PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (74) (実践編 - 31)

向後 忠明 [プロフィール] :12月号

 スリランカテレコムの内情については先月号で話をした通りですが、まずは会社に不利益を与える社内犯罪の撲滅を第一と考え、これを当面の目標とすることにしました。
 そして、これに対応するためのチーム作りを考える事にしました。それもかなりの権限を持つチームとするため、まずはこの会社の最高責任者であるCEOを巻き込むことにしました。
 早速、これまでのこの会社の内情についてCEOに説明しました。彼は「当然その旨は知っている。何故、そのことに気が付きその対応策をもっと早くできなかったのか?」と言ってきました。
 それに対して就任したばかりの筆者に何故このようなことを言うのかと思いながらも、「ここにその対策案をもって説明に来ました」と言いました。
 その対策案では、本件に係る担当者はかなり高いレベルでかつ信用のおける人材を張り付ける必要があると説明しました。
 CEO はそれに対して、「委員会形式として対応するこのチームを懲罰委員会として立ち上げ、少人数の秘密会議で行う必要がある」ということで「自分がその委員長になる」と言いました。
 それから、2人で本件について話し合い対策案について話し合いを行い、CEOを中心とする体制の委員会とし、必要都度CAOである筆者の要請で開催することにしました。
 実行部隊はCAOが代表でその他は人事部長、外部からはCIA(chief Inspection Authority)とその配下、そして弁護士という構成としました。
 このように、CAO 直属での体制での実行部隊は内部人材は人事部長だけとし、その他は外部人材としました。
 そしてこの体制で、最も問題があると噂されている調達部長とその関係者の調査に入ることを指示しました。
 しかし、何があってもスリランカテレコムは未だ国が60%以上株を持つ会社であり、社員は元国家公務員であったわけですから、懲罰に関しても慎重に対応することが必要です。そのため、完全な証拠が必要であるのでその旨をCIA に伝え、調査を慎重かつ正確にやるように求めました。
 早速調査を開始し、CIAが動き出しました。
 それから少したってから、労働組合の方から、「見知らぬ人がいろいろと何やら聞きまわっている」などの話が筆者の耳にも入ってきました。秘密裏に動いていることがこんなに早く労働組合に伝わっていくのかと思いましたが、そのうち彼らから何か言ってくるのではとこちらも待っていました。
 幸いにも、その動きの目的がわからないため特に大きな問題となりませんでしたが、いずれ知れることとなる覚悟はしていました。
 調査を開始して一カ月ほどたって、第一回の報告会を本社の一室で委員が集まりその経過報告を聞きました。
 その報告を聞いて驚いたことには調達部長と各地方担当者が一緒になって会社購入品のほとんどにマージンを乗せてその差額を自分のところに入れていた証拠を持ってきました。
 それもかなり前からであり、委員全員が唖然とするばかりでした。
 早速、CEOおよび弁護士も含めて打ち合わせを行いましたが、問題は「どのような懲罰とするか」と言った劫罰基準がないため、まずは罪の程度での懲戒処分のレベルを決めることを話し合いました。
 そうでないまま、この部長を処罰することもできません。そこで委員である弁護士に、「世間一般企業でのこの種の問題での処分について調べてもらうことにしました。
 更に、今回の問題にかかわらず、それぞれの問題の程度での懲戒処分レベルの調査もお願いしておきました。
 このようなことで、CIA の調査結果での処分は「弁護士の調査結果を待つ」ということで、処分保留とし、さらに詳細な調査を続けるように指示しました。

 一方、気になる労働組合対策であるが、33もある組合の集会に頻繁に呼ばれ演説などを頼まれるが、ありきたりの話しかできず、会社と組合の喚起はあいかわらずでした。
 相変わらずで各組合幹部から出てくる話はやはり日本の業務のやり方の押し付けについてのクレームや、昔から問題にしている人事処遇についてのことでした。
 特に人事処遇についての問題についてはそれなりの処遇の改善を行ってきていると前CFOから聞いていたので、規定どおりやっていることを説明しました。しかし、彼らは全く納得していない様子でした。
 筆者は「何故!!!」と思い人事部に確認したところ、スリランカは技術系と財務系以外はどんなに優秀であっても管理職に着けないシステムになっているようでした。
 考えてみたらNTTや日本の公務員の世界はキャリアー制度というものがあることを思い出しました。
 確かに、仕事の業績もないままどんどん出世していく人も見ているし、本社採用と地方採用では同じ大学を同期で卒業してNTTに入ってきてもその出世度合いが全く異なることも見てきました。
 たぶんNTT出身のCFO もCEOもこれが当たり前と考えていたのだろうと想像しました。筆者はNTT外から来た者であり公務員の世界と民間の世界は人事処遇については異なることを知っていました。
 筆者はスリランカテレコムは民営化したのでこのようなしがらみから脱皮できると考え、CAOとしての権限でこのシステムをやめる事を提案しました。
 この件で人事部長を呼びこれまでの習慣的人事制度はやめて新たに能力による人事を前提とした制度とするように指示しました。
 本件はCEO にも筆者の考えを説明しました。彼もこの点には気が付かなかったようでしたが、筆者の考えに了解をもらって実行することになりました。
 民営化のための改革というと、いつも労働組合からの抵抗が出てきていたようだが、思ったほど抵抗もありませんでした。ただし、一部の管理職からの抵抗はありました。
 その代わり、人事評価については厳しいものとし、特に管理職については文書による評価のほかに、CEOとCAOによる面接が行われることになりました。
 この面接は毎年、部長級の社本社社員及び電話局長の約100名ぐらいを対象として直接CEO とCAOにて行うこととしました。
 この目的は会社の中枢の社員とのコミュニケーションを主な目的とし、極力TOPと話ができる場作りになればとの思いでした。このような会社上層部との密なコミュニケーションの創生により労働組合からの不満はあまり出てこなくなりました。
 このこと以来、従業員から積極的に筆者の部屋に人がやってきて、業務上のことを含め会社内の様々なことを話す人が出てきました。

 一方の懲罰委員会ですが弁護士による懲戒に関する調査も終わり、数回委員会を開き調達関係での不正について幅広い調査結果もまとまり、慎重な審査の結果、調達部長を懲戒免職とし、新たに新しい調達部長を任命しました。
 もちろんこのことは、労働組合、特に管理職組合に事前にその結果も説明し納得してもらい処分を行いました。
 ところがこの処分の調査の過程で、新たに設備部長の不正が明らかになってきました。考えてみるとこの部は社内の備品、設備等々諸々の機材を業者から見積もりを取り発注する役務を担っている部門です。
 しかし、この部の扱う金額は調達部に比較し、それほど多くなく、あまり目立たないのでした。
 このことは、筆者が本社内の巡回で職場環境を見て回ったりしていた時、この設備部の不正に気が付きました。すなわち、社内の環境を良くするため、まず冷房設備を本社全部に導入することを考え、設備部にその購入を依頼しました。その時の購入承認依頼が来た時に???と思いました。
 早速、本件についてもCIAに調査を依頼し、その結果と処置について委員会で検討しました。
 結果的には、人事部長は懲戒免職を主張したが、過去にさかのぼっての調査でも調達部長ほどの悪質さはなかったので厳重注意としました。
 ところが、その厳重注意したその夜にこの部長の家に手りゅう弾が投げ込まれました。
 幸いにも屋根の上で爆発したので屋根が壊れただけで人には何の影響もありませんでしたが、その後の調査でもなぜ彼が狙われたのかわかりませんでした。
 一時は調達部長の罪に対して設備部長の処分が違いすぎるための腹いせではないかとの噂もありました。
 しかし、内戦が真っ盛りのスリランカでもあり、あまり周りもそれほど気にしないようで、そのままこの噂も自然に消えていきました。

 このように毎日が気の休まらない日々でしたので、他の本部の建設関係の仕事にも興味があり、建設部にも良く顔を出していました。
 そして、COTO (技術担当執行役員)の邪魔をしない程度に建設状況の話を聞いたりして、気を紛らわしたりしていました。
 このCOTOはインドネシアでのPFI事業において筆者の建設部で補助的な仕事をしていた人でNTT本社からの依頼でスリランカへ送り込んだ人です。
 筆者がスリランカに赴任した時ここでの役割はCOTOとしてと思っていたのもこのような事情からでした。
 噂では彼はもうすぐ日本に帰るような話もあり、その時はその穴を埋めてやろうかとも思っていました。

 しかし、そのような余裕も吹き飛ぶようないろいろな仕事や事件が舞い込んできました。

 今月はここまで

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