも強力な管理職からなるエンジニアイング組合からまだ彼らが満足していないいくつかの項目について会社側に対して要求をつきつけてきました。
 それは組織の変更、人事、社内規則等であり組合とは関係のない話でした。
 もちろん、組合に言われるまでもなく人事担当であるCAO は人事関係について適切な人事の移動とマンパワーの均等割り当て、新技術への人材シフト、希望退職の断行、契約社員の処遇見直し、社内規則の制定などを行っていることを説明しました。
 多分、彼らは懲罰委員会での部長クラスの懲戒免職に対する反発から来ていることと感じました。
 今回の件については、人事、労務、総務が総出で彼らの要求に示されている件について真摯に対応していることを説明しました。その結果、静かになりましたが、何時また労働運動になって蒸し返されるかと心配し、何とか組合との健全な関係構築ができないかを考える毎日でした。
 その他CAO の職務としてSLT 社内の業務手順の統一化のためのISO認証取得のプロジェクトチーム編成、建設関係では前述の指示事項のフォロー、社内の業務環境の改善のための設備更新や机や個室の配置換え、調達については適切な調達手順の確立そして設備の更新(バラバラな設備や機材の統一)などと改善のため毎日忙しく動き回っていました。

 このように忙しい毎日が続き、疲れて帰宅し、女房と二人で食事をしながら今日一日の話をしていたところ、電話がかかってきました。
 誰かと思い電話に出ましたがスリランカ語で意味不明のあわてた声でした。

 今月はここまで

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