PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(106)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :1月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
⑥優れた発想は、発想の「量(アウトプット)」に比例して生まれる。量が質を決め、質は24時間働く脳によって無意識に判別される。


●優れた発想
①優れた発想(思考)と優れた発汗(行動)

 筆者は、現在、いろいろな企業や大学などから「夢工学式発想法」の講演や実技研修を要請され、本業の本職の許す限り協力している。何故、協力するか?
 
 以前に説明したが、改めて述べたい。それは筆者が筆者の先輩諸氏から叱責されたためである。「川勝、お前は夢工学式発想法を活用して様々な発明や事業プロジェクトを成功させている。しかしお前だけが得をするのではなく、世の中で発想に困っている人を助けるべきだ」と厳しく叱られたためである。

 講演や実技研修を行った結果、多くの企業や大学から「本発想法を本物の事業プロジェクトに適用して新しい事業を立ち上げ、成功させたい。成功までの全工程を一貫して是非指導して欲しい」、「新しい製品の開発のために事業現場に来て実戦的な指導をして欲しい」、「アイデアをどの様に事業計画として纏め、実現させればよいかを具体的に教えて欲しい」など様々な要請を受けている。しかし本業・本職があるため十分に対応出来ず、申し訳ない気持ちでいる。

 これらの多くの切なる要請を受け、ある事が鮮明に浮かび上ってきた。それは激動、激変する日本や世界で最も求められているモノが何か? また中々手に入れられないモノが何か?と云う事である。それは「優れた発想(思考)」を如何に生み出すか? 生み出したアイデアを如何に「優れた発汗(行動)」で実現させるか?と云う事である。

②アイデアの量が質を決定する。
 企業や大学などで実技研修や実プロジェクトの実戦的指導などをした時、いつも共通して痛感する事がある。それは本号で取り上げている「アイデアの量が質を決定する」と云う場合の「量」の事である。

 筆者は研修や指導をした時、「アイデアの量はどれくらいが適切か?」と云う質問を数多く受ける。「多ければ多いほど望ましい」と答えている。しかし企業人や大学人が新しい製品、新しい事業を考え出す時、彼らが「多い」と考えているアイデアの量は筆者が考えているそれと相当異なることである。

 彼らが本物の新製品や新プロジェクトに於いて出してくるアイデアの量は多くて数百のレベルである。しかし筆者が求める量は、数千である。場合によっては数万が必要である。一桁も、二桁も違っている。しかし彼らのレベルの量では斬新的で優れたアイデアを生み出す地盤を形成することはそもそも無理である。

 彼らが多くのアイデアが生み出せないのは、彼らに発想を生み出す能力に決定的に欠けているためか? そうでなければ「駄作を幾ら生んでも、秀作は生まれない」という世の中の常識、固定概念、先入観などが彼らの深層心理を支配し、アイデアを数多く出す事に抵抗感を抱いているためか? どちらかであろう。しかしこの様な常識、固定概念、先入観は「発想の世界」では全く当てはまらない。

 繰り返しであるが、筆者はセガ勤務時代、最初の第1号の施設(ジョイポリス)を横浜で立ち上げ、全国に多店舗展開を実現させた。この第1号施設の「名前」を決めるため、筆者は日本と世界から約4000の施設名のアイデアを集めた。その中から社長の了解を得て命名したのが「ジョイポリス」である。何故これほど多くのアイデアを集めたか? 優れた施設名を見つけるためであった。

③脳は、多くのアイデアの中から「優れたアイデア」を無意識に判別する。
 数千の「アイデア」を如何に整理するか? その中から「優れたアイデア」を如何に判別するか?などの疑問が次々と起こってくるだろう。これらの疑問に真っ向から対峙し、悩み、考え、正しく実務現場で苦闘することが最も望まれる行動である。その過程で我々の脳はそれらのアイデアを無意識に「整理」し、「判別」してくれるのである。
出典:脳のイメージ図 seriousaccidents.com 出典:脳のイメージ図
seriousaccidents.com

 以上の精神状況をKJ法では「その答えが自然に向こうの方から自分に向かって来る」と表現している。筆者の場合では考え、悩んだ時など、朝、目覚めて意識がはっきりしかけてきた瞬間、「良昭(筆者のこと)、○○のアイデアが良い。それを纏めて直ぐに実行しろ」と天から声が聞こえてくる。不思議だ。

 いずれにしても「優れた発想」は、簡単に見付かる時もあるが、幾ら考えても見付からず、苦闘する時が多い。この様な発想作業は、「砂金」の中から「金」を見つける作業に酷似している。「量が質を左右する」のである。
出典:砂金集めと砂金 WWW.PIC2FLY.COM 出典:砂金集めと砂金 WWW.PIC2FLY.COM
出典:砂金集めと砂金
WWW.PIC2FLY.COM

●魚PJT
 淡水魚水族館の淡水魚は、体が大きく、色もカラフルな海水魚に比べて、体が小さく、色もカラフルではなく、魅力、迫力に欠ける。そのため何か新しい工夫をしなければ海水魚に勝てない。

 そのため筆者とその部下は、保有するあらゆる情報網を駆使し、世界中の「淡水魚水族館」を調べ、参考になるものがないか? 探索に次ぐ探索を行った。これらの調査は、単なる情報集めではない。集めた情報を調べて、何かを感じたら直ぐその場でアイデアを考え、メモする作業を徹底した。勿論、部下にもそうさせた。

 筆者は、既述の通り、アイデアの量が勝負であることを知っていたので資料の良し悪し、資料の出所などに拘らず、「魚」と聞けば何でも集めた。

 1つのテーマでその量は数千どころか、場合によっては数万になった。その中に「地球の陸地移動」、「淡水魚5大陸移動」という貴重なコンセプトを思い付く情報が含まれていたのである。量が質を凌駕している。

出典:量と質 Theoughtprosess101.wordpress.com
出典:量と質
Theoughtprosess101.wordpress.com

●昭和PJT
 昭和村を如何に具現化し、表現するか? この発想のために、とにかく岐阜県の昭和の時代にあった出来事、その出来事を起こした町や村の実態、昭和村のネタになりそうなエピソードなど何でもかんでも集めた。

 しかもそれらの情報収集中に思い付いたアイデア、その出したアイデアが引き金になって連想したアイデアなどを徹底して書き留めた。更に一見役立たないと思われる様な情報も大事にした。そして集めた情報を保管する一方、出たアイデアを整理しながら考え、考え付いた内容をメモにしたり、その考えを表す絵や写真を集めた。この様な一見無駄と思われそうな作業は筆者だけでなく、部下にも徹底させた。

 昭和村の計画地の形が岐阜県の全体の形と似ている事を「偶然」に発見した事を以前の号で既述した。しかしよくよく考えてみると「偶然」ではなかったかも知れないと今は思っている。

 数え切れない程の様々な情報を集めていた過程で、筆者の頭の中に計画地の形と岐阜県の形が重なり合っていたのではないか。その証拠に筆者の理事室の壁に掲載していた「計画地の地図」と「岐阜県の地図」を何気なく見た時、両者の「相似性(アナロジー)」の存在が向こうの方からこちらに向かって来た」様な一種の錯覚的感覚があった事を今も覚えているからである。

 「優れた発想」を生むためには、一にも、二にも「量が質を決める」と云う事実をしっかり認識すべきである。


つづく

ページトップに戻る