グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第109回)
「立ち止まって物事を考える」が今年の課題

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 12月16日に2016年最後の講義を慶應義塾大学大学院システムデザイン & マネジメント研究科で特別講義として行った。その際タイトルを「グローバルプロジェクトマネジメント・プロデユ―サーからのメッセージ」とした。プロデユ―サーとは不遜であるが、殆ど自嘲気味に云っている。
 毎月の、博士課程生から学部生までに向けた講義と研究指導に始まり、海外の大会で基調講演を4回、最近恒例となった日本政府系機関から受託の海外管理職者の一週間単位の研修、中国ホテルチェイン企業の(時限)コンサルタント、ひいては研究者仲間の就職の手伝い、と種々のことをやっていた。
 このダボハゼ的行動は、年齢的にもう後がないのでやりたいことは何でもやっておこうという意識と、3日間連続で楽をしたら、何かをやる気力が失せるという切ない事情が裏腹となって存在することにある。
 しかしこれでは物事はよく考えられない。知人の知識科学専攻の若い研究者は、大学院生を動員したワークショップで、イノベイティブなアイデアの創出課程の調査を行ったところ、creative leap(これだ、というアイデアのひらめき)に至る前に熟慮(deliberation)の時間を長く取った学生の方が、はるかに高い確率で妥当性がある(appropriate)革新的アイデアを生み出した、と発表している。また、今から10年くらい前まで日本プロジェクトマネジメント協会理事として活躍された天才肌の、化学工学が専門の方は、よい論文を書くにはアイデア(researchable idea)をじっくり発酵させる必要がある、と教えてくれた。発酵とは大変すぐれた類比である。
 わが身を振り返ると、拙速を旨として大量の情報を生み出してきたが、立ち止まって物事をじっくり考えることは、ほとんど行ったことがない。
 今年は、海外学生の指導がかなり減少し(予定)、2か月程度の時間は昨年比不要となるので、少しまとまった取り組みができないか考えている。
 ひとつは、昨年、日本語版で素稿を作り使用を始めた大学院生向けの社会システム論を基軸にしたクリエイティブ・プロジェクトデザイン & マネジメント論の教科書の理論づけを進めることと英語版教科書を作ることで、これは一人でできるので、自分でやる。
 もうひとつは、自分で考えだしたプロジェクトマネジメント論とサービスサイエンスを結合する概念モデルにつきフィールド調査を行い、論文をサイエンスジャーナルに投稿したいということであるが、こちらは一緒にやってくれるフットワークのよい研究者が必要だと感じている。
 では、これまでの旅暮らしはどうなるかというと、これはあまり減らない。学生時代に十時厳周先生(故人)という文化人類学の大家の授業が大好きで、大いなる影響を受けた。その流れで、筆者の元気の源は旅に出ての、いくつかの事象の定点観察にあるので、これを止めてしまうと生きている証とならない。今年の初旅は1月12日深夜からのパリ経由ダカール行きとなる。  ♥♥♥




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