図書紹介
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蜜蜂と遠雷
(恩田陸著、(株)幻冬舎、2016年09月20日発行、第1刷、507ページ、1,800円+税)

デニマルさん : 1月号

毎年11月末に日本出版販売㈱は、その年のベストセラー本を発表する。2016年の第1位は「天才」(石原慎太郎著、5月)で、2位が「おやすみ、ロジャー」(カール=ヨハン・エリーン著、4月)、5位が「嫌われる勇気」(岸見一郎著、2015年3月)で7位が「羊と鋼の森」(宮下奈都著、6月)であった。このコーナーで紹介した本が10位中に4冊も含まれていた。著者名の後に記した年月が、ここで紹介した掲載月である。この連載を始めて20年近いが、これからも色々な意味で話題の本を追い求めたい。さて今回紹介の本は、未だ話題になっていない。しかしピアノ・コンクールという限られた世界を克明に描写し読者をその世界に引きずり込む内容が深く濃い。4人の登場人物と、その彼等が歩んできた世界、それとコンクールで演奏される曲目と選考審査員との人間ドラマも面白い。著者は、山本周五郎賞他幾つかの文学賞を受賞している。今回の本は構想から12年、取材に11年、出筆に7年の歳月を費やした渾身の作品と宣伝され、1頁2段組みで507ページもの長編である。

蜜蜂王子          ――風間塵(かざま・じん、16歳)――
この本の題名の蜜蜂は、登場する風間少年からきている。少年は養蜂を仕事とする親と一緒に移動生活をしている。その傍らでピアノを習っているが、ピアノは持っていない。しかし、今は亡き彼のピアノの先生がその才能を早くから見抜き今回のコンクールに推薦状を送った。その中に「彼を本物の『ギフト』にするか、『災厄』にするかは、我々にかかっている」と、天分を評価している。そして蜜蜂を音符と感じる自然体でコンクールに挑む。

天才少女          ――栄伝亜夜(えいでん・あや、20歳)――
もう一人の登場人物・亜夜は、子どもの頃から天才と騒がれ、CDデビューもしていた。13歳で母親を亡くして、突然ピアノを弾くのを止めた。それも予定されたコンサートをドタキャンして、この業界から自ら葬り去った。しかし紆余曲折があって、このピアノ・コンクールに出場する。三つの予選を無事に勝ち抜き、最後の本戦ではピアノ曲の中でも難曲として知られるプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第二番」を演奏して、審査結果を待つ。

名門王子          ――マサル・C・レヴィ・アナトール(19歳)――
名門王子とは、フランス人の父と日系三世の母との間に生まれたマサルである。11歳でアメリカに渡り、現在名門ジュリアード音楽院でピアノを専攻している。予選から抜群の成績で優勝候補と騒がれ、その上スタイルも風貌も良く、今コンクールの人気を一人占めしている。2週間に亘るコンクールで最終本戦に残る人は、90人中6名だけである。本戦はオーケストラをバックに演奏して優勝を争うのだが、その結果は読んでのお楽しみとする。

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