PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (73) (実践編 - 30)

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 スリランカへの長い機中での時間は「地球の歩き方」という本を読んで過ごしました。
 この本は国の文化、慣習、宗教その他生活に必要なことを詳しく書いているので、海外出張や駐在では非常に役に立っていました。
 そして、カトウナヤカ(コロンボ)空港に着き、問題なく夫婦ともに税関検査を終えて空港の外に出ました。
 到着した時はすでに外も暗く、周りにいる人たちの地味な服装や照明の暗さそして機銃を持った兵隊が其処ここにいるといった状況を見て、妻は何となく不安気な感じできょろきょろしていました。
 そして、そのような不安気な妻を伴ってタクシーに乗り込みました。
 空港から筆者たちの宿までは約32kmの道のりであり、舗装もあまり整っていないガタボコ道を宿へと向かいました。
 スリランカは信号もあまりないので自動車はホーンを鳴らしながらスピードを出して走ります。筆者たちのタクシーはさほどではなかったが、「この国の車の運転は乱暴で、追い越しや高速運転が多いので非常に危険である」等々と言った話を妻としている最中に筆者たちの車に他の車が追突してきました。
 かなりのスピードでの追突でしたが、車の後ろの我々の大きな荷物がクッションとなり、大きな身体的支障はなかったが、妻が「むち打ち」となり、首が痛いと言い出しました。
 未だ宿までかなり離れた辺鄙な場所でしたので、この場の対応をどうするか右往左往するばかりでした。
 やむを得ず、ぶつけた相手の人が携帯電話を持っていたので彼からそれを借りて、宿にいるNTT担当者に事情を告げ、宿の方に医者を準備しておくように伝え、その場から他のタクシーに乗り替えて宿へと向かいました。
 スリランカに着くなり、夫婦ともにこのような事故に遭い、先が思いやられる出来事でした。
 何とか宿に着き、早速、妻の具合を医者に診てもらい、応急手当てをしてもらい、翌日病院に行くことにして、その日は終わりました。

 翌日は会社差し回しの車で出勤し、早速CEOと会長の部屋に出かけ就任のあいさつを行い、今後の仕事についての打ち合わせを行いました。
 筆者の執務室はインドネシアの時のものより大きく女性と男性の秘書がそれぞれの部屋を持っていて、その他に雑用係もいるといったものでした。
 早速、秘書2人から前任者の手掛けていた業務の内容を聞き、その後、関係する部門や他の役員の部屋を訪れ着任の挨拶などを行い、それだけで一日が終わってしまいました。
 そして、宿に帰ろうとしたところCEOから呼ばれ、「君の車を新しく購入したものに変えるからそれで帰りなさい。そして専属運転手は前任のCFOの者を使いなさい」と言うことでした。
 早速、言葉に甘えてその新しい車で宿に帰りました。至れり尽くせりの配慮であったがやはり妻の自動車事故での「むち打ち」のことが心配でなりませんでした。
 「病院に行ってどうだったか?」と聞いたところ、前夜の医者が再度宿に来てくれて、「当分薬を飲んで安静にしているのが一番」とのことでした。
 それでもまだ気持ちも悪く痛みもあるということでした。こうなると食事や家事全般に支障をきたすと思ったが、妻の話では女中がすでにこの宿に同居している事とその女中は日本食も作れると聞いで安心しました。
 因みに、筆者たちの宿は25階にあり部屋数は寝室、居間兼食堂、その他に2部屋があり全部で200m²程度の広さがありました。
 女中部屋は我々の部屋とは区切られていて別に洗濯部屋や物干しスペースそして女中部屋が準備されていました。
 一階にはプール、スカッシュなどのスポーツジム、そしてレストランや店等々も自由に使える設備が揃っていました。
 このような状況での最初のスリランカでの一日でした。

 次の日から通常業務に入ることで部屋に入り椅子に座ったら、男の秘書が分厚い書類の束をもってきて、これにサインをしてくださいとのことで内容を見ると、ほとんどが超過残業、長期休暇、海外への転職等の許可そして関係部署の経費の承認などでした。筆者は初めてのことなのでよくわかりませんでしたが、秘書の説明に従って機械的にサインをしました。
 何はともあれ、筆者は全社員の人事、関係部門の許認可などの責任者であり、その数は膨大なものでした。
 朝の一番の仕事はこのようなことから始まり、その後は各部門長からの各種報告や依頼事項が次々と来て目まぐるしく、その処理をしていたら午前の時間はあっという間に過ぎてしまいました。
 午後は比較的業務に余裕ができ、本社の社内外をセキュリティーも筆者の担当だったので見回ったりしました。
 このような日々を一カ月ほどやりながら、現場を見るように心がけこの会社の状況観察と筆者の担当業務の全容をつかむようにしました。

 会社での役員の役割分担は、
CEOは政府対応(通信庁、大蔵省、民営化庁での会議や政府委員として国会説明)と電気通信全般の経営管理
前任のCFOは財務、人事・教育、総務、労務、調達、施設管理、法務の各部を所掌
COTO(Chief Operation & Technical Officer)は技術、建設、保全の各部を所掌
約一名のスリランカ人の事業部長がこの会社の電気通信に係るオペレーション(国内、国際)を所掌
となっていることもわかってきました。
 そして、筆者のCAO(Chief Administer Officer)としての所掌は前任のCFOの所掌から財務部門の仕事を除いたすべてを引き継ぐことになり、プロジェクトマネジメントと言ったことからはかなり離れた職種となりました。
 むしろ、筆者はこれまでの経験からCOTOの建設や技術部門の所掌になった方がよかったと思いましたが、すでに前任者もいる事なのであきらめました。
 しかし、プロジェクトは必ずしも技術系だけでなく行政系や企業の制度改革(リエンジニアリング)などにも有効であることはわかっていました。
 しかし、実際経験したこともない分野でもあったので、挑戦的に手探りで進めていくことにしました。

 一カ月程度のこの会社の状況観察と初期段階からいた他の日本人管理者達からのヒアリングで、この会社のスリランカ人管理者の人的資質や会社内部の問題などもわかってきました。
 例えば、
問題意識が薄く、現状を変えようともしない。いくら注意しても守らない。
自己規律に欠ける。すなわち、セルフモティベーションに欠ける。
指導者的な人の意見に踊らされる傾向にある。
縦割り組織であり、各組織の自己中心的な業務運営で横のつながりは薄い。
会議などが多く、その議事録はきれいにまとめるが結論がない。
計画性に欠ける。ODAへの頼りが多かったため計画を作る意識も技法もない。
守秘に至っては契約で規定していてもすぐに漏れる。
特に管理職組合からは会社経営の㊙重要事項が従業員に容易に伝わってしまう。
予算の算出が詰められないため安全サイドとなり予算が膨らんでしまう。
 等々です。

 このようなことは日本の企業でも多く見られることであるが、最も気になったのが⑦の守秘義務の話でした。
 この会社では管理職組合に部長クラスも入っているので会社の重要会議にこの人たちも参加しています。そのため、事前に会議の内容がすぐに労働組合側に漏れます。
 また、経営側のほとんどが日本人であり、それに対する反発もあり、日本側の労働組合に対する対応もうまくいってないようでした。
 この繰り返しが、先月号でも述べた以下のような事情を発生させていたように感じました。
CEOはじめ担当役員と労働組合との確執。
業務に支障が生じて、必要な活動ができていない。

 そのため、まずはこの問題の解決をCAOの優先事項として何とかしなければと考えました。もちろん、その他にも多くやらなければならないことが山積みであることもわかってきました。一カ月の状況観察と筆者なりの状況分析でも上記以外に以下のようなことをしなければならないこともわかってきました。

社内の犯罪(資材の横流し、調達業務での不正等々)の撲滅ための懲罰委員会の設置
業務環境の改善(各電話局の保守員の執務環境、本社各部への空調設備設置、本社及び電話局の部長、局長、課長クラスの部屋の見える化)
社内規定の厳格化のための社内規則の改定と入出管理のIT化
本社業務の標準化を考えたISO9001の取得とプロジェクトマネジメント教育の実施
管理職への一般社員の登用への壁の除去(管理職への昇格システムの変更)

 しかし、思うことは簡単であるがこれだけの問題をCAOとしての通常業務以外に自分のミッションとして行うにはかなりの時間と労力を要する仕事となります。
 これまで前任のやっていた仕事を粛々とやっていればよいのですが、これらを個々にプロジェクト化とすることで順次に進めてみることにしました。

 どれも時間のかかる問題であるが、会社に不利益を与える社内犯罪の撲滅を第一と考え、これを当面の目標としました。

以降は次月号とします。

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